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ドラゴン殺しの弾丸  作者: 秘匿
異世界の大森林
7/25

#01-4 異世界の森で狩猟採集せよ!

 あれから4日ほど経過した。


 その間、オレは植物採集を主にやっていた。もちろん食べられそうな植物を探し回っていたのだ。

 異世界固有の食用植物はたくさん見つかった。種類が多いので割愛させてもらうが、一言だけ付け加えるなら「見た目だけでは判断できない」だろう。

 ちなみに「ハズレ」はだいたい7分の1の確率といったところだ。症状は激しい腹痛、下痢、嘔吐、めまい、発熱、皮膚の炎症などなど。

 ……試食は安全な拠点内でやるべきだった。まあ、とりあえず死んではいない。



 密集している草むらから頭だけひょっこりと出す。

 その顔面はドーランメイクがところどころ剥げ落ちていて、代わりに泥土とホコリと疲労の色に染まっていた。


 慎重に見て回って、ようやく視界の隅に目印をとらえてオレは深く安堵した。やれやれ、やーっと帰ってこられたよ。

 周囲の安全を確認すると、今度こそ草むらから全身を引き抜いた。

 戦闘服も携行品もみんな薄汚れている。それも当たり前、予定の倍以上の時間を森でさ迷っていたのだから。持ってきた食糧をギリギリまで切り詰めてなんとか生き延びたのだ。


 ……言い訳ではないが、帰り道はしっかりと把握していた。一度も迷ってはいない。

 だがはじめて目の当たりにした壮大な新緑の風景や起伏に富んだ美しい地形に感動したり、雄大な自然で力強く生きる動植物のありのままの姿を観察していたら、ついつい時間を忘れてしまったのだ。



 それといざ帰ろうと思い立った矢先のことだ。

 あからさまに危険そうな生物に出くわしてしまった。いや、あれはもう「魔獣」と呼んでいい存在だろう。

 その魔獣はイノシシ型の四足獣で、巨体からは威圧感だけでなく魔力のようなものを発散していた。あ、いや、雰囲気なんだけどね。魔力とかオレそういうのわかんないし。

 不幸中の幸いで相手はオレの存在に気づいていなかったが、あいにくその魔獣はちょうど帰りのコースに陣取ってしまっていて、帰るに帰れなかったのだ。


 けっきょくは動く気配のなかったイノシシ型の魔獣を迂回するコースを選んだのだが、これがまた大変で、いくらか離れるまでずっとほふく前進での移動するはめに。

 しかも魔獣の索敵範囲が思っていたより広かったので、予想の倍の距離を移動することになってしまったのだ。

 思わぬところで緊張状態が続いて、くたくたに疲弊したが結果的には無事だ。腹は減ったけどケガひとつない。なんとか窮地を退けられた。



 とはいえ苦労に見合ったように、その成果は上々だ。


 この広い森林には新鮮な湧き水がいくつも点在しているようで、そのまま飲めそうなものだけでも4か所は発見している。ほかの水源も煮沸消毒すれば問題ないはずなので、水源に困ることはまずないだろう。

 食べ物も無事発見できた。正確には『食べられそうなもの』だが、豊かな森だけあっていろんな果実や香草がたくさん生えていた。

 いくつかはその場で味見してみたが、試食せずに持ち帰ってきたものの方が多い。あとかなり悩んだのだがキノコ類の選別は難易度が高いので今回は見送ることにした。


 それと見つけた食べ物の中でもちょっと驚いたのが『リンゴ』だ。

 拠点からいくらも歩かないところの果樹に生っていたのをたまたま発見した。どこか見覚えのある赤い果実、手のひらサイズの小さなハート型に変形していたが、試しに一口かじってみたらやっぱりリンゴだった。

 きっとオレと同じくなんらかの理由で異世界に転移して、その種がこの森で根付いたのだろう。植物の生命力にはいつも驚かされる。

 リンゴがあったのだからほかの果物があっても不思議ではないと考えて、バナナの木なんかも探していたのだが、けっきょく見つかったのはウォーターツリーくらいだった。ホント、水には困らない森だなあ。


 水が豊富、植物も豊富とくれば当然――――今宵の晩餐はご馳走だ。

 肩に背負っていた木の枝にぶら下げているのは、今回の探索の最大成果といえるだろう。

 実は拠点から出発してすぐの場所にちょっとした罠を仕掛けておいたのだ。帰りがてら立ち寄って覗いてみると、小型の魔獣が見事に罠にかかっていた。

 オレは手に入れたばかりの新鮮な食肉を誇らしげに掲げた。



 オレは荷物を置くと、まずは焚き火を熾すことにした。

 もちろん調理用に使う火だ。それに長時間、森をさ迷っていたので体温が下がってちょっと寒い。これから夜になるので照明としても獣除けとしても使えるような、ちょっと大きめの火を用意しようと思う。


 焚き火を熾すのは拠点からちょっと離れた位置。なるべく木々に延焼しないような、いくらか拓けた場所だ。

 拾ってきた枯れ木の枝を井桁状に組んでから火をつける。

 キャンプファイアーのミニチュア版のようなものだ。本当はしっかりとしたかまどを作りたかったが、石材も時間も足りなかったので仕方ない。

 ちなみに火種はむこうから持ってきたオイルライターだ。

 憧れのミリタリー映画の影響で一式そろえたものをテッパチにくくりつけていたのだ。肝心のタバコは一回死ぬほどむせて早々にやめてしまったが。まあ、とにかく火種は重要なので大事に使おう。

 枯れ木が派手に燃え始めた。タイミングを見計らって今度は生木を上に積み重ねていく。

 この生木は燃えにくいが樹脂をたっぷりと含んでいていい燃料になるのだ。火種として紙やオガクズ、燃え始めたら細い枯れ木、火が強くなってきたら生木、という風に順を追っていけばあっという間に火を大きくできる。



 さて、指先が温まったところだし、そろそろ獲物の解体を始めようか。


 罠で捕らえたこの魔獣を「ツノウサギ」と呼ぶことにしよう。

 見た目は外国の魔物図鑑に載っている「ジャッカロープ」と呼ばれているものに酷似している。というかそのまんまかもしれない。

 小型とはいえその大きさは両手で抱えるほどあり、重さは毛皮をふくめて10キログラムくらいありそうだ。オレのとらえたこの個体はコーヒーっぽい色の体毛で、仮名のとおり立派な一本角が生えている。


 ツノウサギは仕掛けた罠から取り外したときについでにシメていて、血抜きと内臓抜きの下処理までしてある。内臓は少し迷ったが食べずに埋めて捨てることにした。

 背嚢から小さな折りたたみナイフを取り出す。毛皮つきのツノウサギの解体には銃剣では大きすぎるからだ。

 そもそも食品を扱うのに銃剣はむいていない。というか銃剣で食品をさばくとか、いかんでしょう。いち自衛官としてそんな暴挙を許すわけにはいかない。


 毛皮1枚でつながっていた頭部と膝から先の部分を胴体から切り離す。

 むこうの世界のウサギと同じように関節部分は軟骨らしく、チーズのようにスパスパ切れた。内臓のときも思ったが、どうやら構造や中身に大差はないらしい。

 肉と毛皮の間にナイフを丁寧に入れていく。

 きちんとなめしているヒマはないが、傷の少ないきれいな毛皮ならばなにかに使えるかもしれない。しかし乾燥保存用の大量の塩がないため、すぐにダメになってしまうかもしれないが。

 血抜き、内臓抜き、頭部と足の先を取り外し、皮剥ぎまで済ませると重量は半分以下になる。これにさらに骨があるのだから可食部は意外と少ない。美味いところになるとさらに少なくなるだろう。

 丸裸にした肉をさらに解体する。とはいえここはざっと大雑把に済ませる。もも肉、胸肉、背肉、あばら肉くらいで十分だ。

 それぞれの部位をあらかじめ用意しておいた大きな葉っぱに包んで保存する。本当ならこっちも保存用に塩や香辛料がほしいところだが、ぜんぜん足りないので仕方ない。腐ってしまう前に食べきってしまおう。


 今日すぐに食べるのは熟成がはやいあばらの部分だ。さてどうやって食べようか?

 ふと気が付くと、焚き火の勢いが落ちていた。

 すでに灰の底でわずかな赤色がくすぶっているような燠火に変わっている。燃料の薪を追加で放り込む直前でオレは手を止めた。

 ……うん、これを利用して調理しようか。なにを作るかが決まった。


 勢いの落ちた焚き火はいったん放っておいて、保存用にも使った大きな葉っぱをまた採ってくる。オレの腕よりもこの葉の一枚のほうが大きいくらいだ。

 この葉っぱはどこかバナナの葉に似ている気がする。保存に使ったり料理皿にも使える。この大きさなら重ねて屋根なんかにも使えそうだし、ほかにも使い道が多そうだ。

 葉っぱの上に塊肉をたっぷり500グラムは乗せる。あばら肉はもちろん骨付きだ。臭み消しの香草(らしき草)をいっしょに包み込んで、そのまま灰の中に潜り込ませた。

 こうすれば弱火でじっくりと蒸し焼きになるはずだ。ローストウサギだ。なあに、多少コゲてもどうってことはない。これぞ男の料理よ。


 近場の水源まで水を汲みに行く。飯盒を使って戦闘糧食のパックメシを湯せんで温めるためだ。

 肉に満足な味付けができなかったから、主食は味の濃いドライカレーにしようか。今日は5日ぶりの温食、5日ぶりのご馳走だ。

 焚き火のほうから漂ってきたメインディッシュの焼ける香りに、オレの顔は自然にほころんでいく。


 完成したツノウサギのリブローストはとても美味しかった。



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