2 出会い
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風が吹き、快晴の空の中で日がやや低めなと
ころに差し掛かっている。その日光がA字に
模した剣のオブジェクトに反射して輝いてい
る。全寮共学制であるアリウス士官学園は入
学式を迎え終えた。士官学校とはいえ自由な
校風で、また、庶民と貴族が入り混じってい
ることも特徴だ。先生、この学園では教官と
呼ぶが、戦闘経験が豊富なプロだそうだ。そ
んな学校であるが、僕はただいま遅刻回避に
いそしんでいる。昨日が入学式で、今日がガ
イダンスである。いろんな意味で眠れなく、
寝坊してしまった。あの角を曲がって真っ直
ぐだ。たぶん。半ばうろ覚えな記憶をたどっ
て校舎へ急ぐ。そして角を曲がろうとしたと
き、
「うわっ!」
人とぶつかってしりもちをついてしまった。
「いたたた…」
つぶっていた目を開けて状況確認したとこ
ろ、食パンが落ちていた。
そして見上げると制服を着たかわらしい少女
がスカートがめくれた状態で倒れていた。
というわけでもなく、ただのハゲているおっ
さんだった。
「あぶねーな。まったく」
あるはずもないこめかみを触って状況を確認
している。
「あ、俺の朝飯が〜!」
このパンあんたのかーい。とりあえずぶつか
ったことについて謝る。
「あの、ごめんなさ…」
「その制服この学園のものじゃないか。幼稚園生じゃないんだからさー。学生としてちゃんと自覚持てよー。骨折してたらどうすんだよ。ん?」
おっさんらしい面倒な説教の途中で、俺が謝
りながら気づいたおっさんのズボンの空いて
いるファスナーを見る。中も丸見えだ。そこ
にはうさぎの絵があるトランクスが…
「きゃー、見たな、俺のうさぎパンツ」
「もうどこから突っ込めばいいんだよ。つ
か、なんでうさぎプリントのトランクスなんだよ」
「もうお婿に行けない。まだ剥けてもないのに」
「知りたくもない情報言うな。お前誰だよ」
「お前とはなんだ。私はこの学園の教官だぞ」
「さっきよりも知りたくもないというか、もうかかわりたくない」
そういえばよく見るとこのおっさん、一般人
にしてはガッチリしている。運動できるとい
うことは間違いない。
「う、うるさいぞ。そんなことより君遅刻じゃないか」
「先生もだろ」
「教官はいいんだ。教官は」
入学式の時は行事だけだから、新しい知人を
作る時間はなかった。今日初めてクラスがわ
かり、そこで友達を作ろうと思っていたが、
よもや最初に知り合ったのはダサい教師だっ
たとは、運が悪いようである。
「…わかった、わかった。運良く俺のクラスになったら、遅刻免除してやるから、寮へ行ってこい。」
こいつが担任になるとかふざけんな。運悪す
ぎだろ。と思いながら、ふと疑問なことがあ
った。
「え、なんで寮に行くんですか?」
「え、だってこの道寮へ続くだろ。忘れ物を取りに行くんじゃないのか?」
パンをくわえてダッシュし、うさぎトランク
スを履いているこのおっさんに助けてもらう
とは。
「…あの…校舎はどこですか?」