八十一話 ソルートン防衛戦 14 一発のパンチ様
ベスの攻撃で一番の火力を誇るのは、青い光を纏う攻撃の牙での噛み付きか、額から出たシールドで突撃のどちらか。
「ベス! 撃て!」
ベスが前足を振り、かまいたちを発生させる。
「すごいんだね、この犬。僕も欲しいなぁ」
誰がやるかよ。
俺は何度もベスに指示し遠距離攻撃を仕掛けるが、銀の妖狐はベスの攻撃を余裕で避けていく。
「んーどうしたんだい? さっきから君の指す先がずれているよ? ほら、当てないと意味がないでしょ。もしかして普通に狙っても当たらないと踏んでのラッキーパンチ狙いかい?」
くそが、俺の指す先のズレが分かるのかよ。
どうとでも想像してくれ、違う意味のラッキーパンチを狙っているのは確かだがね。
俺は少しずつベスから離れ、海側に近づく。
妖狐はチラと俺を見たが、俺には攻撃手段が無いと判断したらしくベスの動きに注視している。
「撃て! 撃て! 撃て!!」
ここらが限界か。
俺はベスにかまいたちを乱舞させ、妖狐の足元に着弾させ砂煙をおこさせた。頼むぞ、跳んでくれよ……!
俺はベスに妖狐の周囲を走り回るように指示。
「ああ、これは煙で周りが見えないね。どこから撃ってくるのかなぁー」
いくぜベス、これが俺の最後の指示だ!
「ベス! アタック!!」
ベスが走りながら額に青い光を生み、砂煙の中に飛び込みシールドアタックを仕掛ける。
それと同時に俺は妖狐に背を向け、海に向かって全速ダッシュ。
「さっきから何か狙っているような動きだったけど、まさかこれがそうなのかい? ちょっとガッカリしたかな、もっと僕を驚かせてくれるのかと思っていたよ」
俺のマントから出た一角獣の攻撃は浮遊移動で避け、お姫様の攻撃は海の上で瞬間移動で避ける。
ラビコの魔法は地上から瞬間移動で避け波打ち際に着地、その後のベスのシールドアタックを瞬間移動で沖まで跳んで避けた。
水龍の攻撃後、俺に近づいた手段は沖から瞬間移動で波打ち際に着地し、そこから歩いて来た。
ここでのポイントは波打ち際という場所。
海と陸地の境目と取れる場所。あいつは地上から地上へは瞬間移動していない。
着地は必ず水の側か水の上というルールを守っている。
そう、ルールがあるんだ。
多分あいつはどこからでも跳ぶことは出来るが、着地は必ず水の側か上という決まりがある瞬間移動の使い手なんだと思う。
地上から跳ぶときはいきなり沖には行けず、線がある波打ち際で止まり、線を一回跨がないと沖には行けない。だからあいつは沖からいきなり俺のところには来れず、波打ち際で着地し、そこから足で移動した。
ラビコの魔法のあとのベスのシールドアタックは浮遊では避けず、瞬間移動で避けた。おそらく当たるとダメージがある攻撃と判断し、大きく距離を取って避けれる瞬間移動を選んだ。
そして今ベスは煙の向こうから飛んでくるシールドアタックを仕掛けた。確実に避けるには『跳ぶ』はずだ。
場所は妖狐から一番近い波打ち際。
俺に攻撃能力は無いので、ベスの攻撃だけ避ければいい。ならばそう遠くまで跳ばずに、一番近い波打ち際に跳べば十分と考えるはず。
俺は握りこぶしを振りかぶり、そのポイントへ全力で走る。
「悪いけど当たらないよ。その程度の攻撃は彼等からよく受けたからね。おとなしく……」
妖狐の声が砂煙の中から移動した。
瞬間移動で跳び、水の側に着地。
そう、俺は今そこに向かい全速力&全体重乗っけパンチを繰り出している。
「おりゃあああああ!!!」
俺は目の前にいきなり現れた銀の妖狐の右頬を全力で殴った。




