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旅の終着点

スティルス国王は私が暗殺を思いとどまったことに加え、侍女のした罪を被ったことや国の危機を伝えたこと……さらにはレオのために自害までしようとしたことにえらく感動したようで、素晴らしい女性だと感謝された。



シール殿下は全くなにも知らされていなかったので、愛する夫が暗殺されたショックにより一時は寝込んでしまっていた。

あとからことの顛末てんまつを全て聞かされると、スティルス陛下に平手打ちをくらわした。

それは自分が騙されていたことに対して怒ったのではなく、私のことをなんて可哀想にと思ったからなのだという……


「ミリアムさんには大変申し訳ないことをしたわ。私はね、素敵なお嫁さんがレオに来てくれたことが本当に嬉しいのよ?」


ドレン帝国で受けていた酷い扱いについても涙を流して同情してくれ、これからは母も一緒にこの城でのんびり過ごせばいいからねと言ってくれた。




王族や貴族達の目は相変わらず冷ややかだったが、それが普通の反応なのだろう……

認めてもらえるかどうかは私のこれからの頑張り次第である。

そんなに鼻息荒くしなくても大丈夫さと、レオには笑われてしまった。




国民からの反応が一番気がかりだったのだが、真実を知らされても人々は実に寛大で、二人が愛し合ってるんなら俺らがつべこべいうことじゃねえやと改めて祝福してくれた。


レオが国民から愛されているからこそ、快く受け入れてくれたのだと思った。










騒がしかった日々もようやく落ち着き、またいつもの日常が戻り始めていた。


そんなある日、部屋で一人でくつろいでいるとジャンがやってきた。

ジャンはドレン帝国滅亡後にその土地を治めてくれないかと打診を受けたのだが、もうまつりごとに関わりたくはないと言って断った。


今日から放浪の旅に出ると聞いていたから、お別れの言葉でも言いに来たのだろうか……



「ミリアム、今のこの居場所はおまえが自ら掴みとったものだ。よくやったな。」



私をけなすことはあっても褒めるなんてことは今まで一度もなかった。

急にジャンらしくないこと言わないでよと言うと、確かにらしくないなと、フッと口元を緩ませた。


ジャンは最低限のことしかしてくれなかったし話しかけても平気で無視するし、懐かしむような思い出なんてほぼ皆無だ。

でも……もうこれでお別れなのかと思うと、不覚にも寂しくなってしまった。



「まあせいぜい捨てられないようにしろ。おまえはじゃじゃ馬なのだからな。」



……なんだって……?

最後の最後に言うセリフがソレ?!


「なによジャンなんかっ!のたれ死んじゃえ!!」


ほんっっっとにムカつく!

人のこと復讐のために散々な目に合わせといて、悪かったの一言ぐらいあってもよくない?


怒り心頭の私をジャンは子供をあやすようにポンポンとなでると、ボソッと呟き……部屋から出ていった。




……なによっ……





───────幸せにな。





そんなこと言ったって、許してやんないんだから。



やっぱり……ジャンなんか………


ジャンなんかっ………!





「………ジャン!!」





部屋から飛び出し、長い廊下を歩いていくジャンの背中に向かって叫んだ。





「ありがとうっ!」





ジャンがいなければ今の私はない。

ううん、ジャンはこの未来を予想していたはずだ。


だってジャンは……



優しい人だからっ………!






ジャンは後ろ向きのまま片手だけ軽くあげると、なにも言わずに去っていった。
















波の音が二人を包む中、幻想的に沈みゆく太陽が夜の訪れを告げていた。

夕日はなぜあんなにも赤く染まるのだろう……

これから過ごす恋人との甘い夜に、照れているのかな?




「どこへだって連れて行ってやると言ったのに、まさかこんなところで一日過ごすことになるとはな……」


釣り糸を垂らしながらレオはブツブツと文句を言っている。

レオは久しぶりの休みが取れ、お祭りの時にした約束を叶えてやると張り切って聞いてきたのだが、私は近くの海が良いとリクエストしたのだ。

とはいっても、結局なにも釣れないまま一日が終わろうとしていた。


「今日もお魚はお休みですか?」

「ミリアム……それは嫌味で言っているのか?」


貴重な休みだってのにと、またブツブツと聞こえてきた。

そうは言われても行きたいところが思い浮かばなかった。だって私は、レオの隣で居られたらそれだけで幸せなのだ。


岩場からひょこっとアイツが顔を出した。


「わっ、レオっ大きいカニがいるよっ。」

「挟まれるなよ。」


「痛あっ!」

「おまえはバカなのか?」


竿がしなり、糸が切れるんじゃないかと思うくらいにピンと張った。

レオが慎重に糸をたくしあげるのをワクワクしながら待っていると、釣り針には見事な大物が食いついていた。

すごいっ……本当に釣れた!


「見たかミリアム!」


やっと魚を釣って見せれたことがよほど嬉しかったのか、レオは私に向かって高々と魚を持ち上げた。

そのはしゃぐ姿が可愛くって、キュンとしてしまった。

よく出来ましたとナデナデしてあげたい……




そろそろ夕食の時間だと知らせにアビがやってきた。


「アビ、これも刺身にして出してくれ。」


自慢げにレオから渡された魚を、アビは大袈裟なくらい驚きながら受け取った。


「こんな大物を釣り上げるだなんて……レオ様、もうすっかり怪我は完治なされたのですね!」

「ああそうだな。もう塗り薬も包帯も必要がないかもしれないな。」


母を庇って剣で切られた傷は深く、治るのにかなりの日数を要してしまった。

肩を前後に振り回す元気なレオを見たアビは、目を三日月のように細めながらぐふふ~と嫌な笑い方をした。



「では……今夜は久しぶりに燃え上がれますね!精が出るよう肝も調理してもらいましょうっ。」



調理長のとこに渡してきま~すとアビはダッシュで去っていった。


ア、アビったら……

なんてことを言い残していくんだ………


レオは怪我が治るまで医師からは安静を強いられていた。

久しぶりどころか、初夜のやり直しだってまだなのに……

夫婦なんだしそうなるのは当たり前のこと。

でもいざ今夜だとか言われると意識せずにはいられない。


チラリとレオの方を見ると、私以上に真っ赤になっていた。

私達のこのぎこちなさは、いつになったら改善されるのだろうか……


「暗くなる前に戻りましょうか、レオ。」


立ち上がろうとしたら、レオが手を重ねてきた。

触れられた力強い感触に、思わずビクッと体が反応してしまった。




「ミリアム、ビビりすぎだ。」



レオが私の顔を見ながらフハッと吹き出した。

自分だってさっきまで照れていたくせにっ……!


ああもうっ……この笑い方、好きだな。

眩しすぎて胸がカアっと熱くなってくる……


その笑顔を独り占めしたくて軽く頬に触れると、レオも私の髪に触れてきた。




「確かミリアムは激しいのがご所望だったな。」


「レオは、服を着たままがご所望なんですよね?」





二人で笑い合い、そっと……唇を重ねた。












あの時私は死ぬのだと思った。



体中から汗が吹き出し、全身が痺れ、立っていられないほどの酷い悪寒に襲われた。


薄れゆく意識の中で、死ぬことよりも、レオにたった一言……愛していると言えなかったことを後悔した。




でももう、ためらうことは何もない。





「ねえ、レオ。」


「うん?なんだミリアム……」






何度でも伝えよう。



大切なあなたに




『 愛している 』と────────………















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