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八十五話 ソルートン防衛戦 18 街を守った英雄様


「じゃあ準備が出来たら迎えに来るから、待っていてね」



 銀の妖狐は俺の耳元で囁くように言う。


 行かねーし普通に喋れ。











「乾杯!!」

「かんぱーい!!」



 それから数日後、街は建物や港の修繕が始まり皆慌しく動いている。



 銀の妖狐を撃退したと皆喜び、街のあちこちで昼夜問わず酒盛りが行われている。


「あのとき俺は右から行って、こうよ!わははは」

「五匹はやったぞ俺は!」


 街を守った冒険者達が自分の英雄譚を語り、笑いあう。


 皆、お疲れ様。






「ただいまー」


「おかえりなさい! どこに行っていたんですか?」


 宿に戻ると、受付にいたロゼリィがコップに入った水をくれた。


「街の様子が気になってさ、みんな元気そうで良かったよ。これだといつもの日常に戻れる日も早そうだ」


 港の被害が一番大きく、船を壊されてしまったり、倉庫が崩れてしまい物資の運搬や保管場所が確保出来ず困っている業者さんが多くいた。


 しかし、国から多くの支援物資や人員が派遣され、街の復興に手厚い支援を行ってくれた。


 お姫様、あの空飛ぶ車輪の女性がすぐに指示をだし、国を動かしてくれたそうだ。




 銀の妖狐の攻撃を受けた皆は軽症程度で済み、少し安心した。



 本当にあいつは俺と話がしたくて来たらしく、邪魔しないでくれと追い払おうとした攻撃だったようだ。


 ラビコに聞くとあの水龍は、本気ならこの街など簡単に飲み込み壊滅出来る破壊力を持った魔法らしい。


 制限はあるものの瞬間移動が出来たり、恐ろしい威力の魔法が使えたりとあいつチートクラスじゃねーか。あれだよ、あれ。異世界に来たんだから、本来ああいうのが俺にあるはずだろ……。




「ああああ! 魔法使いたい! 魔法使いたい! まほっ……まほぅーー!!」



「ど、どうしたんですか!? お、落ち着いて下さい、あなたは街を守った英雄なんですから皆が見ているんですよ。また変な噂が広まります!」


 俺が飲み終えたコップをマイク代わりに、想いをこめたバラードを歌い上げたらロゼリィに止められた。



「ちぇっ……いいよもう、女泣かせのプロとか愛人七人囲ってるとか不倫がバレて国外に逃げようとしたとか、股間大開帳で女湯に侵入したとか……どう転んでもプラスにはならない噂が俺について回っているし。はぁ」


 農園の丘で一緒に戦ってくれた冒険者の男達には、このあいだちゃんと経緯を細かく説明したんだがなぁ。


 さっきも街歩いていたらひそひそ話で指差されていたし。



「あのなロゼリィ、俺は英雄とかじゃねーからな。実際に街を守ったのは勇気ある冒険者のみんな、農園で街のみんなを守ってくれたのはあのおじいさん。主力として戦ってくれたジゼリィさんローエンさん海賊のおっさん、そして砂浜で一人戦ったラビコがこの街の英雄だよ」



 コップをカウンターの食器回収棚に置いていると、後ろから肩を叩かれた。な、なんだ?


「よう、オレンジ兄ちゃん。今度俺のパーティに来いよ!わはは」

「おーいたいた、ケガしてねーのか? よかったよかった」

「ほっそいなー兄ちゃん。今度俺が鍛えてやるか」


 なんか次々とごっつい世紀末覇者達に囲まれ、肩叩かれたり腕掴まれたり、お尻を触られたりした。


 お尻はやめて。




「なんだよあいつ等……俺が鍛えたって意味ねーだろ、なんにも出来ないんだから。ああーやっぱ魔法だよ、魔法。それさえ使えればババッと敵倒して、格好良く活躍して街の英雄になれるのになぁ」


 冒険者の輪を抜け、ロゼリィの元へ戻る。



「ふふ、あなたは今のままで大丈夫だと思いますよ。あなたは街の人を守る為に盾となり戦い、靄で視界が狭い状況で街を駆け巡り指示を出し、冒険者のみんなに光を示した。あの銀の妖狐すら追い返し、街を救った。あなたは間違いなく後世に語り継がれる英雄です。ふふ」


 ロゼリィが優しく微笑む。


 つっても戦ったのだってベスだしなぁ。俺はまぐれパンチが一発当たっただけの男だ。


「あなたが出かけている間も、あなたにお礼が言いたいという冒険者の方や街の人が多く来ていたのですよ?」


 え、じゃあさっきお尻触られたりしたのはお礼なのか。


 せめて女性に囲まれたかった……。





「しゃちょ~おっはよ~」


 ラビコがいつものフード付きロングコートに水着姿で一階の食堂に降りてきた。ケガももう大丈夫なようだ。



「社長~キスキス~ん~」


 ラビコが俺に走り寄って来て、顔を近づけてくる。


「な、なんだラビコ!? や、やめい!」


 ラビコの肩を掴み抑える。


「ええ~いいじゃん~一回キスしたんだし~もう何回したって同じだよ~」


 ふぉ!? 一回キスした……な、そういや。


 でもあれはそのあの、なぁ……。


 背後に鬼の気配。


「ふふ……ラビコ? そういうウソは言わないようにね?」


「ウソじゃないよ~へへ~ん。私はあのとき社長に『お前を守りたい』って情熱的に抱きつかれてキスされたしね~あっははは~」


 少し話が違っているような。


 なぁ、ベス……って犬は喋れないよな。足元のベスは首をかしげるのみ。



「なっ……!! どういうことですか!? ず、ずるいです! じゃあ私にもして下さい! なんでラビコだけなんですか!? さぁ! キスしてくれたら許してあげます! さぁ……!」


 ロゼリィがぐいぐい体を押し付けてくる。


 あ、向こうでバイト五人組とジゼリィさんローエンさんが笑いながら見ている。


 いやさすがに御両親がいる前では出来ませんって! 



「あ、隊長逃げました」

「んふふー面白いので追いかけましょうー」

「そうだな、もしかしたら私もキスしてもらえるかもだしな!」

「英雄、色を好む……メモ」

「七人の愛人から逃げる英雄さん、今日も自ら噂のメイクミラクル」




「ずるいですずるいです! さぁ……私にも愛の言葉を下さい!」


「あっははは~やっぱ社長といると面白いなぁ~さすが私の夫だ~」




 俺は逃げるぞ! 



 ああそうだな、今なら元の世界に一旦帰ってもいいかもな!










──異世界転生したら犬のほうが強かったんだが 第一章「異世界転生したら犬のほうが強かったんだが」完──










ここまでお読みいただき感謝! 


これにて一章 完であります! 次話から二章となります。お付き合いいただければ幸いでございます。

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