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九十四話 気がつけばマスター(W)様


「待って待って! あのあなたは一体……せめてお名前は!?」




 なんとか腕でブロックし、女性の肩を掴み落ち着いてもらう。




「……名前……」



 女性は無表情でコップを眺めている。


「……ア……プ……ティ」


「……アプティさん、というのですか?」


 女性はコクコクと頷き、コップを指してくる。


「あ、申し訳ないですけどアップルティーはもう無いです」


 女性は無表情ながらも、すっごい落ち込んだ顔をする。


 うーん、どうする明らかに怪しい人だぞ。でもアップルティーが本当に飲みたそう。



「宿に来てくれれば飲めますよ。ご案内しますけど、お時間は大丈夫です?」


 女性はコクコクと頷き、表情は変えないまま少し興奮した様子。


 よっぽど気に入ったのか、アップルティー。


 飲み物おごるぐらいならトラブルは起きないだろ、多分きっと。


 宿でさっきの抱いてをやられたがアウトだが、人が多くいるところではやってこないだろ……こないよね?





 俺は女性を連れ宿屋へ歩く。


 街を守る戦いや、宿屋のメニュー改善やお風呂施設開業、ローズ=ハイドランジェ製お土産販売などで多少俺は有名になったらしく街を歩くと熱い視線を感じる。


「ほらあの人よ、七人も愛人がいるとかの」

「毎日違う女を連れて歩いてるよな、うらやましいぜ」

「今日はバニーさんか、明日はどんな格好なのか。おーいもっとエロいの頼むぞ、がはは」

 


 女性関係の話しかないのか、俺は。


「ベスッ」


 ホラ、ベスだって言っている。かわいい犬を連れたイケメンとかの噂はないのかよ。


 ベスが首をかしげながら、俺の後ろを歩くバニー姿の女性の周りをくるくる走り回っている。


 女性のお尻にあるコスプレ尻尾が気になるようだ。飛びつくなよ、ベス。それお前の遊び道具じゃねーからな。





「ただいまーロゼリィ、アップルティーをポットごと頼むよ」


「はーい、おかえりなさい。ポットごとですか? 十Gになりま……!?」



 紅茶が四杯から五杯飲めるポットを持ち、固まったロゼリィ。


 たくさん飲みたいとき、二人以上のときにはお薦めのポットごと。一杯で頼むと四Gなので、ポットがお得なのです。茶葉もイケメンボイス兄さん厳選のものだ。


「そ、そちらのお綺麗な肌色多めの女性は……?」


 ロゼリィが持つポットをかたかた震わせている。



 えーと、よく考えたらお茶しない? 的なナンパだよな、これ。


 えーと、鬼が目覚めないような言い回しは……。




「……マスターを困らせる奴……敵……」


 俺がこの場をうまく乗り切るトークをうんうん唸りながら考えていたら、背後から低いトーンの声が聞こえた。


 振り返るとアプティさんが足の鉄製と思われる武具に、右手の人差し指と中指の二本の指をトントンと当てロゼリィを睨む。


 な、なんか嫌な予感。


「ストップだアプティさん! アップルティーがこぼれてしまうぞ!」


 俺は慌てて攻撃の構えをしたアプティさんに叫ぶ。


 アップルティーがこぼれる、に反応し動きが止まったところに正面から抱きつき、止めに入る。


 少し俺の勢いが強く、アプティさんを押し倒す形になってしまったが……みんなは俺の味方だよな?



「……マスター、やっぱり大きな胸が好きなのですね。構いません、どうぞ」


 顔に感じる大きなものが二つ。そしてアプティさんの髪のいい香り。


 俺はアプティさんの豊かな胸に飛び込んだ少年、と言われても否定が出来ない状況に。



「…………」


 ざわつく食堂。


 今はお昼をちょっと過ぎた時間とはいえ、多くのお客さんで席が埋まっている。


 俺は集まる視線を感じながら、名残惜しさを振り切り無言で起き上がる。大丈夫、俺には状況を分かってくれる友がいる。大丈夫、大丈夫……。



「はふぅん……」


 ロゼリィが意識を失うように座り込む。


 俺はロゼリィが落としたポットを空中で掴み、高々と空へ掲げた。




「マスター……格好いい……」



 アプティさんだけが表情なく拍手をしてくれた。



 俺はいつのまにマスターになったのか聞きたいが、この場から逃げるほうが先だろうか。


 教えてくれ〇ーフェイ。













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