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剣鬼と呼ばれた戦闘狂、病魔に蝕まれた最弱令息に転生する ~気が高ぶるとすぐ血を吐くけれど、それでも戦いはやめられない~  作者: としぞう


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エピローグ

 それから、また随分と時間が経った。


 生活の殆どは、これまでと変わらない。

 基本はクレセンド家の領内に引きこもりつつ、フィールドワーク。

 たまに領地からお忍びで出て、アズリア同伴兼監視のもと冒険者として小銭を稼ぐ。


 半年に一度は王都の本邸に顔を出し、両親に挨拶する。何かある訳じゃない。心配する母に無事を知らせるくらいのものだ。


 とはいえ、二人には俺の内情の殆どを伏せている。

 前世のこと、エンフィレオのこと、俺の活動のこと。


 ラウダ姉様がどう領内の被害について説明したかは分からないが、少なくとも俺の方まで追及は来ていない。


 エンフィレオのような、聖痕を伴って現代に現れた死者のなり損ないは、『転生者』と呼ぶことにした。

 狩りには対象を正しく認識することが肝要だ。名付けはその第一歩。


 これまでエンフィレオを除き、『転生者』を二人殺した。

 一生に一度も出会えないかもしれないのだ。俺は運がいい。

 アズリアは『それは運がいいとは言いません』と呆れるが。


 転生者の他にも、瘴気の溜まりから発生した魔物を狩ったりもしたが、まぁ、どちらも大した違いは無い。

 アズリア、そして『アンリーシュ』。

 人、武器——どちらの相棒も、十分過ぎて文句のつけようがないくらい恵まれているからだ。


 ある程度無茶したせいで、病状がかなり悪化したり、敵に殺されかけたり……生死の境を彷徨った機会は両手の指で数え切れないほどだ。

 ここ一年は鍛錬より、長生きを重点に置くようになったおかげで病状も落ち着いてきたが、油断すればすぐに発作に見舞われる。


 まあ医者も、「いよいよどうして生きているのか分からない」と白旗を振っているので、限界はそう遠くないだろう。


 悲観は無い。

 とりあえずはひとつ。届くか分からなかった目標に辿り着けたのだから。


◇◇◇


「なぁ、聞いたか?」

「クレ——ごほん。あの『面汚し』のことだろ?」

「ああ」


 二人の少年がそんな会話を交わす。

 いや、彼らだけではない。

 ここ数日、この『アカデミー』内で最もホットな話題がこれだった。


「まさか、アカデミーに入学するなんてな。とっくに死んだと思ってたが」

「お前んちにも情報入ってきてないのか?」

「ああ。伯爵家にも一切入らないレベルだ。相当必死に隠してきたか、それとも……」

「アルマ・クレセンドか……何にせよ、気味が悪いな」


 アルマ・クレセンド。

 その名を知りつつ、忘れていた者も少なくない。


 生まれと同時に重い病気に侵され、クレセンド子爵家を存亡の危機に引きずり込んだという、『クレセンドの面汚し』。


 誰もが死んだと思いこんでいた。

 彼は社交界の場に一度も現れなかったし、彼の姉妹達もその名を口にすることは無かったからだ。


 しかし、今年度のアカデミー入学者の名簿に、確かにその名は記されている。

 しかも——


「実力テストの試験官を勤めた先生、アルマの試験の後から姿消したんだって」

「うそ! 何それ怖……!」

「あれじゃない? 裏口入学的に小銭握らせたとか! じゃなかったら……呪い、とか?」

「ありそー!」


 先の二人とは違う、同じ廊下で別の女生徒達も盛り上がる。

 これはまったく珍しい光景ではない。

 校内至る所で、この話題は展開されている。


 ただ、彼らは特別、運が無かった——


——カツン。


 廊下の奥から、大理石の床を何かで叩く音がした。


 些細な、ありふれた音だが、なぜか存在感があり、彼らは全員、思わずそちらへ顔を向ける。


「う……!?」

「あ……!」


 そして、全員揃って、呑まれた。


——カツン、カツン。


 廊下の奥から、人影がひとつ、現れる。


 音の主は、杖で床を叩きつつ、ゆっくり、ゆっくりと歩いている。

 銀色の髪はあまり艶が無く、くすんだ灰色に見える。

 片目を黒い眼帯で覆い隠しつつ、もう片方の露わになった目は碧色の妖しげな光を放っている。


 弱々しく、足取りは重い。

 しかし、ゆったりと進む姿には、まだ15歳とは思えない雰囲気がある。


 彼ら全員にとって初めて見る顔。

 しかし、アカデミーの制服を纏った彼を見て、全員が、彼こそ話題にしていた『アルマ・クレセンド』であると正しく認識した。


(な、なんだ……!?)

(こわ、い……?)


 彼にも噂話は聞こえていただろう。

 ただ彼には、一切気にした様子もなく、柔らかな表情を浮かべ歩いている。


 それなのに、なぜか、他の生徒たちはまるで蛇に睨まれた蛙のように、背筋を凍らせ、指一本さえ動かせなかった。


 強固な檻に囲われて、大事に大事に育てられた彼らには感じ取れない、死の気配。

 もしかしたら一生巻き込まれる必要が無かったかもしれない殺気。

 それらが空間に漂い、動きも、呼吸さえも制限していた。


 しかし、当然それは彼らに向けられたものじゃない。

 彼は彼らを意識してさえいない。


 見ているものは、唯一つ。


(ククク……臭う……!)


 少年は、まだ見ようによっては天使と形容できそうな顔を、悪魔のように歪める。


(いるな、転生者。 まさかこんなところに居てくれるとは……!)


 彼にとって、目標だったアカデミーはただのチェックポイント。

 踏み抜いたらもう一切の価値を持たない。


 彼が見据えるのは、彼の敵。

 彼と同じ、殺してもいい『死に損ない共』だけ。


(さぁ、待っていろ。すぐに見つけて、地獄に送り返してやるからな)


 彼は口の中に血が滲むのを感じつつ、歩き続ける。

 猟犬の如く、僅かに香る臭いを辿り、獲物を仕留めるために。


 文字通り、血湧き肉踊る戦いを求めて。


 その命が完全に尽きるその時まで。

短いですが、一応第一部完ってところです。

続きを書くかは現状不明です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

よろしければ評価を入れていっていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
面白かった!! 続きがないのが残念ですが、この作品を見つけられてよかったです。
[良い点] 大変素晴らしい作品でした!! これからの続きも是非読みたくなりました
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