10. 暗闇の狩人(5)
昨夜、何かがあったらしい。家にいた私と仁穂ちゃんは何も知らない。事務所にいた皐月くんとイチくんは口止めされているからと教えてくれない。
ただ一つ違うのは、佐賀さんだけがいないことだ。私が仁穂ちゃんと出勤したときにはもういなかった。
「麻野さん絡みですよね?」
そう聞くと皐月くんは小さく頷いた。本当にあの人は仕事人間だな。
「社長はしばらく帰って来ないかもしれません……」
「何か悪いことしたんですか?」
そう聞いて私ははっとする。
「もしかして昨日のセクハラ⁉」
「それではないです」
食い気味に否定する皐月くん。
麻野さんに連れていかれて、しばらく帰って来ないような事情って何だろう。仁穂ちゃんは興味がないのか、買ってきたコンビニのプリンを食べていた。
「大丈夫ですかね……」
私はもう一つ気になっていることがあった。それは部屋の中の変化だ。昨日とは若干物の配置が変わっている。まるで誰かが部屋中を捜索したかのように。
普段この部屋の掃除をしているから荷物が多いことはよく知っている。その大量の荷物の中から何かを探して元通りに片付けるには三人だけじゃ時間が足りないだろう。
他に誰かが入った……。
そう考えるのが自然だ。誰かがここに入り、何かを探して、片付けて去った。皐月くんたちが口止めされていることの中に含まれているかもしれない。だとすれば、彼らに高圧的な態度をとれるのは麻野さんたち組織の人間だろう。
今までこんなことはなかった。
もしかしたら私の知らないところで何か大きなことが起こっているのかもしれない。
「隠すことじゃないでしょ」
プリンを食べ終えた仁穂ちゃんが口を開いた。
「大規模な事件とか起きたりすると、いつもあいつは連行される。力を借りたいとかいう表向きの理由をぶら下げて、殺人の容疑者であるあいつが関わっているんじゃないかって嫌疑をかけられる。昔からね」
口止めされていることをあっさりと話してしまった仁穂ちゃんを前にして警備員が慌てていた。
「言ったら怒られる……」
「ここで働いていたら嫌でもいつかは知る。そのいつかが少し早まっただけ」
だから、部屋が漁られていたのか。その理由に胸が苦しくなる。麻野さんだって苦しんでいることだろう。
「あいつだけはこっち側の人間じゃないのに」
ボソッと聞こえた仁穂ちゃんの言葉。
「佐賀さん、早く帰って来られるといいね……」
相手は警察官。対するこちらは犯罪者。私たちはなす術もなくその時を待つことしかできなかった。
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