ほおずき姫
あるところに貧しい孤児がおりました。
貧しい町で、生きておりました。
あるところに、貧しいながらも慎ましく幸せに暮らしている子供がおりました。ある日、いつもと同じように子供が遊んでいると、強くたくましい「騎士様」たちがやって来ました。そして、大きな声でまくし立てました。
「王妃様が亡くなったんだ。仕方がないだろう。」
「でも」
「なあに、陛下のご息女とはいえ、薄汚い[しょうふ]のガキだ。実際に王位を継ぐなどあり得ん。」
幼い子供に、言葉の意味は分かりませんでした。しかし、言葉の悪意はしっかりと伝わりました。
彼女はお城に連れていかれました。お城は、がらりと、人がたくさんいるにもかかわらず、うすら寒く感じました。
そこから、彼女の生活は全てが変わりました。綺麗なドレスや靴、温かい食事など、様々なものが与えられました。しかし、それらは全て嘘くさいものでした。
彼女は、自分が裏で[ほおずき姫]と呼ばれていることを知っていました。
ほおずきの花言葉は偽りとごまかし。人形のように笑い、分不相応を受け入れる自分にピッタリだと、いつも自嘲したそうです。
ある日、お城でダンスパーティーが開かれることになりました。お姫様である彼女は、似合うドレスを選ばれ、髪を飾られて、無表情に窓の外を眺めていました。
コンコン
窓を叩く音がして、そこから"彼"が表れました。
「…貴方、またこんなところから来たのね。城の正面に馬車で乗り付けること だってできるのに。」
冷たく冷えた声で、彼女は無表情に言い放ちました。
「ふふふ、また良いもの作ったんだ。是非、君に見て欲しくて。」
彼は呑気に楽しそうに張り付けた笑顔で言いました。
「そんなことより、例の件はどうしたの。」
「ああ、劇のヒロインちゃんは、ちゃんと決めて来たよ。とても良い子でね、身支度と馬車の用意を整えてあげただけで、喜んでくれたんだ。」
「幻術はちゃんとかけたんでしょうね。」
「ああ、あの子からは三十すぎの陛下が王子に見えるように、陛下からはあの凡の凡の子が君の死んだ母さんそっくりに見えるようになるやつ? うん、かけたよ。君もなかなかえげつないことを考える。」
「ふふ、あの人は変わらない。父に似た私へのこの冷遇がいい証拠よ。そんなにあの屑に振り向いて欲しかったのかしら。」
「…目が笑ってないよ。」
「気のせいじゃあない?…あら?」
彼女の瞳から涙がポロリと溢れました。
「おかしいわ。気が緩んだのかしら。」
ポロリ、ポロリ。やがて、涙は壊れたようにとどめなく溢れました。
「…君は、感情を捨てたのではなく、仕舞い込んでいただけなんだよ。
馬鹿だなぁ、そのせいで人の気持ちまで分からなくなってしまった。」
「どういうことよ。」
「こういうことさ。」
彼は指輪を取りだしました。彼女は、それを見て目を見張ります。
「宰相である僕が、国を立て直すためだけに、こんなまわりくどいことをすると思う?どうせ放っておいたってこの国は腐敗していったよ。そこで僕がヒーローになることは、存外簡単なことだ。」
彼女は、言われて初めて気付いたようで、極めて具合の悪そうな顔をしました。
「…なら、さっさと私達王族ごと処分すればよかったじゃない。こんなの持って来て何のつもり?ああ、正しい英雄様の隣には、可哀想な姫君が必要なのね。確かに、その方が国民のついてくる、美しい美談になるものね。」
「そんなこと、考えてないよ。気高い君は、同情からそんなことをしたら、すぐに自死をしそうだ。」
「わかっているじゃない。さぁ、さっさと白状なさい。」
「簡単なことだよ」
「僕が君を、愛しているからさ。」
拙い作品でしたが、読んでいただき、ありがとうございました。