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18. 推しと六つ星ホテルとわたし3


「フィナ様は?」

「疲れて寝てしまったようです」


 主寝室の方を見やり、アシェルは頷いた。だいぶ長い旅だ、村から出てきた彼女にとってはめまぐるい一日だっただろう。リリエールがアシェルの方をじっと見てくるので、「なにか言いたいことでも?」と言えば、リリエールはだいぶ言いづらそうに口火を切った。


「副団長は殿下に側室を、という声が大きくなっていることについてご存じですか?」

「ああ、聞いている。殿下は辟易とされているがな」

「いまこのタイミングでフィナ様を殿下の御前に連れていった場合、側室としてみなされるのではないでしょうか」

「……ありえるな」


 アシェルは頷いた。王太子は慣例上、側室を複数持つ場合が多い。そもそも貴族自体、愛人を囲うことが多いのだ。しかし近年は富裕層の人々が爵位を売り買いし、貴族社会へと台頭する中で平民たちの一夫一妻の価値観が混ざりつつある。なので、王族でもないのに一夫多妻など、と白い目で見られるようになってきている最中だ。

 それでも王族は血を繋ぐために側室を持つことは変わらなかった。この価値観が王族まで浸透するには、あと何世紀かかかるだろう。


 それになにしろ、フィナは美醜に疎いアシェルでさえ整った造形だとわかる美しい少女だ。青い目を丸めがねの奥に隠しており、ひっつめた髪でわかりづらいが、王都に行けば貴族の愛人としては引っ張りだこだろう。穏和な農村でのびのび育てられただろうに、綺麗な姿勢で足音を立てずに歩く。そのアンバランスさに興味を持つ人間も多いはずだ。

 美しい平民の少女。この人物をレオナルドの前に連れていくには、あまりにも影響する範囲が大きい。


「……ルシア様の心労にならないか心配だ」

「心配すべきはフィナ様の方では? 平民が王族の愛人だと噂されれば四方八方から害虫が群がりますよ」


 リリエールの指摘はもっともであり、一番にルシアのことを心配してしまったアシェルは自分を恥じた。護衛対象はあくまでフィナ・サルソンひとりなのだ。そしてレオナルドの命により、自分はルシアの護衛を任されていた。それを忘れてはならない。アシェルはくしゃりと前髪を握った。どうしようもないことに心が揺れている。


「重症ですね、副団長」

「ああ、そうだな……返す言葉もない」

「好きなんですか、あのオヒメサマのこと」

「……言い方に棘があるな」

「私の主は殿下なので。ルシア様じゃありません」


 それにあの方は良い子すぎて苦手なんです、とリリエールが言う。

 ツン、とそっぽを向いた顎に、アシェルは苦く笑った。ルシアはとても聡明で優しい姫君だ。ウィリデの国民性かもしれないが、困った人間を見過ごせない。その優しさは、人によっては偽善ととられることがある。


「副団長もフィナ様に運命の相手を教えてもらえばいいんです」

「運命の相手か、そんな人がいるんだろうか……」

「副団長はまじめすぎるんです。いいですか、あんなにモテるんです、運命じゃなくたって少しぐらいつまみ食いしてください」

「不潔だ」

「横恋慕の方が不潔です」

「……返す言葉もない」


 アシェルはフィナの小さな手をふと思い出し、それをたぐるフィナの弧を描く唇が頭に浮かんだ。

 運命。愛。

 優しかった姉の笑顔が脳裏をよぎり、アシェルは小さく頭を振った。

明日も更新予定


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