34. わたしとカインと快適愛人ライフ
ストック全開放。次回更新は一ヶ月後くらいになりそうです。
左手の薬指にハマったデケェ宝石のついた指輪を眺める。時価何千万円ですか、これを右手の薬指にくくりつけて歩く庶民の気持ちになれ、と隣の男をどつきたくはなるが、腰を抱かれて「もっと高価な指輪の方がいいか?」と囁かれる。
「これがいいです。カイン様から初めてもらった指輪ですもの」
わざとらしくニコッと笑うと、カインが正解だとばかりにつむじにキスをしてくる。それだけでわたしの隣を歩くスノウか「ヴォンッ!!」と吠えた。不機嫌なときの鳴き方だ。カインは膝を折って、「スノウにもキスしてやろう」と無理くり耳元にチューをしている。
スノウの目は死んでいるし、耳はペタンとなってるし、尻尾がピーンと立ち上がっている。素直に可哀想なのでやめてさしあげてほしい。
さて、これ見よがしに王宮の庭園を散歩しているのは「愛人説」の補強のためである。そのためにわたしは豪奢な重いドレスを着て、裾を地面に引き摺る恐怖に溺れながら、高いヒールで優雅に歩いていた。手にはもちろん大粒のルビーの指輪が嵌っている。
おばあさまの淑女教育が今になって生きてきている。もしかしておばあさまもギフト持ちだったりする? 未来予知のギフトとかありそうだしなあ。
それはそうと、後ろをついてきてくれる推しとクリスさんの雰囲気だけが暗い。なんか「守れなかった……」みたいな空気を感じるが、まだわたしは生きているので悲観しないでほしい。名誉は既に死んだが体は生きている。これからどうにでもなるさ、平民だもの。
ただ、これがおばあさまの耳に入ってしまったらと思うと夜は震えて眠るしかない。「そんなアバズレに育てた覚えはない!」と分厚いマナー本で頭を叩かれかねない。命と不名誉を天秤にかけられたなら命を選ぶ孫を許していただきたい。
「しかし、そのペンダントは外さないんだな」
「肌身離さず持ちなさいとおばあさまから言われているのです。母の唯一の形見だから、私を守ってくれると」
ロケットペンダントにしては小ぶりのそれは、わたしが十二歳の誕生日におばあさまに預けられたものだ。確実に開閉式の形なのに、なぜか開かないロケットペンダントである。おばあさまに聞いても「いずれわかる」と教えてくれなかった。
こういうの、たまに変なフラグになったりするからおばあさまが元気なうちに教えて欲しいんだけどなあ。
「家族は祖母だけか?」
「はい」
「母親似なのか?」
カインがそう聞きながらわたしの赤い髪を一房手に取る。いつも三つ編みにしていた髪は解かれて、伊達メガネも取り上げられた。そしてがっつりメイクをされたわたしは、鏡で見ると別人のようだった。
なかなか美人じゃない、わたし? と自画自賛してしまったくらいだ。
村では少ない若者だから「フィナちゃんはべっぴんさんだねえ!」「可愛いねえ!」とよく言われたものだが、あの世代はなんか若い子が一生懸命動いていれば可愛く見えるので信用ならない。
まあ二、三歳児がよちよち歩いていればわたしも微笑ましく見守ってしまうので、たぶんそんな感じだ。
村を歩くだけでポケットがお菓子でパンパンになるレベルなので、若者への庇護欲がすごい。
「……おそらく?」
「顔を知らないのか?」
「……あまりおばあさまが母のことを話したがらなくて」
そしてエイデンおじいさまに聞いても、辛そうに口を閉じるのだ。おばあさまは母の命日になるといつも教会へと赴き、聖典を読み上げている。一人で、粛々と。
──我らが太陽の主ソルデンよ、哀れな魂に永遠なる安息を。彼らの眠りが妨げられんことを。どうか無垢なる魂が風に乗り、主の元へ辿り着くことを祈ります。
わたしはそれに着いていったことがあるが、あまりにも見ているのが辛くて、翌年からは一人で過ごすようになった。おばあさまは夜になる前にはちゃんと家に帰ってくるから、温かなご飯を用意しておくために。
「私と同じ赤毛だったと聞いています」
「名は?」
「知りません」
そう言うとカインは驚いたようだった。たしかに、孤児でないのに両親の名前を知らないなど驚くことなのかもしれない。だが、おばあさまを悲しませるなら聞かなくてもいいとわたしは思っている。
「私ばかり不公平ですよ。あなたの番です」
少し拗ねたように言ってみると、後ろの推しが殺気立った気がした。なんでだ、推し。「他国の王に媚びてんじゃねえよ」ということ? わたしだって不本意だからね!?
でもさすがにレオナルドと推しに「副業として良縁探しを手伝うためにグラニテス王に雇用されました〜」「真実の愛を見つけたくてな」と一応偽装愛人なのは打ち明けてはいるのだが。というかカインの持ち出したこの理由を信じる人、いる? 嘘つけ!! と叫ばれてもおかしくなかったし、レオナルドと推しはよく耐えたと思う。真実の愛ってなによ。
たぶん、二人には悪縁を見抜くために雇用されているんだろうなあ、と気づかれている気はする。だからこそ、推しをがっちりそばに護衛で置くように配置換えされたし。
「それは酒が入らないと教えてやれないな」
「夜に教えてくれる、という意味です?」
「積極的だな?」
壮絶な色気で迫ってこないでくれますか、アッ、クリスさんが剣に手を伸ばした!! この場合切られるのどっち? わたしだったりする??? 殿下の食客でありながらふしだらな!! とバッサリやられる?
「そうだなあ、アンタの好物を食べながら話してやる。もちろん二人きりで。ステーキは好きだろ? ソースは酸味と香辛料の効いたやつ」
「好きです!!」
「魚のソテーも好きだったか?」
「皮目がパリパリに焼いたのが好きです!!」
「もちろんスノウにも、な」
スノウが口の端から涎を垂らし始めた。犬、ご飯の話だけめっちゃ聞いているのはなぜ? 食欲に真っ直ぐでかわいい。
正直なところ、愛人になってから部屋のグレードは上がったしちゃんとした侍女が他に複数つくようになったし、華やかなドレスは着られるし、なによりご飯が美味しいものばかりになったので「あれ、愛人業ってもしかして最高……!?」となっている。
そしてわたしの隣のスノウも舌なめずりをしていた。スノウも気に入ったかな、愛人の飼い犬業が。
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