八十八話 鬼の説教とジゼリィ=アゼリィお土産計画様
「そんなに女性の胸が見たいのですか!?」
アンリーナを女湯に送り届けたあと、宿の娘ロゼリィこと、今は角の生えた鬼に正座で説教を受ける。
「いや、その……アンリーナが勝手に脱ぎ出して、その……」
「え!? なんですって!? 聞こえません!」
うっふ、これはマズイ。とにかく謝ろう。
アンリーナの胸を見てしまったのは事実だ。
「ラビコにもたまにそういういやらしい視線で胸を見ていますし……!」
あ、ばれてーら。
見るだろ、なぁ? 男だし、視線はどうしたってそこに行くさ。
「うわわ、また修羅場なのです」
「元気があっていいんじゃないか? 兄貴はそういう人だよ」
向こうでバイト娘のオリーブとヘルブラがチラチラ見ている。
「私も以前視線を感じて、胸を強調する姿勢取ったら隊長しゃがみこんだトラブル」
おい、余計なこと言うなフランカル。
「あー最高でしたわー! こんないいお風呂が三Gとかたまりませんわ!」
一時間後、アンリーナがほっくほく顔でお風呂から出てきた。
「師匠ホラ見てください、バラの美しさを得た私の輝く肌を……あれ、師匠どうしたのですか、やつれた顔をして」
「な、なんでもない……」
ロゼリィに正座でたっぷり絞られていました。
カウンターで牛乳を頼み、ストローでおいしそうに飲むアンリーナ。
「お風呂上りに人が多くいる食堂で冷たい飲み物飲んで、のんびりするのっていいものですわね」
キョロキョロ周りを見渡して楽しそうにしている。
まぁ金持ちのアンリーナのことだ、自宅にお風呂があるのだろう。
自宅じゃ大浴場の開放感と、風呂上りのこの人が多くいる雑多な感じは味わえないからな。
化粧品メーカーの娘さんかぁ、どうだろう以前の計画をここでダメもとで言ってみるか。
「なぁアンリーナ、温泉施設……まぁ正確には銭湯なんだけど、ここで販売するお土産用のシャンプーとかボディソープを作るのを協力願えないかな」
俺の発言にびっくりした顔をしている宿の娘ロゼリィ。
ローズ=ハイドランジェの商品って高級商品なんだよな。街のお店でもほぼ最高ランク商品として扱っているし、そんなメーカーにお願いできるようなお金は用意出来ないかもしれないのだが、一応聞いておきたい。
「そうですわね、実はさきほどお風呂に入ったとき少々客層のチェックと施設規模を計らせてもらいましたわ。お風呂に入っている人の声も聞いていました」
そ、そんなことをしていたのか、さすが商人の娘。抜け目が無い。
「お風呂に関してはまだ一日の特定の時間のみですが、この宿の最近の集客力の高さには以前から目をつけていました。食堂のメニューの改善による女性客の増加、そして来店するお客さんの幅広い年齢層。サンプリングするにはうってつけかと」
サンプリング? よく街頭で商品配って宣伝と実際使ってもらって需要の喚起させるあれか?
「どうしてもうちは高級品として作っていますので、無料で配ってのサンプリングはなかなか出来ない状況だったのです。手前勝手ではありますが、ブランドイメージというものがありますので。ですがここで小さなボトルで、その分お安めで提供させてもらって消費者の皆様の声を聞くというのは、うちとしては願ったり叶ったりですわ」
おや、ダメもとで聞いてみるもんだな。いい反応じゃないか?
宿名、ジゼリィ=アゼリィのロゴ入りローズ=ハイドランジェ製のシャンプーが出来るかもしれないぞ。




