表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

14. 推しの部下とわたしと密室トーク


 目が覚めたら、だいぶ王都に近づいていたみたいだ。道が舗装されており、車の揺れも収まっている。リリエールさんに声をかけらるまでぐっすり眠っていた私は、起きてすぐ口元を拭った。推しに涎を垂らしているところを見られたら百万回死ねる。推し、毛虫だけどさ。


 私のお腹の上に頭をあずけて、スノウも良く眠っていたみたいだ。車が止まり、一旦足を伸ばすために休憩することになったみたい。リリエールさんに案内されて、休憩することになった町の公共施設のトイレをお借りした。


 水洗トイレって最高。ありがとう、見知らぬ同胞である賢者様。


 私が神に祈りを捧げながら、手を洗ってハンカチで拭いていると、窓からやはり遠巻きに見られている推しと車が視界に入る。ついでにスノウまでいて、きっと町民からしたら見知らぬ悪魔のような機械と毛虫とデカイヌのスリーショット。

 真昼間から百鬼夜行のような様相である。


「リリエール様」


 同じくお手洗いから出てきて、洗った手をレースのハンカチで拭いているリリエールさんに声をかける。


「どうされました?」

「リリエール様からは、エスティオーレ卿はどういった風に見えますか?」

「……外見の話でしょうか?」

「……不躾ですが、その通りです」

「フィナ様からはどういったように見えますか?」

「……ええと」


 言葉に詰まったわたしを見て、リリエールさんは腕を組む。窓の外では遠巻きに推しを見てキャーキャー黄色い声を上げてる町のお嬢さん方がいる。


「容姿端麗、眉目秀麗。堅物そうな見た目を好まれる方にとっては、理想的な殿方と言えるのではないでしょうか?」


 上司とはいえばっさりと切り捨てるリリエールさんの胆力、やはり推せる。そして推し、普通の人からは毛虫人間に見えないようだった。安心だ。原作で毛虫族とか出てきてないよな……? とちょっと疑ってしまった。


「やっぱりそうですよね……」

「いつか仲良くなったときは、フィナ様にはどう見えているのかぜひ聞かせてくださいませ」


 パチンとウインクでおどけて見せるリリエールさんはやはり素敵だ。私も微笑みながら頷いた。


「フィナと呼んでください。敬称は要りません」

「では私の方もリリと。貴族の出ではありますが、子爵家で貧乏ですので市井の方々と暮らしは大して変わりません」

「貧富は関係なく、わたしたちからしたら尊い血筋に変わりませんよ」

「尊い、ですか。血なんてみんな赤色です。青色だと言うやつがいたら剣で切ってみたいのですがね」


 ぎりぎりの部分をばっさり行くなあ。誰かに聞かれたらまずい話だ。私はさりげなく話題を逸らすため、王太子のレオナルドについても聞いてみることにする。


「ブルーブラッドといえば、まさしく王太子殿下はリリさんの主と聞きましたが、どんな方なんですか?」

「美しい狐、ですね。宮中には狸が多いので素敵な化かし合いがタダで観戦できますよ」


 おおっと! 話題のチョイスをミスったぞ!!


「気づかれたようですね。また今度、密室で女子トークをしましょうね」


 窓の向こうにいる推しの視線がこちらを向いているようだ。スノウがわたしを見て尻尾を振っている。私は変に力が入っていた肩を撫で下ろし、そっと詰まっていた息を吐いた。



 ◇◇◇



「車内が毛まみれでですね、すみません……」


 スノウが大あくびをしていようと、謝るのは飼い主の役目だ。スノウはとても毛がよく抜ける。換毛期なんか家の各所で真っ白白すけが生まれるくらいだ。


 座席にはこれでもかというくらい毛に塗れていて、これはもはやどうにもできないレベルだ。せめてこう、ローラー状になった粘着テープの掃除用品があったらいいのだが、そこまで技術は発展していないので、地道に手で払っていくしかない。


「お気になさらないでください。承知の上でスノウ殿の乗車を許可しましたので」

「そう言っていただけると気が楽になります、ありがとうございます」


 推しの優しさが染みる~。


「次の休憩地点まで三時間ほどかかりますが、体調などは大丈夫ですか?」

「大丈夫です」


 グッと拳を握って見せる。


「そうですか。休憩地点は比較的栄えている都市ですので、そこで宿を取る予定です」

「わかりました。なにからなにまでありがとうございます」

「いえ、フィナ様は殿下の大切なお客様ですので」


 すっかり夕暮れも近い空模様になってきている。


 きっと宿に着くころには夜になっているだろう。毛だらけになったベルトを付けられ、そして猿轡を噛む私を見て、スノウが鼻でフンッと笑った。


 犬、そういう可愛くないところが可愛い。真理。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ