八十四話 ソルートン防衛戦 17 真逆の二人様
「もう一度言おう。お前のところには行かない。俺はこの世界が好きなんだ、ここには美味いご飯がある、居心地のいい宿がある、そして愛すべき大事な仲間達がいる。俺はこの世界を愛している。この世界は楽しいんだ、昨日も今日も明日も俺は毎日ワクワクしながら過ごしている。俺はこの世界で生きていくと決めた」
俺は毅然と言い放つ。
本音だぞ、これ。本当に俺はこの世界が好きだ。その証拠に俺は元の世界に帰りたいとか考えたことも無い。俺の居場所はここだ、そうはっきりと言える。
「……この世界は楽しい、か。僕は今までそう思ったことは一度も無いよ。この世界は僕等には大変生きにくいように出来ている。命を保つのだって毎日必死。この世界の住人を傷つけ、時には殺さないと生きて行けない。大事な仲間もこの世界の仕組みに対応出来ずに次々と命を落としていく。毎日が絶望さ、僕はこの世界を恨んでいる、消し去りたいとも考えている」
妖狐はうつむき、静かに怒りを込め言う。
こいつらも異世界から来たんだっけか。
俺とは真逆。飛ばされた異世界に対応出来ず、仲間も命を落とし、生きていくにはこの世界の住人を傷つけなければならない……帰りたい、元の世界に帰りたいと願う。
確かにそんなきつい世界、恨むかもしれない、消し去りたいと思うかもしれない。
「でもね、とてつもない長い時間が経ったある日、僕の心に衝撃が走ったんだ。その男はことごとく僕の作戦を打ち破り、そして僕の前に立ちふさがりしばらく忘れていた死の恐怖を僕に感じさせた。あのパンチは効いたね、目が覚めたよ」
妖狐は表情を歓喜の顔に変える。
「分かるかい、今僕はとても気分がいいんだ。体から湧き上がるこの感情、抑えられない……喜び! 期待! しばらく忘れていたこの感情……希望! 面白い……面白い……! 君、君だよ、君という存在が僕の心を震わせるんだ!」
体を震わせ、子供のようにジャンプしたり顔を手で覆ったり、妖狐の動きがおかしい。
「今日僕はこの世界に来て初めて面白いと思ったんだ。もう顔がにやけて止まらないんだ、ははは! 君がいるならこの世界は面白いかもしれない、今後もずっとそう思えるかもしれない! だから僕は君が欲しいんだ、僕の側にいて欲しいんだ」
ちょっとした告白じゃねーか……。
男に情熱的に側にいて欲しい言われても、背中がかゆいだけだ。この世界を生きていける希望は君だ、と男に言われたぞ。
「俺には守るべき大事な物がある。お前とは行けない」
ラビコとベスを引き寄せ抱く。ここにはいないがロゼリィ、彼女も俺は守りたい。
「ほぉぉぉっ……!」
ラビコが目を見開いておかしな声を出しているが、今は見ないでおこう。
「……そう、か。残念だよ……」
妖狐が少し落ち込んだような表情をする。
ここはおかしな行動される前に、言葉で畳み込んでしまわないとやばそうだ。
「お前はさっき自分は敗者であると言った。ならば勝者である俺の言うことを一つ聞いてもらおう」
妖狐は少し考える仕草をし、微笑む。
「はは、言ったね。しまったな、自分の発言で苦しめられるとか僕もまだまだだなぁ。なんだい? 一つ君の言うことを聞こう」
「お前には勝てないから、帰れ」
俺の真顔の発言にラビコと妖狐が目を丸くする。
おかしなことは言っていないだろ。こいつには勝てない、なら生き残るにはこいつに自ら引いてもらうしかない。
「……はははは! 君は面白いなぁ……! 堂々と言うんだね、すごいなぁ。ああ、やっぱり君が欲しいなぁ……君がいれば島でのつまらない生活がとても面白いものになりそうだよ。でもまだチャンスはあるよね、それは今日でなくてもいい。もっと情報を集めて、君好みの物をいっぱい用意して君から僕の元に来たいと言わせてみようかな、ああ……その日が来るのが楽しみだ!」
そんな日は未来永劫来ねーよ。




