5.私、お祝いします
気が付けば、最後にユーリに会ってから既に1週間が経過していた。
先週、学校へ入るという話をしてから彼とは1度も会っていない。
こんなに長く会わないというのは初めてのことであり、彼が来てくれなければ会う機会のない人であるということを実感させられる。
ユーリの家は別にすごく離れているというわけではない。
大人の足で歩いて30分ほどだと聞いている。
私も行けない距離ではないが、ロベリア家に行くことをユーリからも、両親からも禁止されている。
ロベリアの当主はとても厳しいと言われている。
それは街の人からも、ユーリ本人からも聞いていることだ。
ユーリの反応を見るからに、彼の父親は私と友人でいることに賛成はしていないのだと思う。
それはそうだ、普通に考えれば平民である私と子爵家の子息であるユーリは友人どころか話すらしてはいけないほど身分差がある。
本心は関わらせたくないのであろうが、彼の父親は私を拒むことはできない。
理由は私の父だ。
父、ヒューゴ・ホワードは今は平民として街で教師をして暮らしているが、実は元貴族である。
私は両親が亡くなった後、オレアリア公爵家に引き取られるが、この家こそが父の生家なのである。
母と結婚をするために、駆け落ちをしてきたということがゲーム内で語られている。
弟が家を継いだが、弟夫婦には子供ができなかったために、血縁者であるヒロインを引き取ったのだ。
…おそらく、ロベリア当主は私の父を知っている。
ロベリアという立場上、各家の情報は誰よりも詳しいはずだ。
父は公爵家、ロベリアは子爵家だ。
今の身分を考えればロベリア家の方が上にも関わらず、逆らうことができないのは彼の性分なのか、はたまたそういったものなのかはわからないが、そのことがあるから表立って反対をしてこないのだろう。
ただ歓迎はされていないのはよくわかる。その証拠に、ユーリの誕生日パーティに私は一度も招待されたことがないのだ。
今日はユーリの誕生日当日だが、私は当日に彼におめでとう、と言えたことがない。
貴族らしく盛大な誕生日パーティーがロベリアの屋敷で行われており、そこにはユーリの同年代の子供は身分に関わらず招待をされているらしい。
そう、身分に関わらず様々な人々が招待されているにも関わらず、私に招待状が届くことはなかった。
これは嫌がらせというべきなのか、牽制とも言うべきなのか…。
兎にも角にも、当日お祝いする権利を得ることのできない私は毎年こうして家で今日という日が過ぎるのを待っているのである。
そんな私は今、ダイニングテーブルに座り、母が作ってくれたフルーツがたくさんのったパンケーキをフォークで突っつきながら少し拗ねたように足を大きくぶらぶらさせる。
それは拗ねたくもなるだろう。
精神年齢20歳とは言え、友達の誕生日会に毎年参加できないし、今年でそれも最後だ。
最後くらいお祝いさせてくれてもいいのにー!ロベリア当主のケチー!
心の中で文句を言い、むぅ~と声にならない声を上げていると、向かい側でその様子を見ていた本日お休みの父がクスクスと笑い始めた。
「笑ったり、怒ったり、そう思ったら悲しそうな顔をしたり忙しい子だね」
「だって…私もユーリの誕生日お祝いしたかったんだもん…」
頬を膨らませて言えば、口元に手を当て上品に笑う様子から一転、父は驚いたように目を見開いた。
「珍しいね、シャルがそうやって自分の気持ちをはっきり言うなんて」
はて?と首を傾げる。
言われてみればそうかもしれない。
中身が大人な私はほとんど我儘を言ってこなかった。というか、言う必要がないというのもあったけど。
それに日本人の性というべきか、前の私の性格の問題か、自分の気持ちをはっきりと言うのが苦手で、基本曖昧な返事しかしない。
確かに今回みたいにはっきり何かしたい、と口に出すのは稀かもしれないな…。
考えながら首をこてこてしてると、その様子を見て再び父が上品に笑いながら再び口を開く。
「もう少し経ったら、シャルの王子様が白馬に乗ってやってくるかもね」