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「あ、そうだ!まだ自己紹介してなかったね」
今、僕と彼女は西の武器エリアにある大きな白い建物の中である。建物には
"Magical Force"
と書いてあった。
「私はアリス・オラート。アリスって呼んでね。よろしくね」
「よ、よろしくです。僕はカイト・エルです」
「もう、敬語使わなくていいよ!私、あなたと同じ一年生だから」
いえいえ、例えそうでも助けてくれたあなたを敬わずに入られません。
「オラートさん…」
「ア・リ・ス!」
「…アリスさん、ここの『マジカルフォース』って何ですか?」
アリスは少し不満そうだったが、妥協してくれたそうだ。世界がどうだろうとあなたへの尊敬は消えません。実際本人の名前の呼称の要望に答えてない時点で、不敬なことをしているが。
「…まぁいいわ。それはメーカーの名前よ。って知らなかったの?いいわ、教えてあげるね!」
彼女はそう言って、携帯から3Dマップを出した。
「ブレイブには今は四つのメーカーが勢力争いしているの。
ここの店が"エンシェントワークス"。
昔独走していたんだけど、一部ワイルドコンバットが分離して、そっちの方が成功して今は押され気味。だけど昔のやつは結構いいものも多いよ。
ここが"ワイルドコンバット"。
昔民間が集団で銃火器で戦っていた時代があったんだけど、その時代の兵器をモチーフにしていて、誰でも扱いやすいブレイブを使っているわ。
他にはここ"火螺國"があるわね。
でも、武芸者用だから扱いづらいわ。
それで今いるところが“マジカルフォース”。
マジカルフォースは使用者が持つ魔力を引き出すブレイブを作っているの。また、属性もあって、人によって相性が変わるんだ。戦闘初心者はワイルドコンバットかマジカルフォースを選ぶわね。私としてはマジカルフォースかな。だってコスチュームが可愛いし」
そう言うと彼女は、少し混乱している僕に気づいたのか、顔を覗いて、くすりと笑った。
「まぁ、私のやつを参考してよ」
アリスはカウンターで青色の大きめのブレスレットと、手のひらに収められそうな小さいディスクを受け取った。そして、僕を連れて「試着場」と書かれた所に入った。その中は入学式が行われた学園の体育館のように広かった。中には、ざっと見て五色ほどの種類のアーマーを着た人たちが何人かいた。
「カイト君、見ててね!」
彼女は右腕につけたブレスレットに、小型ディスクを入れた。
「礼装!」
React "Aqua" element
すると、どこからか勢いよく水が出てきて彼女の周りを覆った。
Aqua Gard
全身水色の女性型デザインの装甲になり、その上に青のプロテクターが肩や胴体、脚につき、薄い水色のベールがプロテクターの間と間を繋いだ。頭の天辺には後ろ向きに反って いるツノがあり、正面から見ると三角型で、顔は目以外ふさがっていて、全体的に魚のようなデザインだ。そして手には三叉の槍を持っている。その姿はまるで人魚のようだっ
た。
「…どう?似合うかな?」
「…綺麗だ」
「え?」
「いやいやいやなんでもない。すごくカッコいいです」
あれ、別になんでもなくはないんじゃないか。だが、綺麗だと言ったのが少し恥ずかしかった。なんだろう、この気持ち、まさか…
すると彼女は槍を両手で掴み体の前で揺らし、顔を俯いた。
「…ありがとう」
スタートを切った学園生活は、つまずきはあったが、充実しているように思われた。新しい世界で前を向いて、新しい自分に変われると、彼女との出会いで僕は確信した。なぜなら、自分には、彼女に今までになかった感情が湧いていたからだ。あまり覚えていないが、壮絶な過去を持っている自分でも人は変わることができるんだ。しかし、全てが変わったというわけではない。自分を変えるというのは今までの自分を否定するという意味だ。自分の過去を完全に忘れることはできない。そう、僕のように。だから、この後初めて好きになった彼女を傷つける結果になってしまったのだろう。