5 貴族
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ブレイブアーマーとは武器と鎧がセットになったバトルスーツのことだ。まだ科学の時代だった頃、今までの科学では説明つかない力を発見した。新物理だとか超科学とか色んな呼び方があったが、今は魔法と読んでいる。その方がピンと来るからだろう。その力自体漫画に出そうなものだったからだ。それで色んなことが変わって今に至るが、その中で変わったのは戦闘パターンだ。集団より個人の力を重視するようになった。魔法はその源である魔力とテクニックによってレベルが違う、つまり人によってその出力は違ってくるのだ。そこで人の魔力をより引き出すために作られた戦闘服、ブレイブアーマーが作られたのだ。そんなわけで、やっと昼ご飯を食べ、1人でブレイブアーマーを探しにいっているのだ。所持金の方はまぁ、大体のものは買うことが出来るが、カスタムや性能高いものは高価だ。さて、何を選べばいいんだか。本当にガイドの言うこと聞いていれば良かっ
た。仕方ない、人に尋ねるしかないな。僕は目の前にいるブロンド髪の男子生徒に声をかけた。
「あの、すみません」
「ふん、庶民ごとき俺に話しかけてくんな」
その男は煙たがるように喋った。するとすぐそこにあった店から4人ほど男女が現れた。そして、黒髪のチャラそうにしている1人の男が話し出した。
「何怒ってるのですか?リベルト、このかわいそうな凡人は君に聞きたいことがあると言ってますよ」
「カリウス、俺は庶民と馴れ馴れしくするつもりはない」
「いいじゃないですか、庶民と仲良くしましょーよ」
カリウスは僕の方に顔を向けた。
「どうされました、庶民。寛大で、紳士なる貴族である私がお助けしましょう」
「あ、あの、ブレイブアーマーを選ぶのに迷っていまして」
「あーアーマーねー。では私がアーマーの良い選び方を教えてあげましょう」
するとカリウスはじっと僕を見て、ふと笑みを浮かべ、自分の腕につけているアームデバイスを外し、僕に渡した。
「さあ、ここにこれを入れて見てください」
僕は渡された小型のディスクを言われた通りにデバイスに入れた。
「う!うあ!?」
突然黒いオーラが現れ、僕の体の周りを包んだ瞬間、激痛が走った。
「あらあら残念。このマジカルフォースのアーマーを使って見たのですが、どうやらダーク系は不適合だったようですねー」
カリウスは哀れに言いつつも、にやっと笑っていた。次の瞬間、警報アラームのような音がデバイスから鳴った。
「おーっと、これはいけない。セキュリティ機能をオンにしてしまった。すまないですねー、君。これ、警備員に知られると、やった人が校則違反で退学になっちゃうかもなんだよね。困った困った」
苦痛の中、僕の頭に何人かの笑い声が響いた。
…………………………
「ちょっと、そこ、何しているの!」
そこに1人の女子生徒が現れた。
「ちっ、委員長か」
グループの誰かがそう言って面倒くさがっていたが、カリウスだけは態度を変えなかった。
「おやおや、これは委員長、もうアーマーはお決まりですか」
彼は彼女に左腕を後ろにし右腕を前に払いながらお辞儀した。
「ええ、そうね。あなたも決めたようね。で、どこからかアラームがなっていたと思うんだけど」
「それはこれのことじゃないでしょうかね」
彼は、冷やかな笑みを浮かべ、鳴っているデバイスを指した。
「どうしてセキュリティが作動しているのかしら」
すると、カリウスは懇願するかのように話した。
「ああ、委員長、聞いてください。かわいそうに、お金を持っていないのにあまりにもの欲深さで、この人は私から奪ったのです!」
カリウスの狡猾さと自分の無力さに僕は何も言えなかった。
「つまり、彼があなたのアーマーを盗んだと?」
「ええ!そうですとも!他の目撃人もいますよ!」
「はい!僕は彼がカリウスから奪おうとしているところを見ました!」
「私もですわ」
カリウスの連れたちが次々とカリウスを告げ口を言ってきた。リベルトはくだらなそうに無言でそっぽを向いている。すると、彼女は僕を数秒見つめて、また話し始めた。
「わかったわ、この場は私が収めましょう。これは返すわ。あと、教官があなた達を呼んでいるわ。今すぐ案内所に向かいなさい」
「でも、これは校則に関わることですよ!まずは教官を」
「あら、テルミット。そういえばあなた飲食店で何か問題を起こしたのかしら。風の便りで聞こえたわよ。ちょうどいいわ。ここで話した方が都合が良いと思うけど」
するとカリウスから笑みをなくし黙った。
「早く行きなさい。これは教官の命令よ。」
カリウスは一瞬彼女をにらんだが、また笑みを浮かべ他の仲間達とアイコンタクトして、去っていった。委員長と呼ばれていた女子は睨みながら見送った後、こちらに振り向き微笑んだ。
「ごめんね、あの人達のように、自分が小さい頃からブレイブアーマーの訓練をしていることをいいことに威張っている奴がいるけど、気にしないでね」
「僕を疑わないんですか?」
「だって、あなたそんなことをするような顔してないんだもん。安心して、警備員さんには伝えっておくから」
その言葉が少し心を和らげた。
「……はい、助けていただきありがとうございます」
「大丈夫?他に何かされた?」
「いえ、大丈夫です」
「何か困ったらいつでも言ってね。私、彼らのクラスの委員長で、色々権限持っているからね」
彼女は、まるで自慢するかのように腕を組んで人差し指をたてた右腕を振っている。僕はなぜか親近感が湧いた。何か温かいものを感じる。
「ねぇ、君ブレイブアーマーまだ選んでないの?」
「はい、そうです」
「ちょうど私決めたアーマーを買いに行くところなんだ。…もしよければ一緒に来る?」
少し不安な顔をしながら聞いてきた。少し前の僕ならこれはチャンスだと張り切っていたと思うが、そんな気分ではなかった。別に泣き出しそうになっているわけではない。自分の中で無くそうと思っていたものが、久しぶりに心の奥から出てきそうな感じがして、少し気持ち悪かった。もう過去のこ
とは覚えてないし、そこに縛られようとは思わない。この学園を通して変わるって決めたのだ。しかし、一度燃え出した心の中の火を完全に消す事は出来なかった。