5話 対戦後
「ツッ…。」
体の痛みで目が覚める。見慣れた天井、おそらく自分の部屋だろう。起き上がろうと思ったが痛みで全く体が動かせない。
「グリスト、いるか?」
「ん?おぉ起きたのか。体は大丈夫かの?」
体の中から黒い影が出てくる。見当たらないと思ったら中に入っていたらしい。
「大丈夫じゃないね。全然動かせない。随分と酷くやられたもんだ。負けが決まった相手にここまでやらなくてもいいだろうに。」
「あー、そのことなんじゃがの?」
申し訳なさそうな声でグリストが話す。いつも指導してもらっている時とは違い随分と歯切れが悪い。
「その体の痛みは儂のせいなんじゃ。」
「……、詳しく聞こうか。」
「つまり、僕が意識を失った後に僕の体を使ってシーザーを叩きのめしたと。」
「そういうことじゃな。お主に確認することもなく申し訳ない。」
「負けてた試合に勝ってもらったわけだし、僕のことで怒ったみたいだし別に不満はないよ。でも、そこまで怒るなんて意外だったよ。」
いつもの優しげな様子からは想像も出来ない。聞いていただけでもかなり怒っていたのが伝わってきたぐらいだからよっぽどのことだったんだろう。
「あのような態度を取る者は哀れじゃ、他人を落としそれで自分が上に行ったようなつもりになっておる。じゃが、それを受ける側が相手にしていないなら儂が怒ることも無かろう。哀れむだけじゃ。」
グリストがポツリポツリと話し始める。声は妙に悲しげで何か思いつめているようだった。
「あやつ、シーザー・ロペスと言ったな。ロペス家は王とも関わりがあっての、儂も知り合いがおったんじゃ。アーロン・ロペスと言っての、儂と剣で競いあった仲じゃった。年齢でいえばシーザーの祖父あたりかの、良き男じゃった。」
グリストと剣で競い合い、グリストが認めた人。知られてはいないが凄い人だったのだろう。
「儂より後に亡くなったと聞いたがロペス家はあやつの意思、あやつのような心構えが後の者に引き継がれていると思っていた。そう思い込んでいたんじゃ。それがあのシーザーじゃ。儂の知ってるロペスとはかけ離れていてつい怒ってしまったわ。」
「そのアーロンって人に僕も会ってみたいな。」
「難しいじゃろうな、シーザーに繋いでもらうのも厳しいじゃろう。何よりあやつもまだ生きてるかどうか。結構いい歳じゃったしの。」
「そうか、もしかしたらグリストと同じゴーストになってたりしてね。」
「ほほう、それはいいのう。今度はゴーストとして競うというのも面白そうじゃ。生きているなら今のうちに言いに行かんとの。」
昔の知り合いのことを話すグリストは表情は分からなくてもとても楽しそうだった。