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九話 人間ベルトコンベア様

 

「刺身が食いたい」



 目覚めと共に強い欲求が沸き、朝一で港方面に出向いてみた。


 カモメがワサワサ飛んでいて、潮の香り。海だ。そしてなんと青くて綺麗な海なのか。

 沖縄とかそういうイメージの海。

 船が行きかい、威勢のいい声が飛び交う。


「魚が買える場所はどこかな」




「おう兄ちゃん! 暇なら手伝え!」


 俺が港をウロウロしていたら、背後からでえけぇ声で呼び止められた。

 海賊みてーな帽子被ったおっさんで、おそろしくガタイがいい。肌は黒く海で色んな物と戦った証のキズが凄い。


「ほら! 船から箱くっから、ドンドンこっち運んでくれ!」


「え……いや、俺……」


 おどおどしていたら、ぐいぐい背中を押されて船から降ろされた魚の入った箱を運ぶ人間ベルトコンベアの一部に組み込まれた。

 左側のほうから手渡しでドンドン右側の倉庫に運ぶ。そこの真ん中に俺が配置された。


「ほれ! リズムで動け兄ちゃん」


「うぬ……! 重ッ! ほい、ほい、ほい、ほい、ほいぃぃ……!」


 これ一個二十kg以上あんだろ……! なんでみんな平気な顔で出来るんだよ!


「考えんな! リズムリズム! 重さを感じる前にリズムでポンだ!」


 海賊風おっさんの意味不明な応援。


「わっかんねーよ! 普通に重いって! ほい、ほい、ほい、ほい、ほいぃぃ……!」





「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほい、ほいほい、ほい、ほい、ほい、ほ……!」



 気付いたら俺は二時間ほいほい言っていた。






「ごへぇ……………………し、死ぬ……」


 腕が全く上がらない状態になった俺は、倉庫の壁に斜めにもたれかかりピクピク震えながらヨダレをたらしていた。


「おぅ兄ちゃん! ようやったな! ほれ、日給とおまけの魚だ」


「ぅへへぇぇ……へぇぇぇ……」


「おぅ、また明日も頼むな!」



 俺がなんて返事したのか、俺には分からん。何かは言った。

 

 もう二度と近寄らないぞここ。





 ポケットにねじ込まれた封筒と、二十kg以上はある何かよく分からない魚がこんもり盛られた箱を引きずり、俺は宿へ瀕死の帰還。

 ここが異世界で魔法とかが使える世界なら、ぜひ移動魔法か、物を浮かせる的な魔法を覚えたい。




「ああ、いた! どこに行っていたんですか!? ベスちゃんが不安そうにベスベス吼えてましたよ!」


「ぇへへぇええ……へへ……」


 宿屋の前でウロウロしていたお姉さんが俺を見つけると、側に走ってきて腕を掴まれ怒られた。


「ど、どうしたんですか……その顔?」


 顔? ああ、そういや箱から元気よく飛び出してきた魚に噛み付かれたり、カモメに突っつかれたりしたなぁ。


「さ、魚……オサシミたベ、た、い……」


「え? お刺身ですか? ああ、この箱すごいじゃないですか! 新鮮なお魚さん! 分かりました! 夜はお刺身にしましょうね」



 箱を渡した俺は宿屋一階の酒場の長椅子で満足気な顔で意識を失った。






「……ぅ……オサカナコワイ……」


 はっと目が覚めた。

 横たわった俺のお腹には毛布がかけられ、その上にベスがちょこんと座っていた。


「ベスッベスッ」


 俺が起きた事に気が付いたベスが顔にダイブしてきた。


「うは……うはは、こらベス……くすぐったいって!」


 俺の顔にぐいぐい顔を摺り寄せてくるベス。悪かったよ、まさか昼まで帰ってこれないとは思わず一人で出かけてしまった。









 

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