日本人なら将棋だろ?
伊400型に戻った俺たちは戦争に備えて作戦会議を始めた。
「それでケンロウ様、本当にこの国を滅ぼすのですか?」
クリフトファが心配そうな表情で俺に訪ねる。
「ああ、それしかないね。この国が変わるのを待っている時間はない」
終末が、いつ来るとも分からない状況で緩やかな変化など待っていられない。今必要なのは改革じゃない革命だ。
「すっかり王の威厳が板についたようで」
スヴィニヤーは伊400型の下部にある艦橋にある玉座に座る俺の肩に触れるが、その手をパシリと払うとシンミアが肩に登り俺の頭をパシパシ叩く。
「なんか、この国に来てから犬らしくないぞ」
シンミアが上から覗き込んで俺を見る。
「そうか?」
シンミアの鼻をピンと弾く。
「そうだ!」
そう言うと俺の頭をバカンと叩く。
「まあ、俺は一国の王だし、この世界を救わないといけないし」
「別に救わなくても良いぞ」
「シンミア!」
スヴィニヤーがシンミアの発言をたしなめる。
「豚野郎、オレたちは神だぞ。そのオレたちが勝てなかった精霊龍デルス・マグラに人間の犬に勝てって言うのはおかしいだろ!」
「それでもやらなければ、この世界は滅びるんですケンタ様の大事な人も一緒に」
「でも、犬は他の世界に行けるんだろ? だったらその大事な奴を連れて、この世界から出ていけよ」
「……聞いてたのか」
「……」
俺は黙るシンミアを肩から膝に下ろすと頭を撫でる。さすがに付き合いも長い、シンミアが本心で言ってないのぐらいは分かる。
「どこにも行くわけないだろシンミアがいるこの世界をちゃんと救うよ」
その言葉を聞くとシンミアは俺の方にくるりと向き直ると首に手を回しギュッと抱き締める。
いや首を絞めてる。
絞まってる!
絞まってる!
「ちょ!」
「犬の癖に生意気だ! 犬の癖に! 犬の癖に!」
首に抱きつくシンミアがまるで泣いているような気がして俺は頭を撫でる。
大丈夫、大丈夫と心で呟いて。
もちろん、この後、締め落とされたのは言うまでもない。
「それで作戦はどういたしますか、本当に全滅させるわけではないでしょ?」
風で作り出した地図を前に俺に方針を聞く。
「全滅? 誰も殺さないよ」
「殺さずにどうやって降伏させるのですか?」
スヴィニヤーは俺の発言に呆れている。
「正面突破」
「さすがに無理があると思いますが?」
風で作られた地図の前に立ち伊400型を真っ直ぐ突っ込ませる。
「この船で王城まで突っ込む」
「結界が張られているはずですが」
「それなんだけど、晴嵐のハルで飛んでたときに結界にぶつかったんだけど、すり抜けられたんだ」
「どう言うことでしょう?」
「多分、異世界の金属はこの世界の結界に干渉されないんじゃないかな?」
「でも、そうなると、この伊400型のアウトリガーはこの世界の物ですから結界で弾かれて航行不能になりますが」
「スヴィニヤーの風で伊400型を操作できるよね」
「できないことはないですが」
「少し負担を強いることになるけど頼む」
「面白いじゃんか犬、やってやろうぜ!」
シンミアがスヴィニヤーの尻を叩き俺に抱きつく。
「シンミアがそう言うならやりますけど」
「城がなくなれば、あの王も自分が王だなんて威張れなくなるだろ」
あの王は守られている存在なのに、現在この国が存続しているのが、まるで自分の力であるかのように思っている愚か者だ。
部下に感謝の言葉すらかけられない王に王たる資格はない。
「ですが、あの青髪と赤髪の女性達と戦うことになりますがよろしいんですか?」
「宣戦布告したときに覚悟は終わっているよ」
「倒すのですか?」
「え? 違う違う、全力でスルーするよ? 戦うわけないじゃん」
俺の言葉に艦橋にいるみんなの頭にクエスチョンマークが飛び出す。
「「「「へ?」」」」
「プハハハ犬らしくて良いじゃんか!」
「スルーと言いましても彼女達はLV99のカンストですよ?」
「あちらがカンストなら俺もステータスカンストだ全力でスルーしてやる」
PKから逃げるために上げた俊敏力は伊達じゃない。
「オレが犬に抱きついてれば、オレの神眼を使えて目もよくなるんだからスルーできるだろ」
オークとのダンスバトルで俺の目が良くなったのはシンミアを背負うことで神眼を借りることができたからだ。
その力を使えば全力スルーも訳はない。
「そうだな作戦名は中飛車で王手作戦だ!」
「今回の敵はチェス戦ですよ」とスヴィニヤーの突っ込みに俺は「日本人だからな」とサムズアップをして答えた。




