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0.〝運命〟の出会い

 街灯の少ない道を私は歩いていた。思いが溢れて止まらずに、でも悔しくて、声を殺して零れ落ちる涙を拭っていた。誰かに聞かれてたまるか、見られてたまるか。それが私のせめてもの意地で、わざわざいつもと違う帰り道を選んだのだ。


 悔しい。


 納得はした。あのままだったら私はきっと死んでいた。私が私でいるためにはこうするしかないとは思った。あの優しい上司に「辞めます」と言ったのは苦しかったけれど。


「嫌だなぁ……」


 震えた声は煌々としている半月に吸い込まれていった。少し熱を帯びた鼻を擦る。こんな日でも月は変わらずそこにあって、欠けたり満ちたりを繰り返すんだ、道を見失うことなく。私だけが今日と違う明日を送るんだろう。


 ああ、駄目だ。完全に悪い思考だ。


 私はその場にしゃがみこんで膝を抱えた。嫌い、嫌い、あんな奴ら大嫌い。でも、こんなことを考える自分も嫌い。納得したようで、やっぱり納得できない自分が嫌い。服を、腕をひっかくように握った。

息ができなくなって。だから勢いで仕事を辞めて。明日からの暮らしも何もないくせに。私なんてこの身一つしかないくせに。

でも、だからか。せめてこの身だけでも失ってたまるかと思ったのは。


「これからどうするのよ……」


 まずは家を出ないと。近所に同じ会社の人がいるから。俯いていては駄目、前を見ないと。

 私は顔を上げる。その時に初めて気が付いた。すぐ左の花壇に不自然に紙が貼ってあった。手帳の一ページみたいな紙切れは乱雑にもガムテープで留められていた。大きくはないその紙はお散歩中の犬に向けたものなのでは? と疑いたくなるくらい地面の近くにあった。座り込んでいなかったら間違いなく気づかないだろう。


「『サガシヤ清掃員募集。業務内容は清掃と簡単な業務補佐。希望者はこの紙を持って事務所まで面接に来てください。履歴書不要。』サガシヤ?清掃員?」


 一通り読んでみたがバイトの募集にしては雑すぎる。こんな店があるなんて聞いたことない。


「来てくださいって、どこにあるのよ……」


 風に煽られてパタパタと紙が揺らめく。取って、まるでそう訴えているように感じた。月の淡い光が紙を照らして、裏側に何かが書いてあることを知らせた。私はゆっくりと裏側を見た。

 そこには地図が書かれていた。情報の少ないシンプルな地図。『ここ』と書かれたバツ印がついていたところは、私のランニングコースの途中にある洋服屋さんがあるところだった。見たことのある店じゃないか。

 私は明日から無職で、知っている店が求人を出していて、面接にはこの紙が必要で。あれ、もしかしてこれって運命なんじゃないだろうか。これを運命と呼ばずして、他にそう呼べるものがあるだろうか。


 先ほどまでの感情も、この紙に対しての不信感も忘れて何だか気分が上がった私は勢い良く立ち上がった。明日ここに行ってみよう。きゅっと握られた紙は手の中で少しだけ音をたてて歪んだ。

お読みいただきありがとうございます!少しずつの更新になりますがよろしくお願いします。

感想やブックマークをいただけると大変嬉しいです。お気軽にお願いします(__)

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