日本人は日本人、異世界人にはなれないんだなとケンタは痛感した。
アルファポリスにて掲載してます。なろうは備忘録的に使っており更新を忘れることがあります。
「幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。」も推敲加筆してアルファポリスで掲載しております。
アルファポリスの方もお気に入りしていただけるとモチベーションが上がります。
その日、冒険者や町の人たちで祝勝会が行われた。
町の人たちが色々持ち寄って、俺たちの労をねぎらってくれたのだ。
俺はその中の食料をもって牢屋の元宮廷魔導師の男に話を聞きに行こうとした。
「ケンタどこに行くんだい?」
「元宮廷魔導師の野盗に食事をと思って」
クレミアにそう言うと気まずそうな顔をして、それはやめた方がいいと言われた。
「なぜです?」
現代人の俺からすると、犯罪者でも食事を与えないと言うのは人道的にどうなのだろうと思う。
戦争ならC級戦犯になる。
「ここにある食材はお金や逃げる場所がなくてこの町に残った人たちが持ち寄った食材だからね。そういう食料をあんな奴に与えるのは罪だろ?」
確かに襲ってきたやつに困窮している人が善意で出してくれた飯を食わせるなんてありえないな。
そう言えば町の規模に対して町民の数が少なすぎるな。
「これで町の人全員なのですか?」
「……お金や逃げれる場所がある人は避難したから、今いるのはこれで全員だよ」
なるほど、今ここにいる人たちはどこにもいく宛もなく金もなく、理不尽に盗賊たちに襲われた人たちなのだ。
俺はクレミアに謝り、食べ物を置くと手ぶらで元宮廷魔導師の男が閉じ込められている牢屋へと向かった。
食事は俺のアイテムストレージにあるものを与えることにしよう。
牢屋に入れられている男を見て俺は驚愕した。手足が手首と足首から切られているのだ。
「なんでこんな」
男の目には生気はなく暴行された跡まである。俺はその光景に息を飲んだ。
たしかにこの男はこの町を襲った、だからと言ってここまでする意味があるのか?
身体から力が抜ける感じがした。
俺の倫理観はこの世界に合わない。日本人の俺にはこの光景は許容できない。
コツコツと石畳が音を立てる。音のする方を見るとクレミアが申し訳なさそうに俺を見る。
「これはどう言うことですが、こんなの拷問じゃないですか」
「すまないねケンタそいつは逃がすわけにはいかないんだよ。だから手足を切らせてもらった」
手足が無いから気が付かなかったが、よく見るとすべての手足の関節があらぬ方向に曲がっている。
「でも、これじゃ奴隷にする選択はなくなる」
「そうさ、そいつは奴隷に落とす気はない、ケンタには賞金で納得してほしい」
クレミアは腰にブレードソードを携えている。平和ボケの日本人でもわかる、断れば俺を殺す気だ。
「なぜそんなに死刑にこだわるんです理由を教えてください」
だがクレミアは俺が何もわかっていないように頭を振るう。
「そいつは私の領地を領民を虐殺していくつも村や町を焼き払ったやつなのさ、だから絶対に許せない死刑すら生ぬるいんだよ」
クレミア十二年前に領民を守れなかった罪でお家取り潰しにあった男爵家の娘なのだと言う。それからクレミアはずっと剣の技を鍛えて復讐するために牙を研いでいたのだと言う。
「だから拷問したんですか?」
「ああ、そうさ。これからこいつは死ぬまでここで拷問を受ける死にそうになったら回復薬で回復させる。永遠に苦しみを味わってもらう」
「そんなこと」
クレミアは一瞬で間合いを詰め俺の首先に剣の切っ先を当てる。
「ケンタ今答えてもらおうか。奴隷にするのか賞金を受けとるか」
「脅して答えを出させようとするんですか?」
「ああそうさ、あんたがすごい回復薬を持っていたとしても首を落とされたら回復なんかできないだろ?」
たぶん首が落とされても回復するだろう。だけど……。
俺は倒れている盗賊の男をみて決意した。
俺は所詮日本人だ異世界人はなれないなと。
「わかりました賞金を受けとります」
「懸命な判断だよケンタ」
そう言うとクレミアは剣を納めた。
俺たちは酒席に戻り飲み騒いだ。
その夜、俺は元宮廷魔導師の男をつれ町を抜け出した。




