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6.私、プレゼント用意しました

白馬の王子様?

ここは確かにお伽噺のような世界だが、さすがに平民の街に高価な白馬などはいない。

ましてや王子様などはこの街にやってきたりしないだろう。

何を言っているんだパパは?

意図が掴みきれず、首をひねっている様子を父は楽しそうに見つめていた。

それから1時間ほどであろうか、やることもなくテーブルに突っ伏しそうになりながらウトウトしていた時だった。

コンコンと玄関の扉を叩く、控えめな音が聞こえた。


「シャル、起きて王子様の到着よ」


エプロンで手を拭きながら母が玄関に向かう。

父の方を見るとニコニコと私を見ていた。


「すみません、こんな時間に」


「いいのよ、シャルを呼んでくるわね」


毎日のように聞いているアルトボイスが聞こえ、バッと玄関を見るとそこにいたのはユーリであった。

椅子を倒す勢いで飛び降り、慌てて玄関へと向かう。


「ユーリ!どうして?今日はパーティーなんでしょ?」


「もう終わったから急いできたんだ」


急いできたという彼の姿を改めてみる。

本当にパーティーの後すぐに来たのであろう。

いつもとは違う、現代で言うスーツのような黒を基調とした貴族らしい正装。

サラサラのいつもおろされている黒髪は少し乱れているものの、後ろに撫で付られ、その綺麗な額があらわになっている。

いつもより数段大人っぽい装いだ。


「その姿、とても素敵ね!

物語に出てくる王子様みたい!」


先ほどから両親が王子様と言っていたのはこのことだったのか。

その姿は言っていた通り、本当に絵本から飛び出したどこぞの国の王子様のようだ。

反して、私の言葉に、わずかに頬を赤らめる姿は年相応でまた可愛らしい。

ギャップ萌えというやつだな。

にやにやとだらしない顔で見ていたが、そこでハッと思い出す。


「そうだ!私、誕生日プレゼントを用意していたの!

少し待っていて」


そう私はきちんと昼間のうちに母とプレゼントを用意していた。

慌ててダイニングテーブルへと戻り、そこにある既に袋に入った、彼の瞳と同じ紫色のリボンで止めたそれを持つ。

明日渡すのに何で今日作るのだろうと疑問に思っていたが、母はこのことがわかっていたから無理矢理に今日作らせたのだろう。

ユーリの元に戻り、顔前に袋を差し出す。


「はいこれ!お誕生日おめでとう」


「ありがとう。

開けていい?」


「もちろん」


私が差し出したそれを嬉しそうに受け取ったユーリは、丁寧な手つきでリボンをほどいていく。

中を確認すると、ぱぁっと音がしそうなほどの笑顔でこちらを見た。

レアなユーリの満面の笑みに、こちらもつられて笑顔になる。


「そのアップルパイ私が作ったの!

綺麗に焼けたと思わない?」


「シャル、ありがとう」


あまりにも嬉しそうな様子にこっちの心まで温かくなってくる。

こんなに喜んでもらえるとは正直思っていなかった。

言葉は少ないが、ユーリの表情が本当に喜んでくれていることを雄弁に語っている。

彼は丁寧に袋を閉じ、再び紫のリボンで口を止めると、打って変わって真剣な面持ちで口を開いた。


「シャル、僕はもう君にしばらく会えない。

これから学校に入るための準備をしなければならないし、父がきっとシャルに会うことを許してくれない。

でも僕、絶対に卒業したらここに戻ってくるから!だから、だから…」


ぎゅっと跡が付きそうなほど握りしめた彼の手をそっと取り、ほぐすようにやさしく撫でる。

でも再び紡がれたその先の言葉を、私は言わせない。

私はきっと彼を待てないだろうから。


「ユーリ、頑張ってね。

私、応援してるから」


彼はこくりと頷くと、私の手を放し、両親にペコリと頭を下げ、そのまま馬車へ乗り込んだ。

その表情は悲しげで、おそらく彼は私が言葉の続きをわざと遮ったことに気が付いている。

賢い子だから、きっと私の気持ちを汲んで、自分の心の言葉を飲み込んでくれた。

ごめんね、ユーリ。

自分勝手な私でごめんなさい。

私は待っているなんて不確定な、無責任な約束はできない。

この先どうなるかなんて私にもわからないのだから…。

最後に見たユーリの表情が脳裏に焼き付いて離れなかった。


閲覧、ブックマーク等ありがとうございます。

タイトルの方を修正しました。

本文も時間があるときに随時修正していくつもりです…。

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