七十八話 ソルートン防衛戦 11 銀の妖狐と水の龍様
「ねぇ、君……この世界の住人じゃないだろう。僕等と同じだ」
銀の長い髪に狐の耳、口から蒸気を吐き、吸い込まれそうな綺麗な瞳に銀色の九本の狐の尻尾。
そいつに首を掴まれ空に持ち上げられる。
銀の男と俺は空に浮かび上がり、呼吸が出来ない俺は必死にもがく。
「がはっ……く、ううう……」
だめだ、こいつの握力が半端ない。
ジゼリィさんの防御魔法がかかっていなかったら、どうなっていたか。
「あれれ、力加減が難しいんだなぁ……人間って脆いから。死なれちゃ困るんだ、だって君は僕等の仲間なんだよね?」
「そいつの言葉を聞くな! そいつはそうやって不思議な言葉で人を惑わす妖怪だ! その手を離せ……銀の妖狐!」
ラビコが右手をかざし叫ぶ。
「出でよ一角獣、アランアルカルン!!」
俺の背中のマントが光り、長い角を額に生やした馬の頭が出てきて銀の妖狐を襲う。
男は俺の首から手を離し、攻撃が届かない距離まで下がる。
「ぐっ……ぜはっ! ぜはっ!」
俺は必死に酸素を吸い、命を繋ぐ。
着地を考える暇がなかったが、ラビコが浮き上がり俺をキャッチしてくれた。
ラビコの髪の毛が逆立ち、体から紫の光が溢れ激しく輝きだす。
「私の目の前で私の男に手を出すとか、いい度胸だ。消し炭にしてやる……」
「ベスッ!!」
ラビコとベスが切れた。
空に七つの光が生まれ、空に静止している銀の妖狐に七つの光が重なる。
「天に焼かれて消えるがいい! ウラノスイスベル!」
ラビコの声と共に七つの光の柱が銀の妖狐を包むも、ポーンとその場でジャンプしたと思ったら、瞬間移動でもしたように波打ち際に着地する。
「ベスッ!!」
額から溢れた青い光がベスを包み、光を纏ったまま突撃していく。
またポーンと真上にジャンプし、一瞬でここから百メートルほど沖に着地。
「銀の妖狐……!!」
空飛ぶ車輪にのったお姫様が単身で銀の妖狐に攻撃を仕掛けるが、海の上で瞬間移動を繰り返し全ての攻撃を避ける。
まずいぞ、こいつ今までの蒸気モンスターとは格が違う。
「サウザンロウラ!!」
お姫様が槍を乱舞させ、無数の魔法の光の刃を飛ばす。
扇状に広範囲の攻撃だが、銀の妖狐はぽーん、ぽーんとジャンプし次々と海の上で居場所を変え、当たる気配が無い。
「この……! 私の攻撃が当たらないというのか……!」
おそらく今ここにいるメンバーで一番早い移動速度に機動性、攻撃速度を持っているのはお姫様だと思う。
攻撃速度ならローエンさんの光の円盤も早いのだが、空飛ぶ車輪の自由自在な機動性があるお姫様がダントツだろう。
ラビコは火力は一番だろうが、速度が遅い。
「ねぇ、僕の目的は君等じゃないんだ。邪魔だしどいてくれないかな」
銀の妖狐の尻尾が輝き、右手を前にかざす。すると男の背後の海が盛り上がり形を成していく。
大きな牙に大きな口、鋭い爬虫類の目に角。
長い胴体に鱗……これ龍じゃないか。
銀の妖狐の背後に高さが二百メートル近い海水が形を成した龍が現れた。




