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短編・季節もの

けーきのゆーれー?

作者: 鵠っち

 あなたのクリスマスケーキは誰がつくりますか?

 冬の話をいたしましょう。

 冬に定番のものと言えば、クリスマスケーキかしら? わたしは雪のように真っ白なホワイトクリームのケーキが好き。ああ、でも、やっぱりチョコレートも捨てがたいのよね。チョコレートの地面に、パウダーシュガーの粉雪が降っているの。今年はどっちにしようかしら。

 このお話は、そんなクリスマスケーキのお話。ちょっと聞いてくれる?


 何年前だったか。……十年くらい前だったと思う。

 学生時代の友達と何人かで、雪を見に沖縄に行こうってなったのよ。もうこの時点で意味不明なんだけど、その時はみんな酔っぱらっていて、気が付けば人数分の飛行機のチケットとホテルを予約してしまったの。まあ、無事に予約が取れちゃったからってことで、みんなで沖縄に行くことになったのよ。

 沖縄とはいえ、冬はやっぱり寒くなるわけで、調子に乗って半袖にミニスカートなんてのが一人、初日に風邪ひいちゃうくらいで、まあ、何事もなく、普通に観光して、あー、楽しかったねー、って終わるものだと、その時はみんな思ってたわ。

 でも、その風邪ひいた子がね、夜中におかしなこと言い出したからって、その子がいる部屋に行ったの。あ、部屋割りは、ツインが三部屋と、シングルが二部屋で、……って、なんで六人しかいないのに、そんなにたくさん予約したんでしょうね。で、その子はツインの部屋でもう一人一緒にいたわけ。だから、その一緒にいた子に呼び出されたってことね。

 で、その部屋に行ったら、なんだかやたらと寒くてね。冷房の設定を変えようと思ったら、このホテル、空調は全館一律管理になってて、フロントに内線つないでも対応してもらえなかったから、仕方なく毛布だけ頼んだの。程なく毛布が届けられたんだけど、やっぱり、温度が下がりすぎだってことで、対応してくれることになったの。

 で、またしばらくして、「お加減どうですかー?」なんてやってきたんだけど、全然寒さは変わらないし、「あれ、まだ寒いですね」なんて言って、もうちょっと温度を上げてくれることになったんだけど、それが何回か続いて、これは本格的におかしいってことで、空いてる部屋がまだあったから、そこに移してもらうことにしたの。あー、これでやっと寒さから解放されるーって思ったわ。

 それから一旦自分たちの部屋に戻って、相部屋の友達と「あの部屋寒かったねー」なんて言って、少し寛いでたんだけど、しばらくして、また呼ばれたの。

 その風邪の子の様子がまたおかしくなったって言うから慌ててまた行ったのね。そしたら、またその部屋が寒いのよ。空調が大丈夫なことを確認して、移してもらったのに、またこの部屋も寒くなったって、このホテルの空調、調子悪いんじゃないかって話にもなったんだけど、またフロントに内線つないで来てもらったら、こないだ点検したばかりで、異常はないはずだっていうのよ。

 まあ、風邪の子はすやすや寝てたから、別におかしな感じじゃなかったんだけど、やっぱり寒いのは寒いみたいで、毛布にくるまってすごい寝苦しそうにしてたわね。

 で、また少したって、「ケーキー、けーえーきー」ってうわごとを言うようになって、帰ってから風邪がよくなったら、みんなでケーキ食べよっか、って話になったの。そんな話が聞こえてたのかどうかは分からないけど、とりあえずは、うわごとが止んだのね。

 それからまた少したって、また「けーきー」ってうわごとを言うようになって、しばらくすると普通に寝るの。それが何回か繰り返して時間が経ってくうちに、なんだかだんだん寒くなってない? って話になったのね。まあ、わたしとしては最初から寒かったから、あんまり変わらないように思ったんだけど、たしかに、ずっと寒いのよね。普通はだんだん寒さが気にならなくなるはずでしょう?

 で、寒くなるタイミングが「けーきー」のタイミングだって誰かが言い出して、そう言われると、なんだかそんな気がしてきてしまうもので、「けーきー」のたびに、みんなでブルブル震えるようになったの。

 で、そんなのが続いて、だんだん息が白くなってることに気が付いてね、これは空調の故障なんてものじゃない、真冬にケーキが食べられずに死んだ人の霊が憑いてしまったんじゃないかってことになって、でも、このときはクリスマスにはちょっと早くて、フロントで近くのケーキ屋さんに聞いてもらっても、クリスマスケーキなんてまだ作ってないって言われちゃって……。

 じゃあ、しょうがないってことで、みんなで材料を買ってきて、いちごのショートケーキを作ることになったの。まあ、出来合いのスポンジに、出来合いの生クリームを絞って、いちごを乗っけただけなんだけどね。で、作ったら、なんかすごい勢いで、普段は本当にお上品に食事をする子のはずなんだけど、手掴みでバクバク食べ始めたの。みんなもうビックリしちゃって、まあるいケーキ一個食べちゃったものだから、口の周りってのじゃ済まなくて、すごい食べ方してたから、パジャマの上も、床も、クリームでベタベタになっちゃってて、とりあえず、顔はちゃんと拭いてあげて、床も一応はきれいにして、パジャマはしょうがないから、わたしの予備のシャツを貸してあげることになったの。

 で、いきなり糸が切れた人形みたいにパタンと倒れちゃって、どうしたものかって思いながら、みんなで交代しながら一晩様子を見ることにしたの。

 そしたら翌朝になって、今までなんだったのー! ってくらい、いきなり元気になっちゃって、しかも、夜中にケーキ食べたこととか、部屋が寒くて毛布にくるまって苦しそうにしてたこととか、全部、きれいさっぱり覚えてないみたいで、しかも、昨日行く予定だったところに行く気満々になってて、いったいどうなってるのー! って感じで、あなたが風邪ひいて虚ろだったうちに今回の旅行の日程は消化されましたってことを伝えて、本当になんにも覚えてないみたいで、もう説得するのが大変だったの。最終的に、携帯の日付を見て納得するとか、ちょっと労力返してって感じだったわ。

 帰り際に気が付いたんだけど、帰るころにはもう部屋が寒くなくって、そういえば、ケーキ食べさせてたくらいから寒いの気にならなかったなー、なんて思って、やっぱり、ケーキの霊がいたんだってことになったのよ。


 とまあ、クリスマスのたびにそんなことを思い出しちゃうのは、なんででしょうね? もしかして、あなたがあのケーキの霊の正体だったりして。ふふふ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が今でもどこか子供っぽくて、子供の時にこんな出来事に遭遇しているのが、納得がいきます。 [気になる点] 漢字が多いので当時のことをまるでその場で体験しているかのように鮮明に思い出して…
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