7. 愛情の向かう先(6)
「迷惑かけて悪かったわね」
相変わらず彼女は偉そうにソファーに腰かけてワイングラスを持っている。未成年なので、中身はただのぶどうジュースだが。
昨夜の間に勤さんとは和解できたらしい。疑われてしまうような行動は軽率だったけれど、こそこそと嗅ぎまわるような行動はしてほしくないと言われたそうだ。彼女は頬を赤く染めて教えてくれた。
「僕らはもう用済みですかね?」
半ば惚気話みたいになってきたので、いい加減佐賀さんが口をはさんだ。
「ええ。帰りの便は用意しておくわ。あと、報酬も」
「それはいただけません」
「なぜ?」
「僕らは依頼に何一つ貢献できませんでしたので」
心さんは立ち上がりお金が入っている封筒を佐賀さんの懐に入れた。
「封筒、もうゴミだから捨てておいて。どうせだったら東京まで持って行ってからね」
お疲れ様、と言い残してお嬢様は別の部屋に去って行ってしまった。なんてかっこいいんだ。
「飛行機ですが、あと一時間後に出発する便が取れました」
黒いスーツに身を包み、スキンヘッドにサングラスまで装備している強そうな側近が親指を立ててこちらに笑顔を向けた。
「どうしてこんなに時間ないんですかね!」
「ゆっくりお土産くらい見たかったよ」
大急ぎで屋敷を飛び出していったんホテルに戻る。スーツケースに荷物を詰め込んだ。ぐちゃぐちゃになってしまったし、忘れ物をしていないか不安だ。
「行くよ、あすみさん!」
先ほどの黒スーツの人が車で迎えに来てくれている。このホテルで黄色いレンタカーとはお別れだ。
「飛ばしますよ!」
焦げた肌から覗く白い歯が輝いていた。
せっかくの沖縄をもう少し満喫したかったところではある。郷土料理や名産物も食べたかったし、少しくらい観光だってしたかった。空港以外でもお土産を見たかった。
「お二人にお幸せにとお伝えください」
「ありがとうございます。お気をつけて」
「お世話になりました」
手短に別れの挨拶をして急いで空港の中に入る。まだまだ未熟な夫婦が幸せな記念日を迎えることを心から祈りながら、私はこの島に別れを告げた。
「ああ、早く早く。仁穂ちゃん帰ってきちゃいますよ」
「ちょっと待って下さいよ……」
「ケーキ買って来たよー」
こつん、こつん。階段を上ってくるローファーの音がする。私は素早く二人にクラッカーを渡した。
「用事ってなに……」
パーン。
ドアを開けた途端鳴り響いた音。スマホを片手にびっくりしている仁穂ちゃん。そんな彼女にクラッカーから飛び出た紙テープが降り注ぐ。
「お誕生日おめでとう! 仁穂ちゃん‼」
これからはずっと私たちが一緒にいる。
もう、一人じゃないよ。
お読みいただきありがとうございます。七話はこれにて完結になります。




