七百三話 サーズ姫様の決死の願いは性欲メイン? 様
「それにしてもこの本、よく出来ていますね。私、もう十回ほど読み返しましたが、本当に冒険者の方が生き残るための情報が的確に書かれています」
「私も買って読んだぞ。さすがラビィコールが情報提供しているだけはある。一に情報、二に情報、とにかく噂を信じるな、現地の生の声を聞き、力量差を決して見誤るな。金は大事だが、命はそれ以上に大事、仲間を作り、信じ、欲は最小限に抑え、逃げる勇気が最も大事。うん、初心者の段階でこの思考を身体に叩き込めば、長く冒険者としてやっていけるだろうな」
とりあえず全員に落ち着いてもらい、紅茶で一服。
フォウティア様が先ほど見せてくれた冒険者センター公式ガイドブックを出し、笑顔で俺を見てくる。
サーズ姫様も本を出し、ペラペラとめくり始める。
おお、サーズ姫様も買ってくれたんですか、それはありがたい。
ふぅ……やっとみんな冷静になってくれたぞ……良かった。
そしてさっきの騒動は俺の選択ミスもあった、と反省。
今日の学びとしては、『ニヤニヤ顔の水着魔女ラビコに助けを求めるな』だな。
その選択肢の果ては、俺の首が物理的に飛ぶ、だ。
「世界のモンスター分布図。冒険者のレベルごとの適正モンスター表。蒸気モンスター相手には逃げる一択、それ以外の各地にいる出会ってしまったら逃げるべき強敵、その際に効く、効果的なエサ、音、煙。野営の際に気を付けるポイント、毒を持つ植物に生き物、有毒ガスの発生地。さらには世界各地のお祭りや、人気の料理、行ったら見るべき絶景など、これは読み応えがあったぞ。さすが、世界を十年巡り、強敵モンスター、さらには蒸気モンスター相手にも生き残ったラビィコールだからこそ出せる、間違いのない情報だった」
サーズ姫様がべた褒めだぞ。
どうにもかなり熟読してくれたっぽい。
「先ほども申し上げましたが、騎士の皆さんにも配布いたしました。このペルセフォス王国を守る役目を担うのが騎士ですが、それゆえ、情報がこの国のことだけに偏り、視野が限定的で狭い可能性がありました。この本には世界の、ラビィコールがその足で手に入れた知識の一部が惜しげもなく詰め込まれています。この本を読めば、騎士の皆さんの視野が広がり、戦う力以外の、知識という武器を持てるでしょう」
フォウティア様も褒めてくれているが、今回クラリオさんに作ってもらった冒険者センター公式ガイドブックは、基本『初心者向け』というスタンス。
冒険者が初心者を脱するまでの期間の情報に限定してはいるのだが、本には広く世界の情報が詰め込まれているので、騎士の皆さんの一助にもなれたのか。
「ま~、これは冒険者向けに書いたもので~、騎士は立ち位置違うけどね~。冒険者は『自分の命最優先でその場から逃げられる』けど~、騎士は国民を守るために逃げられない状況もあるし~。まぁそれでも情報を知らないよりは、知っているほうが生存率上がるから~、騎士にも応用出来るのかもね~。あっはは~」
水着魔女ラビコが紅茶を飲み干しながら言うが、まぁ……冒険者と騎士では目的が違うからな……。
「以前ラビィコールが騎士養成学校で臨時講師をやってくれたが、ラビィコールの戦術を学んだ学生は、皆戦うこと、生き残る手段への解像度が数段上がっている。蒸気モンスターを相手に戦いを挑み生き残った者は少ないからな……ラビィコールのリアルな教えは、現役の騎士どころか、学生の思考にも変化をもたらした。この本は、騎士養成学校でも教科書として配布しているぞ」
ラビコの言葉にサーズ姫様が応える。
マジでラビコの戦い方と思考は学ぶ価値あるぞ。十年間蒸気モンスター相手に最前線で戦い生き残った、という実績もあるしな。
「なんかすごいことになっているなぁ……。この世界の冒険者のレベルアップに必要なのは『情報』ですとクラリオさんに進言して、初心者の冒険者に向けたガイドブックを作ったのですが、まさかペルセフォス王国の騎士の皆さんにも読まれているとは……」
「はは、それだけこの本の正確性が高い、ということだ。ベテラン冒険者にとって『情報』は命だからな。それで食っている冒険者も多いだろう。その『情報』を開示せよ、と言われても従う冒険者はいない。冒険者センターもその状況を把握していたが、それも彼等が苦闘の末に手に入れた成果物とし、情報の独占を黙認していた。だが昨今、モンスターや蒸気モンスターの被害が一気に増大。情報を持たない冒険者が次々と命を落とし、結果として冒険者の数が減り、世界的に冒険者のレベルアップの停滞を招いてしまった」
騎士の皆さんにまで愛用されているのか……と俺が驚いていると、サーズ姫様が立ち上がり、俺の肩をポンポン叩いてくる。
冒険者の現状……それは冒険者センター本部に所属しているクラリオさんも言っていたが、さすがにサーズ姫様もそういう状況に気が付いていたのか。
「そこで冒険者センターが打ち出したのが初心者救済クエストなのだが、賞金で初心者を支援しても、冒険者の継続的なレベルアップには繋がらないだろう。だが君はそれをすぐに見抜き、今の冒険者に必要なのは『情報』だと進言した」
まぁその、ゲームでも攻略情報を持っていないと効率が悪かったり、詰むことがあったので……。
「冒険者センター本部のクラリオ殿も、今のままでは『冒険者』という職業が維持出来なくなるかもしれない、と気付いていた。モンスターを倒せる冒険者がいなくなれば、世界の治安が一気に崩れてしまう。だからといって次の一手を打ち出せずにいた。だが……そこに君が現れた。あのクラリオ殿を説得し、世界に名を馳せる大魔法使いラビィコールに情報を出させ、確実に冒険者のレベルアップが望めるガイドブックを世に出した!」
ちょ……あのサーズ姫様、どんどん興奮していって俺の両肩をがっしり掴んで……その、顔、近いっす……!
「これぞ世界に起きた革命! この本は世界を変える! こんなことを言うのは良くないかもしれないが、君たちだけの、この非公式な場では言わせてくれ。もちろん騎士は国民を守るために動いている。だが全ての地域を迅速に守れるわけではない。だが冒険者センターは多くの街に存在し、冒険者が集う。彼等は騎士がカバー出来ない地域のモンスター討伐をクエストという形で請け負ってくれている。つまり騎士と冒険者、その両方が存在しなくてはこの国は、この世界は守れない。君が出したこの本は、その冒険者と騎士の両方を一気にレベルアップさせた、まさに奇跡の一手! 情報を初心者に限定し、情報源をルナリアの勇者パーティーのメンバーとして世界に名を馳せるラビィコールにすれば、どんな冒険者も文句は言えない。クラリオ殿を説得し、ラビィコールを動かすことが出来る人物は、世界で君ただ一人……素晴らしい、やはり君はこの国に、いや、この世界に光をもたらす救世主……うんごっ!」
「話なっが……! 何を一人で興奮して私の男を抱こうとしてんだよ。私の社長から手を離せ~!」
サーズ姫様がどんどん興奮しだし、最後は両手をがばぁと広げ俺に抱きつこうとしてきたが、水着魔女ラビコがサーズ姫様の顔を鷲掴み。
「むごごっ……! ちょ、ちょっと興奮し過ぎたか……彼に跨るのはまた後にしておこう。すまない、今の話はここだけにしてくれ……」
サーズ姫様がラビコの手を振りほどき、深呼吸をして椅子に座る。
跨るのはまた後……? どういう意味?
「それで~? いい加減私の社長をわざわざ王都まで呼びつけた理由を教えて欲しいんですけど~?」
水着魔女ラビコがお酒の小瓶を開け、サーズ姫様を睨む。
おい、いつ買った、その酒。
「おっと、そうだな。結果的に王都に来てくれた、という話にはなるが……まぁ今さら取り繕っても意味がない。私はソルートンを、君を守るためにハイラインを派遣した。そしてこれには私の願望も含まれていて、それは君にハイラインを連れて王都に来て欲しい、というもの」
サーズ姫様がお酒を一気飲みしたラビコの問いに応えてくれたが、やはり、そういうことか。
まぁ王都には近々カフェの様子を見に来るつもりだったので問題は無いのですが、俺に用事というのは……?
「直接君宛に『王都に来て欲しい』と送ると、ラビィコールが反発するだろうと思って、ハイラインを使ってちょっと仕掛けた形にはなるが、まずは王都まで来てくれてありがとう。個人的に早く君に会いたかったので、とても嬉しいよ」
ああ……まぁ水着魔女ラビコはサーズ姫様からのお誘いには敏感に反応するからなぁ……。
ってうっわ、サーズ姫様が俺を見て超絶色気のある笑顔なんだけど、社交辞令とはいえ、とんでもお美人様のサーズ姫様にこの表情されて、落ちない男はいないだろうな。
「おい、マジで私の社長を誘うのやめろ変態~。どんだけストレス溜まってんだよ……」
「はは、これでも抑えているほうだ。ラビィコールがいなければ、とっくにガッチリ縛って無抵抗の彼を自室に連れ込んでいる。おっと、もちろん冗談だぞ、はは」
……今一瞬、獲物を見る目で見られたが……なんかサーズ姫様のテンションがおかしいな……随分と感情が乱高下している感じ。
ストレス……まぁ王族様って、すんごいお仕事大変だろうしな……日々蓄積されるストレスは相当なものだろう。
サーズ姫様にはすんごいお世話になっているし、何か俺に出来ることはないだろうか。
「先ほども言ったが、今この世界はとても危ういバランスになっている。冒険者と騎士が共に高いレベルを維持しなければならない状況なのだが、世界的に冒険者の成長が停滞、そして我が国の騎士も蒸気モンスター相手に決定打を撃てる者が減っている」
蒸気モンスターを相手に決定打って……それって相当な手練れどころか、二本目のお酒の小瓶を開け始めた水着魔女ラビコクラスの実力が必要……って二本目もあるんかい!
「魔法の国セレスティアに支援を頼むことも出来るのだが、頼るばかりでは成長出来ないからな。そう……私は成長がしたいのだ。例え蒸気モンスター相手でも対等以上に渡り合える力が欲しい。……かつて、ルナリアの勇者たちもこの壁にぶつかった」
ルナリアの勇者たちがぶつかった壁……?
水着魔女ラビコがサーズ姫様の言葉に反応する。
「ちょっと……まさか……」
「このままでは上位蒸気モンスターに勝てない……彼等は決意し、その命を天秤にとある行動に出た。そう、彼等は冒険者の国にあるダンジョンに眠る謎の秘宝、伝説のルーインズウエポンを求め、決死の覚悟で地下迷宮に挑んだのだ」
ルーインズウエポンに地下迷宮……? それって……
「ちょ、正気か! お前の命にはペルセフォス王国の未来がかかっているんだぞ! 一か八かで捨てていい物じゃあない!」
サーズ姫様の言葉に、さすがの水着魔女ラビコも驚き、叫ぶ。
まさかあの地下迷宮に潜るとか……?
申し訳ないが、いくらサーズ姫様が実力者とはいえ、エリート飛車輪部隊であるブランネルジュ隊を仲間として引き連れて行こうが、地下迷宮の十階が限度だと思います。
犠牲者も多くでるでしょうし、そしてその犠牲者がサーズ姫様になる可能性だって……ある。
さすがの水着魔女ラビコも、焦った顔でサーズ姫様を止めに入った。
「分かっている。私だって自分の身の程ぐらいわきまえているつもりだ。ラビィコールですらこの世界を変えられなかったのに、この私ごときが成せることではない。だが私は運が良い……私が生きている時代に、とんでもない桁違いの力を持つ男が現れてくれた」
サーズ姫様が真面目な顔で俺を見てくる。
「不躾な願いだとは分かっている……だが私はこの国を、国民を守らねばならない……! リュウルがこの国を背負うとき、私は彼の剣となり立たねばならない! でも情けないことに、私にはその実力が無い……。頼む、完全に君を良いように利用することになるが、私と共に冒険者の国の地下迷宮に潜ってくれないか! お礼なら何でもする、この私が欲しければそれでもいい、いや、何でもいいから今すぐ私を抱いてくれ! 来ないならこっちから行くし、そしてそのまま一週間ぐらい激しく求めてくれていいし、そのあとゆっくり地下迷宮に潜って……」
「ちょ……ちょっと待て~い! 前半はお前の王族としての覚悟が見えて納得しかけたけど、後半は単に最近溜まってるストレスを発散させようと、私の社長を抱こうとしただけだろ~! 性欲満たすのがメインの目的になってんじゃねぇか!」
サーズ姫様が土下座で俺に頭を下げてきたぞ……!
ちょ、これどうすれば……
性欲がメイン?
いや、何言ってんだラビコ。
お前がサーズ姫様のお話の途中で遮ったから後半よく聞こえなかったけど、サーズ姫様は国を守る崇高な目的の為にルーインズウエポンが欲しくて、俺と一緒に冒険者の国の地下迷宮に潜りたいって話だろ?
まぁサーズ姫様にはお世話になっているし、こないだケルベロスに、今度地下迷宮に行くよ、って言ったし……タイミングはいいか。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




