三日間寝ていたそうだが、その間の生理現象を誰が処理していたんだろう。え?みんなでですか!?
目を覚ますとそこは見慣れた,と言ってもまだ二日しかすんでいない家なのだが,見覚えのある場所だった。
周りをみると俺の枕元でレオナが船を漕いで寝ていた。
左手と右足がないのが今更ながらに怖い。さて、幸い右手は残っているので情報を見ることはできる。
右手をみると木の棒を握っていた。
「夢じゃなかったのか」
「け、ケンタさん?」
俺が起きたのを気がついたレオナが俺に抱きつきワンワンと泣き出す。
生きててよかったと思える。それに新しい世界にいかなかったことも。
レオナの泣き声を聞いて二回からドタドタと人が降りてくる、クニャラとシャーロンさんだ。
抱きつくレオナにシャーロンさんが剣を突きつける。
「レオナ、私はケンタさんが目を覚めるまでここにいて良いと言いました。出ていきなさい」
そう言われたレオナは涙をふくと俺にお辞儀をして出ていこうとする。
「ちょ、まって、どう言うことだよ。レオナ、戻ってこい」
だけど俺がそう叫んだ瞬間レオナは逃げるように走り去った。
「なんでそんなこと言うです! それはケンタが決めることです!」
クニャラが泣きながらシャーロンさんを叩く、彼女はそれを歯牙にもかけることなく、俺に目が覚めてよかったと言う。
「どう言うことなんです、説明してくださいシャーロンさん」
俺は怒気をはらませシャーロンさんに説明を求めた。
彼女が言うには今回のことはすべて戦士であるレオナが悪いのだと言う。まず自分の力量を見極められずに無謀にも魔窟に入ったこと。そして撤退を提案した魔法使いの指示を拒否したこと。そして俺の手足を失わせたこと。
だからレオナは俺にふさわしくない。だから二度と近づくなと言ったのだと言う。
ただ俺が目を覚めるまでは看病すると言う名目でいさせていたのだと言う。クニャラの話では俺は三日も寝ていたそうだ。
「三日も寝てたのか、その間の生理現象を誰が処理していたんだろう」
ずっと溜め込んでいたにしてはあまりお腹が張っていないし尿も溜まっていないように思える。
「三人で交互にお世話をしてました」
「え? みんなでですか!?」
なんでも冒険者仲間が怪我をした場合、仲間が看護するのは当たり前だそうで、当然シモのお世話もするのだとか。つまり脱糞や尿を漏らし放題だったわけだ死にたい。
「でも、大丈夫ですよケンタさんのあれは他の人よりも大きかったですから」
シモの世話をされてショックを受けている俺を慰めるつもりで言ったのだろうが大きい? 何が? フンですか? フンですね! フンボルトペンギンの話ですね。
そんな大きいのしたのかショック&ショックである。
「意識不明になったのは多分魔物の雑菌だと思われます。右足の傷を見ると噛み砕かれた形跡がありますので」
シャーロンさんが言うには下位の魔物が付けた傷なら低レベルのポーションでも雑菌ごと癒すのだが上位の魔物になると別に毒消しのポーションを飲まないといけないらしい。
消毒の概念があることに驚きだが、俺はそれを失念していた。これはゲームじゃないのだから、現実的に考えることを忘れていた。
コモドドラゴンに噛まれるとその口の雑菌から死ぬと言う、今回もそう言うことで俺は生死の彷徨っていたのだろう。
もしかして女神はなにも言わなかったが実は俺は死ぬ予定だったのかもしれないな。それで俺に選ばせることにしたのだろう。ゲームは知らないのに嫌な女神だ。
俺は女神に感謝すると体を引きずりながら玄関へ向かう。
「どこへいくんですか」
「レオナを連れ戻す」
「でも、彼女はあなたを危険に陥れました。あなたにはふさわしくない」
「ふさわしいとかふさわしくないってなんだよ。俺はそんな高尚な人間じゃない」
「あなたは素敵な人ですよ、誰も助けにいかなかった助ける必要がなかった人の命を救ったのですから」
「その俺が救った命をあなたは責めるんですか? 俺の大事な人を」
「……」
俺はなにも答えないシャーロンさんを残して玄関へと向かうが、さすがに三日もなにも食べていないので力が全然でない。
くそ、情けない。
俺は農業用フォークを取りだし杖がわりにして立った。立った瞬間くらくらしたが、目を閉じて呼吸を整える。
再び目を開けると立ち眩みは消えた。よし大丈夫だ。お俺は残りの片足にブーツを入れると外へと飛び出した。
クニャラは俺の後をついて来て俺を支えようとするがそれは断った。
できることは自分でしなければいけない。時間をかければ一人でできることでも、誰かに頼ってしまってはそこから心の腐敗は始まってしまう。
辺りを見回したがレオナの姿はない。当然かあんな風に言われて、ここにいられるわけがない。
ギルド、いや。ギルドも視線があるからこんな状態ならいられるわけがない。どこだ?
「クニャラ二人はどこにすんでるの?」
「野宿です」
「は?」
「冒険者のテント村で住んでるのです」
そうか普通家を持っているやつなんてそれなりの定期収入や財産があるやつだけだ、アパートなんかもない、低級冒険者の稼ぎじゃ宿屋は高い。だからそう言うテント村のような場所があるのか。
「ごめんクニャラ、その場所に案内してくれないか」
「ハイです」
そう言うとクニャラは俺の少し前を歩きだした時おり俺の方を振り返りゆっくりゆっくり歩いている。
しかし三日も経っているのに傷が痛い、動いているから血の巡りが良くなったのだろう。雑菌がまだ残っていたらヤバイな。俺は毒消し(超)をストレージから取りだし一気に飲み干した。残りの毒消し(超)はあと3本か。毒消し(低)も作らないとな。
「なに飲んだのです?」
「毒消し」
「……持っていたんです?」
「うん、上級の魔物と戦って傷ついたとき毒消しを飲むと言うのを知らなくて。迷惑かけたね」
「いいのです、ケンタは私の英雄なのです」
「やめてよ、ただのおっさんだよ」
そう言うとクニャラは大好きですと言う。おじいちゃんとして少しは認めてもらえたかな。俺がそう言うと軽くパンチされた少し手加減されたが痛い。調子に乗るなと言うことだろうな。
そうこうしていると冒険者のテント村に着いた。テントは全部で10ほど建っている。その一角の端にあるのがクニャラたちのテントだと言う。なかなかに劣悪な環境だ。
テントに入る前から分かった。レオナのすすり泣く声が聞こえてきたからだ。
「クニャラちょっとレオナと二人で話したい」
「わかったです」
そう言うと少し散歩してくると言って俺に時間をくれた。
俺はテントの前にたちレオナに声をかける。
「レオナ、俺だケンタだ入るぞ」
「け、ケンタさんなんで」
中からレオナの声が聞こえるが入る了承をしてくれない。俺は了承を得ないままテントの中に入った。テント内はきれいに整理整頓されており中は思ったよりも綺麗だった。毛布の上に座るレオナは目を真っ赤にして涙が頬をつたっていた。
「レオナ……」
「け、ケンタさんこんなところに来ちゃだ目だよ。傷にさわるよ」
俺はレオナを抱き締めた。どこにもいくなと。
「私は、私のせいでケンタさんを死の淵に追いやったの。だから一緒にいる資格がないの」
「そうシャーロンさんが言ったのか?」
「……」
「レオナ、俺は君とクニャラが側にいて楽しかった。君を失うなんて考えられなかった。だから助けることができた。それなのに俺はレオナを失うのか?」
「……でも、私は」
「誰がどう言ったとか関係ない、レオナは俺のことが嫌いか?」
「すき、大好きです」
「じゃあ一緒にいよう。ちゃんと責任とるから」
「私、がさつだし愛嬌ないし」
「うん、そうか? すごくかわいいよ」
「わ、わたし、おっちょこちょいだし迷惑かけるし」
「好きな人の迷惑なら望むところだよ」
「す、すき?」
「ああ、大好きだよ」
俺がそう言うとレオナは俺に抱きついて泣きじゃくる。俺は彼女の頭をなで慰める。
「レオナ、俺は魔窟で約束したろ責任とるって、俺はちゃんとレオナが嫁にいくまで面倒みるつもりだよ」
「……え?」
「ん?」
「ええと、ケンタさん私のこと好きなんですよね?」
「うん、大好きだよ」
「ええと、お嫁にしてくれるんですよね?」
「え、俺の嫁?」
そうかレオナは俺を怪我させたことで責任を感じてしまってるのか。
「レオナ、俺の怪我は気にすることはないぞ。これは俺がやりたくてやっただけだ。だから気に病んで俺の嫁になるとか言わなくて良いんだよ」
「ちが!」
俺はレオナを抱き締める。俺なんかと結婚する必要はない、こんなおっさんより若い男などいくらでもいるのだから。とはいえゼロスような男をつれてきたら、あの魔獣のように消滅させてやるけどね。
「痛っ!」
なぜかレオナが俺の首筋を噛む。なんなの肉食なの? お腹減ったの? お父ちゃん食べても美味しくないよ?
「ケンタさん……バカです」
「は、はい?」
そう言うレオナは俺をギュッと抱き締めるだけだった。
ブクマそれは果てしなき残響のゆらぎ。
一つ一つは小さくても鳴り響くその鐘の音は作者の心を揺り動かすだろう。
響かせブクマの輪音。
次回「気にってブクマしてくれたらうれしいです」
君は作者の涙を見る。




