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15. 推しとわたしとドラゴンとリアリティライン


 ファンタジーの創作物で難しいのは、いかに読者の知識と想像により補完できるラインで世界観を構成するか、ではないだろうか。


 中世のヨーロッパみたいな内装、と書いておけば、精緻で一寸の狂いのない模様が刻まれた、美しい洋式の家具が並んだ部屋を想像するだろう。


 それは真っ白なロココ調の内装かもしれないが、ロココ調という言葉と知らない人間からしたらそれはなんぞや、という話になる。


 そしてファンタジーと銘打った作品なら、読者の中で積み重ねられた下地がそれを補完してくれる。


 それは額に傷のある男の子の物語かもしれないし、指輪をめぐる長い旅の物語かもしれない。あるいは空を飛んで宅配物を運ぶ女の子と黒猫の物語とか、ね。


 つまり、ああいう世界観ね、と理解すれば、杖が光線を吐こうが指輪に執着するモンスターが出ようがいかに箒が重力を放棄していようが、そういうものだと納得するのである。


 とにかく、何が言いたいかと言えば、こうだ。


 読者が納得できないような事象をファンタジーと雑にくくるな、という話である。


「……すみません、あれはなんですか」

「ドラゴン発電所です」

「ドラゴン発電所」

「ドラゴンは地熱を好み、熱からエネルギーを得ます。そしてエネルギーを得たドラゴンは体内で高温を発します。それをあの機械が吸収し、高温の炎を電気に変えます。それを道の下に敷かれた送電線から送り、都市中に電気を供給しています」

「ドラゴンってS級の危険生物では……?」


 村の役場で危険生物についての本があり、読んでいたから覚えている。おっかない生物がいるんだなあ、と他人事のように思ったものだが、まさかこうして実物を見ることになるとは。


「地熱がいきなり消えない限りは大丈夫です」


 推しよ、それは大丈夫ではない。


「いきなり地熱が消えることもあるのですか」

「まだ未知数の発電形式ですので何とも」


 リスクヘッジ! リスクヘッジ! 急募、賢者の再臨!


「ドラゴンの研究学者の見解では、ドラゴンが牙を向くのは己の種族の身が危険にさらされたときのみ、とのことです。おそらく人間側の都合で無理やり追い出そうとしなければ、襲いかかってくることもないだろう、と」

「なるほど、ではある意味永久機関なのかも……?」


 カピバラ温泉ならぬ、ドラゴン温泉。天然の温泉に入るドラゴンは、これ以上ないほどだらけている。すごいな、ぐでんぐでんだ。


「もっと、こう、効率のいい、安全的な発電方法はないのですか?」

「と、いうと?」


 推しの質問に、わたしは腕を組む。前世でポピュラーだった発電方式は、いくつかある。


「火力発電とか。こう、家庭で出たゴミを燃やすとか」

「排煙による大気汚染で各種族に有害では」


 それはそう。


「風力発電とか」

「それも検討されましたが、いかんせんエネルギー効率が悪いようです。あまり風の吹く国ではないので」


 なら仕方ない。


「太陽の光とか」

「なるほど、しかし大規模な機器の開発が必要ですね。それに我が国は国土がそれほど広くないので、場所の確保が必要そうです」


 なるほど、技術開発の資金が大量に必要なのか。ううむ。


「水力とか」

「水力ですか。ヒュドールは水が豊かな国ですが、いかんせん土地の起伏があまりなく、水の落下による位置エネルギーを使うにも適した瀑布がありません」


 たしかに。わたしは頭を悩ませ、そして思い出した。原作では魔法という概念がある。


「魔石とか……?」

「天然資源での魔石は枯渇寸前ですね。人力での魔石生成も可能だったのですが、46年前に魔石生成工場と言う名の微々たる魔力を持つ奴隷を使い捨てた工場が──」

「わーいSDGsなドラゴンすごーい!!」


 ドラゴン発電所なんて原作に出てこなかった。なんという世知辛い裏設定。どの現実でも深刻なエネルギー不足だ。クリーンな発電方法を見つけるのは難しい。


 当のドラゴンはというと温泉に入ってぐでんぐでんになってるしし、さらに温泉から出て濡れた体を外で寝転びながら乾かしているし、なんか野性味を失っている。勝手に整うな。


 しかし、とっても幸せそうだ。


 ある意味これは観光資源と言ってもいいのかもしれない。なるほど、町おこしのゆるキャラみたいなものと考えればいいのかも。経済は回るしエネルギーを確保できるし整うしの一石三鳥ならぬ三ドラゴン。すべてが丸く収まるのである。


 わたしは走行する車の窓からドラゴンたちを見て、これがファンタジーの裏側かと遠い目をした。


 ドラゴン発電所を通り抜けて、市街地の方へ車は進む。馬車が行き交う道は綺麗に舗装されていて、推しの運転技術もあるかもしれないが、走行は滑らかだ。


「本日はここに泊まることになります」


 お高そうなホテルの前で止められて、目玉が飛び出るかと思った。


 スノウは横でごちそうチャンスの匂いを嗅ぎ取ったのか、じゅるりと涎を垂らしていた。



三話連続更新です。王都に一生着きません。

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