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ドラゴン殺しの弾丸  作者: 秘匿
異世界の大森林
5/25

#01-2

 遭難3日目。

 ふたたびながい夜が明けた。


 オレは植物の葉と雨具で建てた即席の仮設天幕から這い出した。

 寝起きで大きく背伸びをしたオレは、そのまま天幕に異常がないか調べ始める。

 この天幕(仮)は樹木で形作られたかまくらのような空間に防水のセパレーツ(雨がっぱ)を取り付けただけの単純な造りだ。いちおう二重構造になっているので雨風くらいはしのげる。急ごしらえで建てたため、正直なところ「天幕」とは呼べない粗末な空間だ。

 しかし同じ野宿、同じ地べたで寝るとはいえ、屋根があるだけでもぜんぜん違うものだ。

 こうなんと言うか、安心感が生まれてゆっくりくつろげて熟睡できる。見てくれこそ悪いものの、こう見えて中の空間は意外と広い。3人くらいなら並んで眠れる。


 点検の結果は異常なしだ。ちょっとくらい強い雨が降っても問題はない。

 本日はまずこの天幕が目立たないようにさらなる偽装を施すつもりだ。より秘密基地っぽい造形にしてロマンあふれる空間にするつもりだ。嗚呼、素晴らしき少年の頃の夢。ビバ、秘密基地。

 もちろんほかにやるべきこともあるし、今日も忙しくなりそうだ。



 なにはともあれ、起床したらとりあえず洗顔をしたくなる。

 オレは先日発見した水場に移動する。


 この森の空気がしっとりしていることやところどころ苔むしているのは、あちこちに沢があるからだ。合流して立派な川になったものもある。湧き水もいくつか確認している。この森は水源がいくつも存在していて、だからこそ緑が豊かなのだともいえる。

 拠点からちょっと離れるだけで複数の水源があった。これは喜ばしいことだ。サバイバルにおいては水の確保が最優先とされる。まだそのまま飲めるような水かどうかは確認してないが、顔を洗ったり口の中をゆすぐくらいなら問題はないだろう。

 水源がこれだけ豊富だと、体を洗ったり服を洗濯したりできるので衛生面から見てもありがたい。仮に飲料水として使う場合、生水は腹を壊す危険があるが、煮沸消毒すればその問題はほぼなくなる。

 そう考えるとオレはけっこういい場所に迷い込んだのかもしれない。いや、迷ってる時点でぜんぜんよくないけど。


 道すがらまだ若い小枝を一本拝借した。そのまま枝の片側を噛み潰してフサフサの毛束のような形にする。天然の歯ブラシだ。

 使い方に少々コツがいるが、口の中を清潔にするには十分な仕上がりだ。しかもこの枝からはスースーするハッカにも似た香りがした。こいつは大当たりだ。最高の気分で歯磨きができる。朝っぱらから運がいい。


 今朝にたどり着いた水場は、なんと初日に出くわした赤いドラゴンがいた場所からさほど離れていない。さらにもうちょっと奥へ進めばドラゴンの大火球だか火炎ブレスが着弾した爆心地があるような場所だ。

 実はオレが拠点を設営した場所をふくめた一帯は、野生の獣がほとんど近づかない安全地帯になっている。よっぽどあのドラゴンが恐ろしかったのだろう、野獣の姿形はおろか気配すら感じない。

 こんなところに立ち入るのはオレのような物好きくらいだ。おかげで野獣や魔物に遭遇することなくのんびりとした雰囲気で朝の洗顔ができるわけだ。


 ドラゴンの加護はまだしばらくはもつだろう。

 それまでに今の仮宿でないちゃんとした新しい拠点を構えるもよし、この大森林から脱出するもよし、もちろん元の世界に帰って原隊復帰できればなおのことよしだ。

 せめて周囲の様子を探ったり、凶暴な魔獣への対策をしたりと最低限のことぐらいはやっておかねば。


 洗顔と歯磨きを終えたオレは、折りたたみ式の携帯ショベルを持って生い茂った草むらのほうへ向かった。

 え? 今度はなにをするかって? ……ちょっとお花を摘みに行ってきます。



 時刻は昼前、オレは簡易天幕の前で荷物をすべて広げていた。

 これからちょっとした装備の点検と、持ち物の再確認をするつもりだ。


 先日も点検したが、あれはあくまで破損してないか、無くしてないかとかそういうことしか点検していない。

 今回はオレがなにを持っているのか、という確認になる。これは大事なことだ。オレはなにができて、なにができないのか確かめるために必要な作業だ。

 さっそくひと通り見てみよう。


 まず『戦闘装着セット一式』だ。

 身に着けている迷彩戦闘服を始め、足には半長靴、88式鉄帽には迷彩覆と偽装網がついている。戦闘弾帯にサスペンダー、戦闘手袋も含めるとオレの全身は迷彩一色だ。あ、半長靴だけは真っ黒だった。戦闘服に関しては替えが1着だけある。手袋ももう1組だけ予備があった。


 さらに細々とした備品を確認する。

 戦闘雨具、これは「セパレーツ」とも呼ばれる雨がっぱのことだ。背負った荷物も覆えるので大型のポンチョといった方がいいのかもしれない。セパレーツは迷彩柄とOD色の2組あったが、OD色の方は天幕に使ってしまっている。

 包帯が入った戦闘救急品袋、折りたたみ式の携帯ショベル、戦闘飯盒に水筒、これらにももちろん迷彩柄の覆いが付属している。


 それから荷物がぎっしりと詰まっている戦闘背嚢(はいのう)雑嚢(ざつのう)

 これはいわゆるバックパックと肩掛けカバンのことだ。行軍で苦しめられたオレにとっては複雑な気分だが、容量がたっぷりと入るのでかなり使い勝手がいい。背嚢は本格的な登山に使うようなものとほぼ同じで、大量の荷物を背負ってもうまくバランスがとれるような構造になっている。中身は後述する。


 そしてみなさんお待ちかね、89式小銃と銃剣だ。

 これらは普通科だけじゃなく、自衛官全員に一人一丁貸与される一般的な装備だ。

 銃剣の正式名称は「89式多用途銃剣」といい、金属のこぎりやワイヤーカッターとしても使える優れものだ。しかし配られた時点では刃がついていないので、きちんと研いでおく必要がある。


 これら基本装備一式に加えて、さらに教官たちが追加で用意した装備がいくつかある。

 ひとつがこのゴツい防弾チョッキだ。なぜか防弾プレート付なのでそれだけで重さが10キロをかるく超える代物になる。

 それと防護マスクだ。これは鼻口だけでなく顔面を覆うタイプだ。NBC兵器がないと思われるこの森で役に立つかどうかは謎だ。

 さらになぜか持たされたのがギリースーツ。これは偵察や狙撃手が使うような偽装網だ。ちなみにテッパチの偽装網も新兵が使うようなもんじゃない。



 オレはいったん休憩をはさんだ。

 装備だけでもけっこう数がある。しかしどれも役に立つかどうかはわからないものばかりだ。たぶん本来の使い方以外にも、いくらか工夫や応用をきかせないとダメだろう。天幕の屋根に使ったセパレーツのような感じで。


 さて、お次は背嚢と雑嚢にぎっしりと詰まった中身だ。

 どちらかといえば、自衛隊の標準装備よりもこっちの中身の方が重要なのではないかとオレは思っている。たとえば水とか、たとえば食糧とか。


 まず取り出したのは、水が満タンに入ったペットボトルだ。

 この2リットルのペットボトルは全部で5本だ。1日1本だとしても5日分しかないが、幸運にも水源は周囲にたくさんあるため大した問題はないだろう。

 むしろペットボトル容器そのものに価値がある。水を汲み置ける道具はいつ何時でも重宝するものだ。こんな場所に迷い込む前はただの重りでしかなかったのに思わぬ大出世をしたもんだ。


 そして食べ物、「戦闘糧食」と呼ばれるいわゆるレーションのことだ。

 こっちはおよそ20食分あった。同じ班のやつらがこぞってオレに持たせたからだ。

 1日2食だとすると約10日分。レーションというものはカロリーがバカみたいに高いから1日3食じゃなくても大丈夫だろう。ちなみにプラスアルファで増加食――いわゆるおやつ――も隠して持ってきた。


 あとは本当に細かいものばかりだ。

 いくらか大目に持ってきてある着替え。今回の訓練ではたくさん汗をかくだろうと踏んでいたため、下着類の替えは4枚ずつ持ってきたのだ。たった今着ている分と合わせて、こまめに洗濯すれば大丈夫だろう。

 ハンドタオル数枚と手拭い代わりのバンダナ。どちらも迷彩色やOD色を選んできた。L字型ライトと予備の乾電池、迷彩ペイントの顔料にブラックテープ、それと靴ひもの予備などなど……。


 そうそう、あとは趣味で持ってきた金属製のライターや折りたたみ式ナイフなんてものもある。自衛隊の訓練では普通使わないようなものだが、こんなサバイバルな状況なら必須アイテムともいえるだろう。

 それと背嚢の奥底にいくつか調味料も入っていたはずだ。もちろん割り箸やスプーンなどの食器も完備している。

 どうやってこんなものを持ち込んできたかって? ……教官たちにはナイショだよ。



 荷物の確認はこんなところだろう。

 パッと見た感じはそこそこなんでも揃っていて充実しているようにも思える。

 だが実際はぜんぜん足りていないのが現状だ。

 ○○の代わりにあれを使う、なんて工夫もできなくないが、それも程度によるだろう。

 たとえば飯盒を『鍋』の代わりとして使う、といったそのくらいなら大丈夫だ。もちろん『食器』の代わりにもなる。かなり使いづらいだろうが『フライパン』の代わりにならなくもない。


 だがサバイバルに必要で、これらの道具では代用できないものがいくつもあるのがお分かりだろうか。

 たとえば『斧』や『鉈』だ。

 火種のライターはあるが、燃料となる(まき)を作るための道具がないのだ。小さなナイフや銃剣は木を伐採するに向いていない。落ちている木の枝を拾って燃やすこともできるがそれも限度がある。

 火を使うには十分な燃料を手に入れなければならないのに、すぐそこの木々からそれを採ることができないのだ。これは由々しき事態だろう。なんとかして手に入れるか、自作するしかない。


 それともうひとつ、惜しいことがある。

 小銃があっても、肝心の「弾丸」がないのだ。

 規定が厳しい自衛隊では実弾を所持する機会はきわめて少ない。今回のような教育の最終課程でもそれは同じで、空砲すら持たされなかった。

 小銃が使えない以上、大幅な戦闘力ダウンと思っていいだろう。



 とにかく現状ではあるものでなんとかして、なければないままで我慢するしかない。

 いろいろと便利すぎる現代社会で生まれ育ったオレがどのくらい持ち堪えることができるかはわからないが、まあ、やれるだけやってみようと思う。

 オレは脳内の「サバイバルに必要なものリスト」及び「あった方がいいものリスト」にあれこれ書き加えてから、その入手方法をじっくり考えることにした。



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