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京都の王〜THE KING OF THE CAPITAL〜  作者: 宇井九衛門之丞
第1章 令旨(以人王編)
10/62

#10 突破〜THE EATER BREAKING THROUGH〜

「おのれ……一国半兵衛え!」

「すまねえなあ……でも、都を脅やかすあんたには従えねえ!」


 間合いを取り睨み合いつつ。

 半兵衛は以人王に、改めて言う。


 どこかより、京の都にやって来た半兵衛は。

 なけなしの銭を叩いて曰くつきの刀・紫丸を刀屋のオヤジより買う。


 しかし、そのすぐ後に中宮・聴子が妖である鬼に襲われかけている所に出くわし。


 そのまま、かつて見た夢に導かれるがままに曰くつきの刀――妖喰いというらしい――紫丸を振るい鬼を喰らう。


 が、そのすぐ後に腹が減っていたことを思い出し。

 倒れた。


 そうして、聴子を案じてやって来た父・清栄の計らいにより静氏の屋敷へ担ぎ込まれ、もてなしを受けた。


 そうして次の日には、清栄は半兵衛を帝に目通ししたいという。


 しかし、その矢先。

 もてなしを受けた日の夜、半兵衛は来た日に市場で揉めた静氏一門の従者の一人・金助に襲われる。


 終いには謎の札の力により、鬼に変じた金助を半兵衛は紫丸にて喰らった。


 そうして、帝への謁見を迎え。


 楽士らの謠による歓待を受けるが、その楽士の一人の名が弘人――半兵衛がよく見る夢に出て来る、妖喰い使い――の名を持っていることを知り驚いていた。


 更に、これまた夢の中に出て来る水上兄弟が誠におり。


 また、夢の中にて半兵衛が"中宮"と呼んでいた者と同じ声の光の中宮なる者もいることを知り。


 未だ同じく夢に出ていた夏という娘が誠にいるかは分からぬものの。


 半兵衛は、自らが正夢を見ていたと知るのであった。

 しかし、その謁見の最中だった。


 金助と同じく、半兵衛と市場にて揉めた静氏方の従者・白吉が現れ。


 これまた金助と同じく、おかしな札の力により妖に変じたのである。


 半兵衛は躊躇いつつも、そこへ現れた中宮・聴子を守らんという思いから白吉の変じた鬼を斬る。


 そうして、後日。

 半兵衛や水上兄弟を、都を守る任に据えようという話が持ち上がり始める中。


 以人王は、かつての泉氏が総大将・義暁の十男たる雪家を召し出し。


 自らの"令旨"を津々浦々の泉氏勢力やその他静氏に叛意を持つ者たちに送らせ、挙兵を促そうとしていたが。


 雪家の動向は、熊野の重役たる湛曽に知られてしまい清栄に以人王の叛意を知られてしまう。


 そのまま以人王の捕縛へと向かう静氏の兵らに、半兵衛も同行する筈であったのだが。


 にわかに襲って来た妖を斬った折に出て来た文を読み、大内裏に急いだ。


 それは、影の中宮が中宮を殺そうとしているというものであった。


 何とか間に合った半兵衛は、影の中宮との鍔迫り合いの末。


 互いに手傷を負う形になりながらも、何とか"痛み分けに持ち込んだかに思われた。


 しかし、それも束の間。

 半兵衛は影の中宮が刃に塗っていた毒に倒れ、眠り込んでしまう。


 そうして以人王の下に連れてこられ、力添えを迫られるも。


「あくまで……そなたも私に楯突くというのか!」


 以人王は吼える。

 半兵衛に向ける目は、苦々しい。


「ああ……それはもう幾度も言った通り! 変わらねえもんは変わらねえからなあ!」


 半兵衛は、毅然として返す。


「……ふん! だがよい。先ほども言いし通り……ならばこの妖喰いは、私が使うまでよ!」


 以人王はそのまま、傍らの紫丸に手を伸ばしかける。


「……来い、紫丸!」

「!? な!」


 しかし、半兵衛が唱えるや。

 紫丸はにわかに蒼き殺気を眩く輝かせ、消える。


 かと思えば、半兵衛の手元に。


「く……その妖喰いは、そなたが手元に呼び出せるのか!」

「ああ……その通りさ!」


 以人王は問いつつ、尚も半兵衛に刃先を向け。

 半兵衛も答えつつ、腰に紫丸を挿し。


 そのまま柄に、手をかける。


「その棒を壊せば……妖は操れねえんだよな?」

「ふふふ……はーははは!」

「な……」


 半兵衛の問いに、以人王からは高笑いが返る。


「何がおかしい?」

「ははは……半兵衛よ! よく考えよ、これは確かに妖を操るためのもの。いわば妖が誠であれば暴れるを御し、宥めすかし使うためのものよ。……それを壊せば、どうなる?」

「……くっ!」


 以人王の問いに、半兵衛は歯軋りする。

 以人王の棒を壊せば妖を御すものが失われるということ。


 それはすなわち、今仇と味方を見分け人を襲っている妖らが、見境なく人を襲い出すということでもある。


「……だったら、先に外の妖共をやる!」

「ははは、そうはさせぬ! ならば……この棒を私諸共斬ってからにせよ!」

「……そう来たか。」


 今にも飛び出さんばかりの半兵衛に、以人王は棒を掲げて言う。


「……今のあんたは人だが、妖を使って都を脅かす奴だ! 今のあんたを紫丸で斬っても……誰も何も言わねえだろうさ!」

「ふふふ……中々の強がりであるな半兵衛よ! しかし……妖に変ぜし人にすら躊躇いしそなたが、誠に生身の人を斬れるというのか?」

「……くっ!」


 半兵衛はまたも歯軋りする。

 大内裏を襲った、白吉が変じた鬼。


 あの時のことを言っているのである。


「見ていたぞ……あの時、清涼殿の上からな!」

「なるほど……あん時も、あの白吉さんを鬼に変えたのはあんたか!」


 半兵衛は叫ぶ。

 ならば、金助も。


 それを問わんとするが。


「いいや、あれは……影の中宮一派が力添えしてくれしお陰よ!」

「むう……そうかい。」


 以人王は得意げに語る。

 そして、妖を操る棒を自らの前に構えて見せる。


「まあ、何でもよい! さあ半兵衛……斬れるならば斬って見せよ!」

「……ああ、分かった!」


 以人王は再び、半兵衛を煽る。

 半兵衛は紫丸を構え直し。


 もはや、躊躇うまいとばかりに以人王に応える。

 そして。


「……はああ!」

「ほほう……よもや口ばかりかと思えば、それは杞憂であったか!」


 弾かれたが如く間合いを詰め始める半兵衛を、以人王は面白がる。


 さあ、自らを斬って見せよ――

 以人王は尚も目と今の構えにて半兵衛を煽る。


 半兵衛も尚、躊躇わず。

 そのまま、以人王との間合いが詰め切った所で紫丸を振り上げる。


 今にも、斬らん勢いである。

 が、次の刹那。


「……おうりゃ!」

「ぐっ! ……な!」


 以人王は半兵衛の攻めを喰らい、押し除けられる。

 が、斬られたのではない。


 半兵衛は以人王に紫丸を振り下ろす刹那、紫丸をくるりと半ば回し。


 そのまま、峰にて以人王の腹を打ったのである。


「なっ……峰打ちなどと!」


 以人王は振り向き、半兵衛を睨む。

 既に半兵衛は、堂より出る襖に手をかけている。


「ああ、すまねえな以人王さん……やっぱりあんたは人だ。妖喰いでなくとも、俺が斬れるもんじゃねえよ。」

「……私は、斬るまでもないというのか!」


 以人王は尚も半兵衛を睨む。

 つくづく、この男は自らを愚弄してくれる。


「ああ……まあ、そうとも言うな。」

「……おのれ、半兵衛!」


 以人王はまた、刃を構える。

 もはや此奴は――


 しかし。


「悪いな、重ね重ね!」

「くっ! ……おのれえ!」


 以人王が斬りかかるが、半兵衛は素早く襖を開け外に出た。


 以人王の刃は、空を斬る。


「おのれ……おのれおのれおのれえ!」


 以人王は、斬るべき者がいなくなった刃を持て余す。


 ◆◇


「あ、兄上え!」

「情けなき声を出すな重平! ……とはいえ、このままでは……」


 宇治川にて。

 向岸に陣取る頼益方を睨みつつ、人が越えられぬ川を越え自らの軍に襲いかかる妖たちを。


 静氏方の将たる知栄・重平は相手していた。

 しかし、所詮妖喰いもなしに相手し切れず。


 兵らは、切り崩されつつある。


「このままでは……」

「兄上、危のうございます!」

「!? 何……くっ!」


 知栄が弟・重平の言葉に顔を上げれば。

 妖の一つ・化け猫が自らに襲いかかる。


「くっ、おのれ妖物めえ!」


 知栄はせめてもの抗いに、刃を向ける。

 しかし、このままでは――


 が、そこへ。


「……おうりゃあ!」

「な……あ、妖が!」

「は、半兵衛殿か!」


 化け猫は、にわかに真っ二つとなる。

 後ろから化け猫を屠ったのは、無論半兵衛である。


 あの川を、頼益方の後ろより飛び上がり越えたのである。


「うおりゃああ!」

「ひいっ! ……す、すまぬ!」


 半兵衛は、化け猫のみならず。

 見えるだけにても少なくはない妖らを、次々と屠って行く。


「半兵衛殿!」

「ああ……大将さん方! 妖は俺に任せて、あんたらは戦に専念してくれ!」

「うむ……かたじけない!」

「よし、皆起きよ! 今こそ謀反人を!」

「お、応!!」


 半兵衛の言葉に、知栄・重平は俄然勢い付き。

 そのまま兵らを、奮い立たせる。


「な……あの光は、妖喰いか!」

「一国半兵衛……いつの間に!」


 向岸にて、仲網と兼網は歯軋りする。

 馬鹿な、半兵衛が舞い戻るとは。


 しかし、今憂慮すべきはそれだけではない。


「我が子らよ、川を見よ!」

「父上! ……な! あれは!」


 頼益の呼びかけに、仲網らは目を疑う。

 静氏軍は、宇治川の急流に馬を乗り入れ。


 力押しとばかりに、川を渡り始めたのである。


「くっ、おのれ!」

「待て! 奴らが川を渡り切るはすぐであろう、妖の力が長く保たなかったが故に奴らの力はそこまでは削げずじまい。ならば……ここは、平等院まで兵を引くが上計である!」

「父上……」

「……止むを得ませぬな!」

「皆、平等院まで引く! 以人王様を、近くにてお守りするのだ!」


 頼益とその子らは、川辺より平等院へ引いて行く。


「逃すな、追え! 平等院に隠れ潜む以人王の首、何としても取るのじゃ!」

「エイエイオー!」


 既に勝ちは決まったとばかり、知栄の呼びかけに兵らは勝鬨にて答える。


 そのまま兵は、川を難なく渡って行く。


「えいや! ……これで、全てか。」


 半兵衛は、妖を喰らい尽くす。

 紫丸の刃は、すっかりその名通り紫に染まっていた。


「いや……まだ隠し玉があるかもしれん。おうい、俺も行くよ!」


 半兵衛も、慌てて静氏軍を追いかける。


 ◆◇


「も、以人王様……せめて、あなた様のみにてもお逃げください!」


 頼益は息も絶え絶えに、燃え盛る堂の中にて以人王を促す。


 平等院まで追い詰められた頼益方は、死を恐れず奮戦するが。


 やはり、数の差は如何ともし難く。

 仲網や兼網も、先ほど討ち死にしたばかりである。


「うむ……頼益よ、よくやってくれた!」


 以人王はそう言うや、堂を飛び出す。


「それでよいのです……さあ、静氏共! この命も首もくれてやろう、だがせめて! 以人王様を守り切ってからとする!」


 頼益は虫の息とは思えぬ叫びを上げ、再び戦場へと突き進む。


 しかし、やはり敵わず。

 そのまま頼益は、自害して果てた。


 ◆◇


「ははは! どうじゃ、見たか謀反人共め!」

「天下の静氏一門の力を舐めるな!」


 頼益方が倒れて行くのを見て、知栄と重平は大笑いする。


「これが戦か……なるほどな。」


 静氏軍の陣より半兵衛も、その惨たらしい有様を見つめる。


「と、知栄様! 以人王が僅かな守りを引き連れ再び逃げた模様です!」

「何!?」

「あ、半兵衛殿!」


 従者よりもたらされた報せに、知栄らは驚くが。

 半兵衛が、徐にその従者の馬に乗った様を見て更に驚く。


「悪い、大将方よお。俺、やっぱりあの人と死合わねえといけねえ!」

「ま、待て半兵衛殿!」


 半兵衛は、そのまま馬を走らせて行ってしまう。


 ◆◇


「も、以人王様! 追手が!」

「くっ……やはり追いつくか!」


 以人王は僅かな従者らを率いる道すがら、後ろを振り向き眉を顰める。


 が、その時。


「……! 半兵衛じゃ! あの者まで来るとは……いや、むしろ好都合か!」


 以人王は遠くに半兵衛の姿を見つめ、一時歯軋りする。


 しかし、すぐに口元を綻ばせる。


「……聞こえているか、薬売りよ! ……私を、あの白吉とやらと同じく妖に変えよ!」

「!? も、以人王様何を!」


 にわかに妖を操る棒に向かい叫ぶ以人王に、皆驚く。

 何を言っているのか。


 と、その時である。


「ぐっ! ……なるほど、これが妖の力かあああ!」

「ひいい、あ、妖い!」


 従者らも驚いたことに。

 棒より凄まじき妖気が放たれ。


 以人王は瞬く間に爛れた肉の塊となり。

 やがてそれは、形を変えた。


「……以人王さん、あんたそれでいいのかよ!」


 遠目に見えるその有様に、半兵衛は眉を顰める。

 都を脅かすならば、妖と同じ。


 半兵衛にかつてそう言われたが。

 果たして以人王は、その言われた言葉通り妖・鬼へと作り替えられてしまう。

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