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王子さまは蚊帳の外  作者: 相模
1/3

1(主人公視点)

※キャラに名前はついていないので読みにくかったらすみません。


 この国には王族貴族の子女たちが通う王立学園がある。

 そんな王立学園に、ひとりの女の子が入学してくる。

 彼女は元は平民だけど、とある子爵の令嬢にそっくりで、駆け落ちしてしまったその令嬢の身代わりとなって学園にやって来た。子爵はその間に令嬢を見つけ出して連れ戻してくる手筈になっていた。

 金で親から売られた彼女は、当たり前だが貴族としてのマナーなんて身に付けていない。入学前に子爵家である程度知識を学んできたが、所詮は付け焼刃。

 けれど持ち前の前向きさと愛嬌、何より努力によって彼女は学園生活を乗り切る。そしてその間に学園にいる王族や令息たちと仲を深めていく。イベントという名の立ちふさがる弊害をすべて乗り越えて、ゆくゆくはその中の一人と結ばれる――。


 それが、あたしが生前やり込んでいた乙女ゲームだった。

 そしてあたしはその乙女ゲームの世界にヒロインとして転生したらしい。それを理解出来たのは物心ついてからで、それから十数年が経ち、ようやくゲーム本編に年齢に追いついた。

 つまり、あたしは今ゲームの本編にいる。

 二ヶ月程前に学園に入学を果たしたあたしだったけれど、半月ほどでおかしなことに気付いたのだ。


 あたしはヒロインだ。この世界の主人公だ。

 つまり、あたしの行動次第で落とせない攻略キャラクターはいない。

 現時点での攻略キャラは全部で6人。公爵や伯爵の息子だとか王の異母弟の教師だとかいるけど、あたしが攻略したいのはたったひとり――この国の王子。

 ここは乙女ゲームの世界なので大体NPCだってそこそこイケメンなのだけど、やっぱり攻略キャラは際立ってイケメンだ。

 金髪碧眼の目鼻立ちが良く、長身でそこそこ体格も良いし声だっていい。そして王子さま。

 素晴らしいな。パーフェクトだ。

 なぜかって言うと、あたしは王子さまと庶民ヒロインの組み合わせが大好きだ。だから王子ルートは何度もプレイした。


 ここは乙女ゲームの世界でも、あたしはこの世界で生きている。

 つまり、セーブもロードもリセットも出来ない人生だ。だったら一番好きだったキャラを落とさないでどうする。


 ――だと言うのに!!



 窓の外を見れば、中庭のバラ園で仲睦まじそうに歩く2人の男女の姿があった。

 ひとりは王子。あたしが攻略したいキャラクターだ。

 そしてもうひとり、王子に寄り添うようにして並び立つのは銀髪の女性だった。

 2人は今が見頃のバラの前で立ち止まっていた。


「まぁ、見てくださいな。すてきなバラですわ」

「あぁそうだな。しかしおまえの麗しさには勝てはしまい」

「あっ、殿下。そんな……」


「――ちょっと、変なアテレコやめてくれない?」


 あたしの横に立って、にやにやと笑いながら彼らの会話を勝手にでっちあげる赤髪と緑髪を睨みつける。


「はは、でもそんな感じだったじゃん」

「そうそう。もう他には目もくれないって感じで超ラブラブ。ヒロインさまの入る隙はねーってよ」


 残念だったな、とげらげらと下品に笑うこの緑髪の男、これでも腐っても伯爵令息だ。その隣りの赤髪は近衛隊隊長の息子で王宮では王子の護衛を務めているらしい。どっちも未来の上位貴族様だけど、まったく品の欠片もない。


「なぁ、王子の側近とかいねーの? 出来れば黒髪で目つきが悪くてでも王子には絶対服従なやつ」


 振り返ればテーブルに脚を投げ出して座るという行儀の悪い男がつまらそうに言うので、呆れた調子で返してしまう。


「そりゃあんただっての」


 王子とは乳兄弟の黒髪三白眼男は「俺か~」とがっかりした様子だ。


「生憎と俺、夢要素は持ち合わせてないからな~。王子はモロ好みなのに。普段絶対服従の側近に下剋上してもらいたいんだけど」

「わかる。今まで従ってきた相手を精神的に屈服させるというのはオレも嫌いではない。特に相手がツンデレ美少女だと言うことがない」


 黒髪の隣りで今まで静かに本を読んでいた男は、銀縁眼鏡の奥で涼やかな瞳をさせたまま「ニーハイ穿いてたら満点」なんて言う。顔と言ってることが一致してなさすぎる。いや、もはや彼だけではなくここにいる全員がそうなのだろうけど。


 もはや説明するまでもないだろうけれど、彼らは全員あたしの攻略対象キャラだ。そしてあたし同様に転生者でもある。そう、全員。

 この学園に入ってきて、それを知った時は「ありえない!」と叫んだものだった。でも先にお互いが転生者であることを確認済みだった彼らは「一人いれば三十人はいるから」と開き直っていた。生命力溢れる黒い生き物じゃないんだから。

 ここにはいないけれど、王弟の教師も転生者だ。まだちゃんと話したことはないんだけど。

 ただ彼らは日本で生きてきたという記憶は持っていたが、ここがどういった世界なのかは知らなかった。おそらく少女漫画か乙女ゲームの世界なのだろうということは把握していたようなので、改めて説明させてもらった。

 ちなみに、彼らがなぜここが元は二次元の世界だということまではわかったかと言えば、彼らがもれなくオタクと呼ばれる人種だったからだ。キラキラした外見と、どこか聞き覚えがある声で判断したらしい。


 緑髪の伯爵令息はRPG好きのゲーマー。

 赤髪の護衛はアニメ好き。特に魔法少女系。

 黒髪三白眼の王子の幼馴染はBL好きの腐男子。

 で、眼鏡男は王子の右腕で将来の宰相候補である公爵令息でラノベ好き。


 ただでさえオタクなのだから、二次元に転生したという事実は受け入れやすかったに違いない。それでここに乙女ゲームもしくは少女漫画が大好きなあたしがやってきたことによって、ここが乙女ゲームの世界であることに納得していた。オタクは話が早くて助かる。

 あたしが下町で王子をゲットするべく外見内面ともに磨いている間に、彼らも将来に向けての計画を立てて実行していたらしい。

 たとえばゲーマーの伯爵令息は冒険の旅に出るべく、地図の用意やら自分以外の跡継ぎの用意やらしていたとか。

 たとえば魔法少女好きの赤髪の護衛はこの世界には魔法という概念は存在しないけど、もしかしたらの時に備えて魔法少女用の衣装やら杖やらを用意しようと自作してるとか。

 なんにしても王子にしか興味がないあたしからしてみれば、どうぞご勝手にと言ったところだ。


 さて、ここまで攻略キャラが転生者であると、さしものあたしも王子ももしかして? と疑わねばならない。

 しかし王子はどうやらそんなことはないらしい。なんということでしょう! まるであたしのために誂えたかのような設定! この世界に転生させてくれてありがとう!

 入学して数週間そこそこでその情報をゲットできたあたしは、とにかく王子とのイベントを発生させるべく動いた。王子のイベントはすべて頭の中に入っている。その発生条件も。

 あたしはその条件をクリアしていたはずだ。いや、していた。


 ――なのに、あたしは全然王子と近付けなかった。

 対面イベントは何とか済ますことができたけれど、思っていたほど手ごたえを感じることが出来なかった。

 ゲームだと会話の途中で何度か選択肢があって、それを間違えさえしなければ好感度はかなり上がって次のイベントに移せる。けど、そのイベントが発生しない。

 間近で王子を見て、そして会話をすることが出来て舞い上がっていたあたしは、その疑問が沸くまで半月という時間がかかってしまったのだけど。

 それから一ヶ月半、入学して二ヶ月が経過して、攻略キャラ予定だった転生者の彼らからの情報、そして眼前の光景を見て確信するに至った。


 王子と仲睦まじく歩く銀髪美少女。


 あたしの記憶によれば、彼女はあんな風に髪を垂らしてはいなかった。いつだってメイドに複雑に編み込ませてアップにさせていた。服装だって、もっとがんがんに改造しまくって元の制服ってどんなだった? なんていうほどにしていたはずなのに、彼女の制服はみんなと同じだ。そして何よりも違うのは、その態度。

 彼女はその美貌と侯爵令嬢という立場で、高慢で我儘ばかり、何人かの女生徒を従えてヒロインに陰険なやり方で嫌がらせを繰り返していた。なぜかって? 彼女が王子の婚約者だからだ。

 政略によって決められた婚約で特別王子を愛しているわけではなかったが、やがては今よりも高い地位である王妃になれるのだから、王子を横取りしようとするヒロインが気に食わなかったのだろう。

 主人公はその彼女からの嫌がらせを素直に受けて耐えて王子への愛を手に入れる――のではなく、その嫌がらせをいかに回避するかによって王子への攻略ルートが続いていく。意外と姑息な手がものをいうゲームだった。

 ともかく、そういう性格だったのだ。悪役の侯爵令嬢……悪役令嬢は。

 けど、実際の彼女にはそういった様子が微塵もない。

 ヒロインであるあたしに嫌がらせなんてしてこないし、意地悪そうな女生徒を従えて横柄な態度を取ることもない。

 楚々とした、誰もが見本にしたがるような、そうした典型的なお嬢様だったのだ。


 ははん、なるほどね。

 ここまでくれば誰だって気付く。

 王子は転生者ではなかった。でも、彼女は転生者だったに違いない。そしてあたしと同じように、この世界の元となった乙女ゲームのストーリーを知っている。自分の役目も、そして末路も知っていて、だからこそそれを回避するべく、みんなと同じように記憶を取り戻してから奮闘してきたのだろう。

 一人いれば三十人いるとはよく言ったものだ。探せばまだまだモブとかからも出てくるに違いない。しかしそれには興味はない。

 あたしの興味は最初から最後まで王子だけだ。

 王子ルートに入って、彼とのエンディングを迎えてその後の人生もバラ色にまみれて過ごすことが、あたしの人生設計であり野望だ。

 たとえ転生者だろうが、あたしの王子を奪うつもりなら容赦はしない。


「なるほど、同担拒否か。わかるわかる」


 いつの間にかやって来た教師が、したり顔で頷いている。

 ここは空き教室で、あたしたち転生者が放課後暇なときに集まる部屋となっていた。溜まり場だ。息抜きをする場所とも言える。何せ、みんなそれなりに地位があり守らなければならない外聞というものがある。こうして素など殆ど出せないのだから息も詰まるものだ。

 三階建ての校舎の端っこにある、この教室を職権乱用して管理をしてるのがこの教師だ。ちなみに転生者で元は重度のドルオタだ。

 同担拒否……誰だって結婚相手と決めてる人は同担拒否だろう。いやだよ、許容している人なんて。

 適当に相槌を打って、また窓の外へと視線を移す。ちょうど彼らは移動するところだったようだ。王子に促されて歩こうとする侯爵令嬢が、不意に顔を上げた。


「? ……っ」


 何かと見つけたのかと思ったが、彼女はよりにもよってこちらに目を向けて――嗤ったのだ。

 窓ガラスを挟んでいたが、彼女は確かにあたしと目を合わせて嗤った。あたしを、嗤った。笑う、なんて可愛いものじゃない。嘲笑だ、あれは。

 まさしくゲーム中に何度も見てきた、悪役令嬢の微笑みだ。うっかり選択肢を間違えてバッドエンドになった時の笑顔そのものだ。

 ぶちぶち、と掴んでいたカーテンの繊維が破れる音がする。怒りで目の前が真っ赤に染まりそうだった。


「っ――――!!」


 空き教室にもかかわらず、かかっていた繊細なレースのカーテンは無用の長物と成り果てた。


「おぉー、すげぇ。強かじゃん、彼女も」

「腹黒キャラは嫌いじゃないな」

「だったら、あんたがあの子攻略してきなさいよ!!」


 手の中でぐしゃぐしゃになったカーテンを伯爵令息に投げつけたが、「俺の専門はRPGだし、何より貧乳が好きだから」と断られてしまった。

 令嬢は豊かな胸の持ち主だった。


 

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