1.私、思い出しました
ごきげんよう。
私、シャルロット・ホワードと申します。
街で教師をしているイケメンな父と、料理が得意で心優しい桁外れに美しい母を持つ普通の3歳の女の子。
そう、ごく普通の女の子。
…いや、全然普通ではない。
容姿、性格共に優れた両親を持っているだけで普通ではないのだが、そのことは一旦横に置いておく。
それ以上に普通ではないのだ、私という存在は。
私は所謂"前世"というものの記憶を持っている。
前の私は、日本に住む一般的な女子大生であった。
家族と暮らし、アルバイトもして、友達とも遊ぶ、本当に平凡に暮らしていた。
20歳の誕生日を迎えた朝、いつも通り大学へ向かっていた最中に通り魔に刺され、唐突にその短い人生を終えた。
そう、私の人生はそこで終わったはずだった。
間違いなく死んだのだ。
あの痛みと絶望感は今でも脳に焼き付いている。
にも関わらず、私は今こうして生きている。
…ただし、別の人間として。
気が付いたのはほんの数日前。
元気いっぱいの3歳の少女である私はついついはしゃぎすぎて、家の裏の小川に足を滑らせ落っこちた。
幸い底は浅く、溺れるといった事態にはならなかったが、びしょ濡れになりそのまま風邪をひいて寝込んでしまったのだ。
小さい身体に高熱はしんどかったのだろうか、意識も朦朧としていた。
両親もお医者様もそれはそれは心配したそうだ。
混濁する意識の中、私は前世の記憶を思い出したというわけだ。
前世の私はオタクであり、ゲームもアニメも漫画もこよなく愛していた。
数ある作品が脳内で駆け巡る中、私は一つの乙女ゲームのことを思い出していた。
それは私が自分への誕生日プレゼントとして買ったものであり、死ぬ前日に発売され、徹夜でプレイしていたゲーム。
その作品のヒロインは、デフォルト名がシャルロット。
見事な腰まであるプラチナブロンドの髪と、サファイアのような美しい瞳を持った美少女。
少し内向的で陰があるが、ヒロインらしく心優しい女の子。
魔法が存在する世界で、これまたよくありがちなレアな能力をもっているという設定だ。
ここで、今の私を振り返ってみよう。
名前はシャルロット・ホワード。
父譲りの綺麗なプラチナブロンドの髪に、母より少し暗めの青い瞳。
両親にはよくサファイアみたいね、と褒められる。
この時点で私は自分を疑った。
まさかね、いやまさか…。
ここで私はもう一つの情報を思い出す。
ヒロインはオレアリアという公爵家の令嬢であるが、実は養子である。
両親が流行り病で亡くなり、父方の実家であるオレアリア家に引き取られるという過去があるのだが、引き取られる前の名字はホワード。
そう、シャルロット・ホワードなのだ。
私はどうやらゲームのヒロインへ生まれ変わってしまったらしい。
夢のような話であるが、夢ではない。
これは現実なのである…だって頬っぺつねったら痛かったし…。
普通のオタクだったこの状況は喜ばしいものだろう。
やったー!!転生だ!しかも、美少女だし乙女ゲームだからイケメンたちにたくさん愛される!!
私もこの作品でなければ飛び跳ねて喜んだであろう。
この作品でなければだ。