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◆2話

説明回的なやつです。フワッとしてます

「ふぅん。そっか。それで?」

「あっさりと受け入れたなー。結構突拍子もないことを言ったつもりなのだけれど」

「さっき読んだ紙に書いてあったことだからね」

「紙?」


 はて、と首を傾げる圭哉に紙を返す。


「なんだこれ」


 持ち主であるはずの圭哉がそんな呟きを漏らすので、メイリは眉根を寄せるが、折り畳まれた紙を開いた圭哉はすぐに納得を表情にする。


「あぁ、説明書か! ……って、メイリはこれを読めたのか?」


 そう言って眼前に紙を広げられるが、メイリには当然のように読めない。


「いや、読めないよ。読めたのはもう一枚のほう」

「もう一枚? 見た感じ紙は一枚しかないけれど……」


「これ」


 そう言って、メイリは己の右手首を見せる。そこには刺青のような紋様があるだけであり、紙などないため圭哉はまたも首を傾げる。


「もう一枚は私が読める字で書いてあったんだけれど、最後まで読んだら魔法陣が起動してこうなったのよ」

「へー、魔法陣で、紙がこの紋様に」


 物珍しそうにメイリの腕を見つめる圭哉。


「どんな内容が書いてあったんだ?」

「契約書で『私は世界転移者の抑止力になることを誓います』って書いてあったのよ」

「……それが腕に巻きついてるってことは、契約にサインしちゃったのか?」


 圭哉は、それは少しばかり不用心じゃなかろうか、という目でメイリを見る。得体の知れない男の持っている契約書など怪しさが全開だろうと。


「最後まで読んだら勝手に契約成立したのよ」


 メイリは遠い目をしながら事実を述べた。


「……詐欺では?」

「詐欺よね」


 圭哉はそれが女神によって用意されたものであることを理解しているので、神ならやりかねないと思い、メイリが純然たる被害者であることを理解する。


「まぁ、これが全部あなたの仕込みである可能性も考えられるのだけれど……」


 メイリは己の腕に刻まれた魔法陣を眺める。強力過ぎるということを除けば、おかしな点のない主従契約の証だ。


「草原に突き刺さったり顔殴られたりした挙句に、自分に不利な一方権限の契約を結ぶのはあまりにも意味がないというか不明というか……」

「一方権限ってなに?」

「殉死の強制と、行動制限が出来るのよ」


 今どき、奴隷だってここまでの契約は結ばないだろう。


「え、なにそれ……。それで俺に対するメリットってなに?」

「ないわよ。一方だって言ってんでしょ」

「人権侵害では?」


 地面に手と膝をつき、本気で落ち込んでいる圭哉を見てメイリは少しばかり同情してしまう。あー、こいつも被害者なんだなぁと、そんなことを思う。


「とりあえず、ケイヤの目も覚めたことだし、街に行きながら話さない? それとも、ケイヤはこれから何か用事があったりする?」


 そう尋ねてはみるが、断られることはないだろうと確信していたりする。一方権限の契約による殉死のこともあるので、圭哉はメイリから下手に離れられないのである。


 さらに、伺ってはいるが、メイリとしては従わせることも出来るのだ。それでも、こうして圭哉本人の意思確認を行っているのは、メイリの人間性が温厚であるからに他ならない。


 メイリの立場としては、ある日突然、己にとって不利益のない召使ないし奴隷が一人手に入ったようなものである。


 ただ、メイリ自身の本音としては持て余す存在でしかなく、出来ることなら契約も解消したいのだが、契約はすでに締結されており、強力であるが故に解除出来ないし、仮に無理に解除したとしても契約不履行による罰則が待ち受けている。


(強力だから、不履行による罰の反動も洒落にならなさそうなのよねー)


 総じて、メイリ自身にはあまり不都合が無いのだが、目の前の少年には不都合が溢れているという状態だった。


 さらには言を信じるなら、少年は違う世界からやって来たと言うし、それが本当ならこの少年は頼るあてもないことになる。


 そして、そんな人間を見捨てることができるほどメイリの人間性は劣化していない。


「メイリがそれでいいなら、俺としては助かる」


 圭哉もまた己の状況というのを考え、現時点でメイリに伝えてる内容が不十分でありながらも、それらを踏まえて圭哉が困らない選択肢を提示してくれていることを理解した。



 ×××



 草原から街道に出て、二人は連れ立って歩く。


「車に轢かれて、目が覚めたら女神様がいて、なんやかんなでこの世界に飛ばされたと。無茶苦茶な存在ね」


 圭哉から大まかな経緯を確認して、メイリは素直な感想を漏らす。


「異世界から来たって部分にはそんなに驚かないのか?」


 それは女神の横暴に対するコメントであって、異世界で一度死んで、こちらの世界へと飛ばされた話についてのコメントではなかった。圭哉としては全てが荒唐無稽なのだが、メイリは圭哉が異世界から来たことに対しては特に思うところがなさそうに見えたのだ。


「異世界って発想がないから、驚きようがないのよ」

「発想がない?」

「んー、私たちの一般的な認識としては、私たちが住むこの世界と、神様たちが存在する神界までは認識してるのよ。でも、それとは別に私たちと同じような人間が存在する全く別の世界ってのを考えられたことがないわけ」


 ——いや、もしかしたら考えられたことはあるのかもしれないけれど、それは一般的になってないのよ。


 と、メイリは付け足す。それを聞いて、圭哉は妙に納得をする。思うところがないのではなく、思ったことがないからこそ言及できなかったのだ。


「とはいえ、別にそれがおかしいかと言われると、別におかしくもないのよね。まぁそういうのもあるのかもしれない。そんな感じよ」

「あっさりしてるね」

「それこそ女神が連れて来たって言うのなら、説得力もあるからねー」

「それこそ嘘かもしれないのにか?」

「そこに関しては、これが証拠になるからね」


 そう言ってメイリは自身の右手首を示す。そこには赤いリボンが巻かれているが、その下には契約の紋様がしっかりと刻まれている。


「契約の証が?」


 圭哉もまた、己の右手首を見る。そこには包帯が巻かれているが、その中にはメイリと同じように契約の紋様が描かれている。

 見る人間が見れば分かる代物であるため、隠した方がよいというメイリの判断である。


「神位級なのよ。人間が施せる契約じゃない」


 さらには、魔法陣があの紙一枚に収められていたという事実がメイリの確信を補強する。大魔導師と呼ばれるような人々が集まり、大規模で入念な準備を行えば或いは可能なものかもしれない強力な契約。だが、それがこんな紙一枚で、契約者に対して理不尽な同意を強いるような形で成立させるのがおかしいのだ。


 それ故に、メイリはこれが神の手によるものであると言われれば、それこそが一番納得できることだったのである。


「それに、私が嘘をつくなって言えば、ケイヤは嘘をつけなくなるからね」

「……そういえばそうだった」


 そう言いつつも、メイリはその命令をしない。メイリとしては嘘でもあまり困らないし、無理に疑って関係が悪化するのも避けたかったからである。


 なので、メイリはそこで話の方向性を変えることにした。


「それでさ、ケイヤは女神様から使命を受けてやって来たわけだけれど、ケイヤは何ができるの?」

「なにって……なに?」

「魔族を減らすのでしょう? わざわざ女神様が連れてくるってことは、何かすごい力とかを持っていたりするんじゃないかな?」

「俺の世界には魔法もなけりゃ超能力だって眉唾物だったわけで、そんな世界から来た俺にそんな力だとかはないんだけれどなー……、あ」


 と言いつつも、圭哉はすごい力のあてがあることを思い出す。ポケットにしまっていた説明書を取り出し、広げて読む。


「なになに、現地の人と契約を結ぶことによって、筋力増強、頑強上昇、五感の向上、対魔力耐性の獲得、その他諸々が得られます……以上」


 え、そんだけ? と圭哉は漏らす。


「もっとこう、なんか伝説の武器だとか召喚獣とか大魔法とかが使えるようになるとかは?」


 希望を捨てきれない圭哉は紙を裏返したり日に透かしたりして隅々まで確認するが、それ以上のことは書かれていなかった。


「嘘だろ……? 魔法を使えるようになるのかとワクワクしていたのに、この仕打ちなのか……?」


 本気で項垂れる圭哉を見て、メイリは首を傾げる。


「ケイヤ、魔法や魔術が使えないの? ……そういえばさっき、俺の世界には魔法もなけりゃって言ったね」

「そうだよ。俺の世界はそういうのが空想上の存在になってる」

「へー」


 メイリとしては、魔術や魔法が存在しないという状態が直感的でなく、うまく理解できなかった。それは手足を動かすことや、食べ物を食べることや、息をすることや、考えることと同じで、当たり前のことで当然のことだったからだ。


 それになにより——


「でも、ケイヤには魔術の才能があると思うよ?」


 メイリから見て、圭哉には魔術の才があるように見えたからである。


「そうなのか?」

「うん。魔力の流れがはっきりしてるし、使い方さえわかれば使えるんじゃないかな」


 魔術は本能的なものではない。教えられなくても人は手を動かし、足で歩き、頭で考え、活動のために食物を口にする。それらは人が積み重ねによって元から持つようになった本能だが、魔術は違う。


 どれだけ才があろうと、能があろうと、使い方を知らなければ、使いようがないもの。


 もしかしたら、ケイヤが居た世界では魔術が一般的ではなかっただけで、存在したのではなかろうかとメイリは推察する。それ故に、一見して才能を感じさせるケイヤは、知らないがためにその才能を腐らせてきたのかもしれないと、そう考えた。


「マジで?」


 明らかな喜色を浮かべる圭哉。先ほどから悲観的な表情が多かった少年がやっと浮かべたその明るい顔を見て、メイリは少し安堵する。


「本当だって。あとで基本から教えてあげるよ」

「わーい!」


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