4話 対戦
「いけ、レッドリザード。」
シーザーの声に反応してレッドリザードが炎を吐く。慌ててその場を飛び退く。自分がいた場所は炎が直撃し床が黒く焦げている。
「逃がすな、追撃しろ。」
レッドリザードが首をこちらに向けて続けて炎を吐いてくる。空間はそこそこ広く、走って逃げているものの障害物が無く隠れることもできない。
「どうした?モグラは逃げることしかできないのか?モグラは恥じることすら忘れたようだなぁ!」
随分と好き勝手言ってくれる。だけど逃げることしかできないのも事実、炎を吐かれ続けたのは近づくことすら難しい。
「武器を持ち込まない、魔法も使わない、武器を取りに行こうとすらしない、素手で戦おうという意思も感じない!よく戦闘訓練に顔を出せたものだな!実に醜い、俺自ら終わらせてやろう。」
逃げてるばかりの俺にイラついたのか、はたまた雑魚を追い詰めている気になって気をよくしているのか。レッドリザードの攻撃を止めて、剣を片手に突っ込んでくる。
「ハッ!」
胴体狙いの突きを半身になって避ける。横薙ぎ、切り上げ、振り下ろしとシーザーの攻撃は止まらない。致命的な一撃は貰っていないものの避け切れていない攻撃が小さな切り傷を作っていく。
「逃げてばかりで相手にならん。武器を取ってくるといい、素手での戦闘に慣れている風でもなし。」
シーザーの攻撃がやみ、背を向けてレッドリザードの方へ戻っていく。ひとまず闘技場端に武器を取りに行く。
「やれ、レッドリザード。」
「ッ!?」
シーザーの小さな呟きに合わせてレッドリザードが俺の背に炎を吐いてくる。シーザー本人もこちらに向かってきている。
迫る炎を慌てて避けるが大きく態勢を崩してしまう。そこにシーザーの剣が襲ってくる。避けようとするものの、崩れた態勢では避けきれず太腿をそれなりに深く切られる。幸い血管を大きく傷つけられてはいないが痛みで走るのは無理だろう。
「終わりだなモグラ。所詮なんの才もない雑魚だったな。両親や祖父の功績で上位市民に入ったらしいが、そいつらもどうせモグラだったんだろうよ。」
シーザーが剣を振り下ろす。咄嗟に背中に触れた物で受け止める。どうやら武器が設置してある場所だったらしく一本の剣だった。
「チッ、雑魚が。」
鳩尾に蹴りを食らう。強烈な吐き気と共に視界が黒く染まっていく。意識が遠のき突如来た妙な寒気を感じながら完全に意識を失った。
「すまぬセリアよ、借りるぞ」
主に一言告げて返事も待たずにセリアの体にグリストが入る。既にセリアの意識は無いのかはじき出されることもなく、あっさりと体の自由を得る。
「本当は見ているだけに留めるつもりだったんじゃがの。癪に障っての、そんな気も失せたわ。」
「は?何言ってんの?」
倒したと思った相手が立ち上がって苛立ったのが声でよく分かる。反撃を考えてもいないのか剣を上段に構え頭に振り下ろしてくる。
「未熟。」
受け止めた時に使った剣で弾き飛ばす。力の入れ方も振り下ろし方もなってない剣を弾くのは出来上がってない体でも簡単なことだった。
「シーザーよ、お主セリアの事を雑魚だといったな。」
「何を言ってるんだ?」
「セリアを、その家族をモグラだといったな。」
「何を言ってやがる!レッドリザード!」
シーザーは後ろに飛び去りレッドリザードに支持を出す。迫る炎を前に出ることで避け再びシーザーの前に立つ。
「武器を取るように言って騙すように攻撃を仕掛けたな。」
「うるせぇ!それがどうした!」
「それがロペスの名を継ぐ者のすることか!」
グリストの声に場外を含めた皆が黙る。
「雑魚だといったな。確かにセリアは弱いだろう!だが未熟なセリアに同じく未熟なお主が侮蔑のために使う言葉ではない!モグラだといったな。お主にセリアの、セリアの家族の何がわかる!何を知って嘲笑する!騙し討ちをしたな。確かに戦場では、実際の戦闘では有効だろう。卑怯とも言わぬ。だが訓練において戦う意思を持っている相手にするような騙しではない!」
セリアの姿で、セリアの声で発せられるグリストの言葉にシーザーは動くこともできない。理解が追い付いていないのか呆然とセリアの姿を見ている。
「もう一度言わせてもらおう。それがロペスの名を継ぐ者のやることか。儂の知っているロペスは強く気高く弱者を虐げるようなことはしなかったぞ。シーザーよ、剣をとれ。相手をしてやる。」
目の前に剣を突き付けられ正気に戻ったのか慌てて弾き飛ばされた剣を拾う。
そこからは一方的だった。切りかかる剣は受け止め、弾き飛ばされ、レッドリザードの炎も届かず一歩ずつ闘技場の端に追い詰められていく。
最後には最初のように目の前に剣を突き付けられその日の訓練は終了となった。