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推しがうちの玄関にいるけどどう見ても毛虫な件  作者: 乃間いち葉
2章 王太子の食客、メインキャラと遭遇

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22. 推しとわたしと王女と現れない獲物

 

 木枠に吸い込まれたオルテンシアの運命の縁は、真っ直ぐに王都を指していた。灯台下暗しとはこのことで、レオナルドは「今すぐ捕えろ!!」と犯罪者に対するような指示を騎士団に出している。


「オルテンシア殿下、運命のお相手の居場所はわかるのですが、実際に殿下がその方を見つける必要があります」

「はあ? 使えないギフトだな〜」


 言い分はごもっともでもあるが、貴重なギフト持ちなのでもっと優しくしてほしいと思ってしまう。

 おばあさまから「淑女たるもの! 鉄仮面を崩してはいけません!」とそれはビシバシやられた過去があるので表情は崩さない。そのとき十歳のわたしは「村娘です! 淑女はありません!!」と泣いていたし、スノウは部屋の隅っこでできるだけ小さくなって存在感を消していた。


 スノウは本能的におばあさまに逆らってはいけないと理解しているし、わたしは後天的にわからせられたので、スノウと草原で「おばあさまには勝てないよ……」と黄昏た悲しい過去もある。


「ではレオナルド殿下、オルテンシア殿下とともに外出してもよろしいでしょうか?」

「私も行く。見つけたら何としても捕えねば」


 レオナルドはなんなら冤罪でもふっかけてしょっぴいて相手を王城に閉じ込めそうな勢いである。

 見ていて気づいたが、レオナルドは妹であるオルテンシアに非常に気を許しており、そして心配している。

 こいつも根っこは良いやつなのだ。わたしが推せないだけで。


「アシェル! 車出せ車!」

「殿下、死にたいんですか?」


 毛虫の推しにオルテンシアが乗車をせがんでいる。推しも推しで本来の性格通りズバズバ言っており、やはりレオナルドの妹でもあるのか親交があるらしく、気安い雰囲気だ。推しからオルテンシアに伸びる緑の糸がうねうねして、どことなく楽しそう。


 ──というか、やはり推しが毛虫の原因はわたしのギフトによって「縁が可視化」してるからなんだよな。普段は制御可能なのに推しにだけオートで発動している状態だ。カラフルな毛はあらゆる感情を誰かから向けられている──あるいは誰かに向けているからだ。しかしながら、なぜか赤い糸が見受けられない。


 残念ながら、生まれながらに運命の相手がいない人間もいる。それでも普通に幸せに生きることはできるので、わたしの力は人生の選択肢を増やすことに過ぎないのだ。




「殿下、こうビビッとくるような方はいらっしゃいませんか?」

「なに言ってんだお前」

「例えば雷に打たれたような、衝撃的な感じがするお方は?」

「頭大丈夫か?」


 正直大丈夫じゃないし、非常に焦っている。木枠の中に映るスクリーンのマップを、スマホ操作のようにピンチで拡大する。おかしい、マップは正確だ。縁の糸が差す現在地もここ。こんなこと今までに無かったのだ。

 王城を出て、ガタゴト市街地まで来て、広場の真ん中でわたしは首を捻った。物々しい護衛の騎士やフードをかぶったレオナルドとオルテンシアを見て、行き交う人が「事件か?」と遠目に見物している。


「今までの経験談を元にすると、お相手を一目見ただけでわかるらしいのです。この人だ、とか妙にあの人が気になる、とか」

「そんな奴はいない」


 相手に気づいたのに隠している、という様子ではなく、オルテンシアは本気で何も感じていないようだった。マーケットにちらほらと人はいるし、若い男女もいる。

 わたしは目を伏せてから、ギフトを発動する。オルテンシアの左手首どころか体に巻き付いた太い綱を見つめて、先を辿る。しかし、綱の先は半透明になっている。


「相手が移動したのかもしれません」


 木枠に視線を落とせば、綱の先が意思を持って木枠の中に落ちる。指し示した位置はじりじりと広場から離れている。


「東に移動しています」

「……時間がない。一旦引き上げて再度確認しに行く時間を取るから、フィナ嬢は宮殿の一室にしばらくの間滞在してくれ」


 レオナルドの言葉に「お心遣いに感謝申し上げます。オルテンシア殿下のお相手を見つけられるように尽力いたします」とわたしは礼をした。


「骨折り損だ!」

「うるさい騒ぐな」


 レオナルドとオルテンシアが同じ馬車に乗っていくのを見送ってから、わたしもリリさんと一緒に馬車に乗る。座席に座ってから、木枠を見つめて、やはりオルテンシアの赤い綱の先が東に移動し続けるのを眺めた。

 なお、縁の糸を一旦補足した後は、縁の持ち主が離れようがフィナの持つ木枠まで引き寄せることができる。縁の糸自体が不可視で存在も持たず、自由自在に伸び縮みできるがゆえの利点だ。


 東のある地点でぴたりと綱の動きが止まり、わたしはじっとその地点を見つめて、頭に刻み込んだ。




 レオナルドへの謁見は完了したので、スノウを迎えに行く。スノウはデインの隣でまるで護衛のようにキリッとしていたが、わたしを見て口角を上げてヘッヘッと息を吐き出した。尻尾をヘリコプターのように振り回して、わたしに飛びついてくる。


「わ!!」


 さすがに六十キロ以上あるデカイヌに飛びかかれたら倒れるとは道理だが、後ろから肩を支える手に助けられた。感謝を言おうとして、もじゃもじゃと目が合った(合ってない)ので、スッと床を滑るように推しから離れた。


「アシェル様、ありがとうございます」


 これぞ完璧な淑女の笑み。推しは「怪我をせず良かったです」とだけ返したあと、スノウを見た。


「スノウ殿、あなたに飛びかかられたらフィナ様は転んでしまう。王城では非常に危ないため、気をつけてほしい」

「くぅーん……」


 叱られたのを理解して、スノウが鼻を悲しげにピスピス鳴らすと、推しは「……わかればいい、あなたもフィナ様に会えて嬉しかったのだろう。留守番に感謝する」とたぶん手をスノウの頭に乗せて撫でている。真っ白犬がカラフル毛虫に絡め取られている捕食シーンにも見えるが。

 推し、まさか犬好き?


「ああ、アシェル、レオは戻ってきたの?」


 後ろからかかった声に振り返り──この世界の主人公のルシアちゃんがいてわたしは今度こそ倒れそうになったので、スノウが頭で背中を支えてくれた。


主人公登場回。長かったね

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