1話 対話
ひとまず1話目です。これから頑張って書きダメしていくつもりですがどこまで続くか…。
設定のズレ、誤字脱字等あれば教えてください。
その場に崩れ落ちた僕の前にいるのは顔も手もない黒い影、僕が召喚した魔物だ。
「先生、この魔物は?」
知っているだろうに、ワザとらしく誰かが先生に質問する。
「ただの(・・・)ゴーストです。大きな魔力を持つことはできず、物体に触れることができない。稀に人に憑依することもありますが基本的には人の魔力のほうが多いためせいぜい体調不良になる程度の事しか起きません。」
そう、ただのゴーストだ。何かに触れることはできず、魔法を使うこともできない。魔力が通ったものなら棒を振り回すだけで倒すことができてしまう。一応魔物と呼ばれているものの脅威は皆無と言っていいだろう。
「流石、モグラだな。ゴーストを呼べるなんて凄いじゃないか!」
同じ召喚科の学生の言葉を聞きながら元の列へ戻る。
「これで召喚は終了です。今回呼び出した魔物が最初のパートナーになります。各自接触を図っておくように、それでは解散とします。」
誰かに絡まれる前に僕は寮にある自分の部屋に戻ることにした。
ベッドと本棚、机だけがある一人用の小さな部屋。寮の一番端にある一番古い部屋だ。部屋に戻るとまず本棚から図鑑を取り出す。ゴーストのことを少しでも知るためだ。
「ゴースト、死んだ者の魂が現世にとどまったものと言われている。人を襲うことは少なく魔物ではなく現象の一つだというものもいる…」
やはり、強みのようなものは書かれていない。これからの授業では戦闘訓練もあるというのにどうしたらいいか。
「のう…」
微かに、しかし確かに聞こえた声に思わず扉の方を向く。誰かがいた気配はない、そっと扉を開けてみるがやはり誰もいない。
「のう…」
再び聞こえた声は部屋の中からだった。振り返るが誰もおらずベッドのそばに黒い影が浮いているだけ。
「聞こえておらんのかの…」
「まさか、お前か?」
「聞こえておったのか、声が届かずどうしようかと思ったぞ」
声と共にゴーストがゆらゆらと揺れる。先ほどから聞こえていた声はこいつだったのか。
「まさか言葉を話すとは思ってなかったよ、ゴースト」
「儂も話せるとは思わなんだ、ひとまず会話ができて良かったわい」
どこから声を出しているのか、目の前にいるのに反響しているかのようにどこから声が聞こえているのかわからない。
「突然訳のわからない場所にいたもんで、知りたいことが多くての」
「そうかい、僕はセリア。性はないよ。君に名前は…無いか」
「失礼な!名前くらいあるぞ」
魔物が名前を持つなんて聞いたことがない。多少の知性を持つものは居ても基本は獣のようなものだ。
「ごめん、魔物が名前を持つなんて聞いたことが無かったから。良ければ教えてくれるかな」
「すぐに非を認め謝罪するところは好感が持てるの。儂はグリスト、同じく性は無いぞ」
「グリスト!?」
聞いたことがある名前だった。王に仕えていた老兵、剣術は国で上は居ないとされ、戦略にも通じ王からの信頼を得ていたといわれる王の近衛兵。一年ほど前に亡くなったと聞いていたが。
「確認させて貰ってもいいかな、この国には一人グリストという人が居たんだ」
「聞きたいことは分かるがおそらく思っている通りだと答えておこうかの」
「じゃあ、王に仕えていた…」
「うむ、王城近衛兵指導官グリストじゃ。死んだと思ったんじゃがの」
先ほどの図鑑の内容が頭に思い浮かぶ。ゴーストは死んだ者の魂が現世にとどまったもの。つまり一年前に死んだグリストは魂がそのまま現世に留まりゴーストとなった。そしてそれを僕が召喚したわけだ。
「それでは質問させてもらってもいいかの?お主は召喚士でよいのか?」
「うん、エリシア魔法学校召喚科クラスC」
「クラスCとは随分なところに入ったの、武術や魔法クラスは考えなかったのか?」
「残念ながら召喚科以外の適正はDでね、選択肢が無かったんだよ」
大きく分けて武術と魔法の二つ、細かく分けると数は増えるが僕はそのどれもが適正D、つまり才能が無い。教える価値なしと判断され、クラスへの入学を拒否された。わずかにあった召喚士の適正もCと無くはない程度のものだ。
自分でも不満しかない才能。ゴーストになったとはいえ、自分の召喚者がこれだとグリストも失望するだろう。
「フォッフォ、軒並み適正Dとはお主も運がなかったの」
かけられた声は思っていたよりも随分明るい声だった。
「失望…しないんですね」
「失望?なぜそう思う?」
「あなたが認めるかは別として僕は貴方の主です。剣に才能を見出し、国で最強とまで言われた貴方が才能に恵まれず蔑まれている僕の下につく。屈辱的なことじゃないですか」
「ふむ、才能あるものが…いや、才能があったものが無いものの下につくのは屈辱的なことだと。命が変わったとしてもそれは認められないことだと思うのじゃな」
当然だろう、才のある者が才の無い者に使われる。自分より下の者に命令されそれに従い、主として扱う。普通はそんなことしたくない。
「なら、全く問題ないの」
「え?」
「当然じゃろう、今の儂は剣を振るうどころか触れることすらできん。召喚ができた時点で魔法もお主のが上じゃ。儂は言ってしまえば軒並みどころかすべての適正がDじゃろう。ん?それ以下かの。力でも才でも上回るお主を主と認めずしてどうする。」
「でもっ!以前の貴方は!」
「才も力もあったと?そうじゃな、確かに力はあったかもしれん。しかしそれは以前の話、今はもう別の命よ。それに力でも才でも王より上回っている者はいくらでもいるのになぜ皆が従う?」
「それは…」
「それに、以前の儂にも才能は無いんでの」
才能が無い?国で最強とまで言われた人が才能が無いと?魔法の才なら無かったがそれを補って有り余る剣の才があったはずだ。
「儂の剣の才はCじゃったよ、魔法はすべてD。剣術ではなく槍術ならBくらいあったんじゃがの」
「なにを、貴方は剣術で上り詰めたはず。槍術なんて聞いたことも」
「使ってないからのう、剣のほうが好きじゃったんじゃ。ほら、カッコいいじゃろ?」
何を言っているか理解できない。剣術の適正より槍術の適正が高かった?剣術の適正がC?そんなはずは無い、だって剣術で上り詰めた、最強と呼ばれたグリストだぞ?
「槍もカッコよくないとは言わんがの、剣のあの振り切る感じが好きだったんじゃ。槍で突くよりも剣でスパッと切り裂いたほうが派手さもあるし、何より騎士といえばやっぱり剣じゃろ」
「嘘をつかないで下さい。そんなことあるわけがない」
「本当なんじゃがのう。儂を昔から知っている人なら、そうじゃ、王にでも聞けばすぐわかるぞ」
とても嘘をついているとは思えない明るい声、思い出しながら剣の魅力を語るゴーストは時折ゆらゆら揺れ少年のようなはしゃぎ方だった。
「じゃから剣は…と話しがそれたの。ひとまず儂がお主に不満を抱くことは無い、この体じゃ何もできんしの。何ができるかは分からんが儂にできることはさせてもらおう。剣の振り方でも教えようかの?」
「そう…、よろしく頼むよ。グリスト。」
「頼まれた!セリアよ、厳しくいくからの?」
認められて、初めて名前を呼ばれて、剣を教えてもらえることになって、僕の中の不満は割とどうでもよくなっていた。