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02. 推しと攻防

「なんだい、愛人にでもするつもりかい?」


 紅茶を淹れたおばあさまが、白磁のティーカップを音を立てずにテーブルに置いた。あまりの言い草にわたしは一瞬呆けてしまった。グルルゥ、とスノウが吠える。


「おばあさま!!」


 嗜めるようにわたしは呼んだ。不敬が過ぎる。こんな片田舎の農民の娘、愛人にもなれやしない。

 今世はそれなりに美人に生まれたと思うけど、一足飛びに愛人だなんてシンデレラもびっくりだ。

 王族への不敬罪としてこの場でバッサリやられてもおかしくはない。


「とんでもありません。王宮に招く理由は、殿下がフィナ様のご評判を耳に入れたからなのです」


 どうやら受け流してくれるようで、わたしはほっと息をついた。


「評判?」

「縁結びの達人だそうですね。オリビア領主のご息女にも良縁を見つけてくださったとか」

「偶然ですわ」

「ではマルクス伯とミズ・エレーナの良縁は? いまや王都では二人をテーマにしたオペラが大流行りでして。下町でも、劇として多く見られるようです」

「それも偶然ですわ」

「ではミズ・アイラの件は?」


 言知れない圧力を、毛まみれの合間から感じる。顔が見れなくてよかったかも知れない。

 原作でも言及のある推しの鋭い眼力を浴びたら死にそうだ。


 ミズ・アイラ。オペラ歌手として飛ぶ鳥を落としていた彼女は、先月惜しまれつつも引退を表明した。

 外国に行くのだと言っていたが、これは嘘だ。


 本当の理由は、先の王弟と結ばれたため。

 歳の差はなんと十四歳だという。

 平民からスターに成り上がった彼女と、王族の血をひく先王の弟とのラブ・ストーリー。

 おおっぴらにはされていないが、王家では大変な騒ぎになったらしい。

 平民との結婚なぞ論外であるという保守派と、愛があるならいいじゃないか、王位継承権はすでにないのだしとのんびり構える革新派が揉めに揉めたとか。


 これは、あれだろうか。よくも王家の血統に平民の血を入れやがって、という、<結縁師>のわたしへのクレームだろうか。


 いや、知らなかったんだって! わたしの噂を面白がって聞いたミズ・アイラがまさかこんな農村に来るとは思わないじゃん! 


 <見て>から、「おそらくあなたの相手は王都のこの辺、国立海浜公園に近くの浜辺に来ているようです、家がそのへんなんですかね?」なんて言っただけだし! 

 その相手がまさか先王の弟とか思わないでしょうが!


 わたしのせいじゃない!


「……運命のお相手のいた場所を、おおざっぱに伝えただけですわ」


 これは見せしめに吊るされて処刑されるために王都に連れて行かれるんだろうか? 

 正直冷や汗が吹き出しそうだ。おばあさまから汗腺コントロールの方法を教えてもらってよかった。

 最初なに教えてんだ? と疑問だったが、かなり役に立っている。


「運命、ね」


 吐き捨てるように推しが言う。アッ、推しの嫌いワード第一位「運命」って言っちゃった、ごめん! 


「運命を繋ぐというのならば、ぜひ王宮にいらしてその手腕を見せていただきたい」


 言葉にちょっとトゲがあるような気がするけど、仕方がない。推しには複雑な過去があるのだ。

 重い過去があればあるほど推しキャラは輝くと前世は豪語していたわたしだけれど、さすがに今は軽率にそんなことは言えない。

 それより、彼が過去から逃れられていないことがわかってしまった。


「あなたのギフトが必要なのです」


 推しが畳み掛けるように言うので、わたしはため息をつきそうになるのをぐっと堪えた。

 わたしはおばあさまの方を見る。おばあさまは、重く、そしてしっかりと頷いた。


 そうね、おばあさま。

 あなたの言葉はどんな預言者よりも確実だった。

 いつしかこんな日がくると、寝物語のように聞かされたよね。

 まさか王族に呼ばれるとは思わなかったけど。


 わたしは推しを見て、しっかりと言った。

 と言ってもだいたい目があるあたりの位置を見たぐらいなのだけれど。

 目線があってなかったらごめんよ、推し。


「わたしでよければ、連れて行ってくださいませ」


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