八十九話 お土産計画とロゼリィの一歩リード方法様
「来年の夏の商品として開発していた物がちょうどありまして、サンプリングを兼ねてこちらで先行販売という形はいかがでしょうか」
あれから数日後。
宿の事務所にローエンさんジゼリィさんロゼリィ、俺、ビシっとスーツを着たアンリーナに向こうのお偉いさん何人かが集まり会議中。
ローエンさんが背広組にド緊張。
なのでジゼリィさんと俺で話を進めている。
「商品としてはこちらになります。オレンジの小瓶でのご提供となりまして、夏の果実をイメージしました甘い香りが特徴のシャンプーとボディソープになりますわ」
机に何点かサンプルが並んでいる。もはやサンプル状態でも綺麗で俺も欲しいぐらい。オレンジだしな。
「アンリーナ、これにジゼリィ=アゼリィのロゴを入れてくれるのか?」
俺の質問にアンリーナが笑顔で答える。
「ええ、もちろん。ロゴを入れてこの宿でしか買えないご当地商品として展開していこうかと」
独占販売状態か、すごいな。
世界でソルートンのこの宿でしか買えないのか。
「じゃあこれ目当てで買いに来る人もいそうだな」
「そうですわね、宣伝効果、ここでしか買えないプレミアム感が加わり売り上げが期待出来るかと思いますわ。コレクターの方も多数いらっしゃいますので、そちらの筋の売り上げも見込めます。最初の生産ロットにはナンバリングが入りますので、後々価値が上がると判断した方が買われるかと思いますわ」
す、すごいなアンリーナ。なんか自分がすげー子供に思えてきた……。
商談もまとまり、あとは出来上がるのを待つばかりとなった。
「なんかすごいです。あの高級メーカーのローズ=ハイドランジェさんと商品開発とか、以前なら考えられなかったです。あなたが来てからこの宿がすごいことになってきています」
宿の娘ロゼリィが驚きを隠せない顔で言うが、アンリーナと知り合いだったから出来た商談だしなぁ。なんかいい人と知り合えててよかったよ。
「やぁやぁ~なんかすごいね~世界的メーカーとのコラボとか~ローエンがオーナーだったらこんなの無理だったかな~あっははは」
夕飯中、ラビコが冷製トマトパスタをうまそうに食いながら言ってきた。
「ローエンはお酒増やすしかしなかったし~まぁ元酒場だしね~それがここまで成長するとはラビコさん驚きさ~」
世界的、か。ラビコは世界を巡っていたらしいからなぁ。
「あのメーカーは~どっちかっていうと魔晶石のメーカーで有名なんだけど~化粧品も有名だしね~。あの会社と手を組みたい会社はいっぱいあるのに~いや~さすが社長~人徳ですな~」
つっても、うどん屋で知り合ったとき、そんなすごい子だとは思っていなかったしな。偶然だろ。
「さすがにここまでくると、私もあなたの人を惹きつける力はすごいと思います。頼りにしていますよ若旦那様、ふふ」
ロゼリィが満面の笑み。
うーん、そういう未来も悪くはないけど、やはり俺はラビコみたく世界を見たい。銀の妖狐には悪いが、俺にはこの世界がばっちり合っている。
「社長は私の物だってもう証明されてるんだから~若旦那とか言わないようにね~? キスもしたことのない二号さん? あっはは」
あ、ラビコさん……そっち系のお話は無しの方向でお願いしたい。
「分かりました、宿を継ぐものとしてここは譲れませんので立場を対等にします」
ロゼリィがガタンと立ち上がり俺の顔を両手で挟んできた。ちょっ……。
「私に勝つには~同点じゃ勝てないよ~一歩リードしてみたらどうかな~? あっははは」
ラビコが煽る。やべぇ、逃げる準備だなこりゃ。
「い、一歩リード……!? キス以上……? え、え」
ロゼリィが顔真っ赤になったぞ。とりあえず顔挟んでる手を離してくれ。
「ははは~下、下~」
ラビコが俺の俺である場所を指し、ニヤニヤしている。
「ひっ……そ、それはその……やり方がわからな……ひぃぃいん!」
あーあ……ロゼリィが情報量オーバーで走って部屋に逃げてしまった。
「あっははははっは~! まだまだお子様ですな~ね~社長だって大人な女性がいいよね~?」
ああ……ラビコ笑ってるけど、後でロゼリィのフォローすんの俺なんだからな……。
バイト五人組もニヤニヤこっち見てるし。
宿のお土産計画は順調だけど、こっちは前途多難……。




