七十五話 ソルートン防衛戦 8 魔女の心様
立ち込める濃い靄。
砂浜に出来た無数の巨大な窪み。
数万の魚ゴーレムと紅鮫が次々と天から降り注ぐ雷光に焼かれ、蒸気へと変わり消えていく。
砂浜が見えないほど押し寄せる魚ゴーレムの上空を、紫の光を纏った女性が舞い叫ぶ。
「オロラエドベル!」
天から雷光が落ち、魚ゴーレムの一団をまとめて焼き尽くす。
どれぐらい倒しただろうか。
次々湧いてくる鮫と魚、少しでも隙を見せると街のほうに進路を向けてしまう。
「あっははは! 待てよ、遊ぼうじゃないかって言ってんだろ! エサが欲しいんだろ? ほらよぉ!」
キャベツを切り替え、空に向かって杖を掲げ魔力を放出する。
紫の柱が天を貫き、鮫と魚がこちらを向く。
「ほらほらほらぁ! 私は美味いぞ! 濃いぃのが欲しいんだろ!? だったらこっち来いってんだ!!」
大きな威力の魔法を放ついっときの時間、この瞬間は攻撃が出来ず、空を飛ぶ鮫達の格好の餌食になってしまう。
集団で突っ込んできた鮫達に肩を削られ、全身を刃物で切られたような痛みが襲う。
「あは、は……いってぇ……いってえってんだろ!!」
天に七つの光を生み出し、地上を照らす。
自分の周囲に狙いを定め叫ぶ。
「あっはは、お返しだ! 乙女の肌を傷つけたんだ、覚悟は出来ているんだろう!? 天の七柱! ウラノスイスベル!」
七つの光の柱が周囲の蒸気モンスターを蒸発させていく。
「はは……一人は、心がスカスカしやがる。もう孤独だった子供じゃねぇってのになぁ」
一人で飯を食い、一人で朝を待ち、一人戦う。
一人で食うパンのまずいこと、一人で迎える朝の寒いこと、一人で戦うことの……寂しいこと。
「あはは……帰りてぇなぁ……」
宿に帰って、ロゼリィからかって、うまい飯食って、あいつの横座って……。
紅鮫の集団が真上から突撃してきた。
ちぃ、戦いの中何を油断しているのだ、私は。
左に飛び避けるも、下にいた魚ゴーレムに足を捕まれ地面に叩きつけられる。
「……しまっ! がはっ!」
周囲を囲まれ、魚ゴーレムの集団がジャンプし私を押しつぶそうとしてきた。
なんたるミス、嫌だぞ……やっと私は出会えたんだ。
あいつは私を特別扱いせず、当たり前のように横に来てくれる……私が悪いことをしたら、あいつは怒ってくれる、良いことをしたら褒めてくれる。
普通に話を聞いてくれ、一緒に笑ったりしてくれる……
やっと手に入れた私の暖かい輪、私の居場所……
もう一度帰りたかった……私の……
魚ゴーレムの足元を器用に駆け抜け、私に向かってくる小さな物が見えた。
「全て押し返せ! ベス!」
小さな動物が私の元まで来たと思ったら、額から青い光を放ち真上に飛び上がった。
この犬、この声……。
その声を聞いた途端、落ちていた私の心に勇気が灯る。




