卒業
何やかんやで帰りのミーティングの時間になった。
最初は緊張したけど、みんないい人だ。
会社の人ももちろん良い人達だが、ここの人は利害関係がない。
最低限のマナーをわきまえていれば先輩後輩もなく、成績や数字もない。
誰かを否定しないルールだから、思い切って話した内容を馬鹿にされたり、影で悪口を言われることもない。
もちろん評価もされない。
「精神科はキチガイが行くところ」
そんな偏見は私からキレイさっぱり無くなっていた。
「スタッフからの共有事項はございません。
皆さんからなにか連絡はありますか?」
「すみません、ひとつだけ」
桜屋敷さんが手を挙げる。
「えっと、実は本日でこの復職支援を卒業することになりました。」
「え?!」
驚いた。
いつまでもここにいる訳には行かない。
いつか私達はそれぞれの場所に戻らなければならない。
それはわかっていた。
わかっていたつもりだったけど……。
「ここではみんなが助けてくれました。
ここに来るまでは可愛いと思えなかった子供が少しずつ愛おしくなって、人と話すのが楽しくなって、毎日でもここに来たかったです。
私は復帰はせず、とりあえず専業主婦で体調を整えながら子育てをするので、皆さんも無理せず身体を大切にしてください。
今までありがとうございました。」
静かだった部屋に拍手が起きる。
そっか、桜屋敷さんいなくなっちゃうんだ。
元気になれば通院をやめるのは当たり前。
でもなぜだろう、高校の卒業式のような悲しさがあった。
と同時に
「私はいつ社会復帰ができるんだろう」
という不安もわきあがる。
またあの会社に戻るのか……。
嫌だ、気持ち悪い、死にたい、このままここにいたい……。
「めいこちゃん」
いつの間にか隣に座っていた桜屋敷さんがささやく。
「めいこちゃんはまだ若いから、今の会社に戻るのが全てじゃないと思うんだ。
復帰して再発して薬漬けになったら意味が無い、そうでしょ?
だから将来の事を考えてここに通ってね。
あなたが幸せにならなくちゃ、周りの人も幸せにはなれないのよ。」
「桜屋敷さん……。」
桜屋敷さんも本当は看護師として社会復帰したかったはずだ。
でも家族や自分の将来を考えたら、自分が頑張って背負いすぎてまた精神疾患になるのは違うと思ったんだろう。
まずは自分を幸せにする。
これは発達障害や双極性障害に限ったことではない。
私の闘病は続く。