七百二話 VIPルームで紅茶タイムと俺がサーズ姫様を抱くとアレの稼働率が下がるらしい様
「と、まぁ冗談はここまでにして、よく来てくれた。とても嬉しいよ」
「はぁ~? ちょっと変態姫~、社長で遊んでいいのは私だけなんですけど~? よく来てくれたって……こんなのほとんどハイラを連れて王都に来てくれ、って言っているようなものじゃないか~!」
微笑むサーズ姫様に対し、水着魔女ラビコがカバンから書類を出し、文句を言いながら押し付ける。
あれはハイラがソルートンに持ってきた、フォウティア様とサーズ姫様の連名サイン入りの書類じゃないか。
なんでラビコが持っているんだ。
久しぶりにペルセフォスのお城に入ると、ペルセフォス王国の名を背負いし一族、サーズ姫様が笑顔で出迎えてくれた。
……のだが、水着魔女ラビコの、まるで俺が来る途中の魔晶列車で女性陣全員を抱いた、と聞こえるような、面白最優先の嘘と誇張トークにサーズ姫様が真顔で乗っかってきて、さらに現国王であられるフォウティア様までもが参戦。
そこで騎士ハイラが、あ、思い出した、的に『先生はフォウティア様のお体にも興味津々だそうです』とかいう、俺が一言も言っていないことを言い出し、サーズ姫様とフォウティア様に笑顔で詰められる、みたいなことが起きた。
ああ、これ……不敬罪とかで俺の首が物理的に飛ぶわ……と異世界での楽しかった人生を思い返していたら、サーズ姫様がいつもの優しい笑顔に戻って冒頭のセリフを言ってくれた。
……良かった……冗談だったのか……やめてくださいよサーズ姫様……俺、マジで捕まること覚悟したんですからね……
あと、水着魔女ラビコ、俺をダシに遊んでいいのはお前の特権ではない。
正直、毎回クッッッッソ迷惑。
「はは、いやすまなかった、いつもラビィコールが君に構ってほしくて甘えて楽しそうに絡んでいるのが羨ましくてな、私もちょっと真似して君に甘えてみたんだ。うん、実際やってみると、結構どころか、心底楽しかったな。やはり人生において、甘えさせてくれる男がいるというのは、心が安らぐよ」
「ちょ! 余計な事言うな変態姫~! つかこいつは私のだからダメだって~の! 男欲しいなら他当たれ! こいつはぜってぇ渡さない~!」
サーズ姫様の言葉に水着魔女ラビコが目を見開き反論、そして俺の右腕にぐいぐい絡んでくる。うーん、腕にラビコの水着に包まれた大きなお胸様が当たる……。
え、さっきの、というか、いつもやってくるラビコの大げさ曲解トークって、俺に構ってほしくて甘えてきてる、ってことなの?
以前、ソルートンのアクセサリー屋さんをやっているナディさんにも言われたが……。
うっそだろ。
あれ、絶対に俺があたふたして冷や汗流しながら弁明して回る姿が面白くてやっているだろ。
お城の入口で騒ぐのもあれなので、場所変更。
サーズ姫様が、王侯貴族などの身分の高い人をおもてなしする豪華な部屋、貴賓室に案内してくれた。
ここ、何度か使わせてもらっているが、俺なんかが入っていいのか毎回戸惑う。
俺、VIPルームとは無縁の存在、『街の人』よ。
「にゃっはは! やっぱラビ姉にキングがいれば国賓待遇だな! 高級紅茶うめぇ!」
サーズ姫様が自ら紅茶を俺たちに出してくれ、猫耳フードのクロが雑にカップを掴み美味そうに飲み干す。
「これはお城の前にあるカフェジゼリィ=アゼリィで売っている物でな、少し値は張るが、買う価値ありと私が好んで個人的に買っているものだ。喜んでいただけて嬉しいよ、クロックリム殿」
ああ、そうか、そういえば以前もカフェジゼリィ=アゼリィで紅茶葉を買っている、とサーズ姫様がおっしゃっていたな。
つか猫耳フードのクロさんよ、あなたが雑に掴んだこの紅茶専用カップ、絶対お高いやつだぞ。頼むからおおっと、とか言って落とさないでくれよ。
そしてあなた、自分が魔法の国セレスティアの第二王女であるとかいうマジ設定、忘れてんだろ。
多分この国賓待遇、俺のパーティーメンバーにいる魔法の国セレスティアの第二王女であられるクロックリム=セレスティア様、という人物をもてなす為にやっていると思うぞ。
ラビコは一応ペルセフォス国王と同等の権利持ちだから分かるが、絶対に俺がいるから、ではない。
さっきも言ったが、俺は『職業街の人』。
「うん、美味しい。最近はサーズがメキメキと紅茶をいれる腕を上げまして。やはり誰かに飲ませたい、という強い想いは人を成長させますね」
現国王であられるフォウティア様も優雅な仕草で紅茶を飲み、俺をじーっと見ながら笑顔になる。
え、な、なんでしょう……
「宿で出てくる紅茶と似た味がします……落ち着きますね。このクッキーも美味しいです、ふふ」
宿の娘ロゼリィも満足気な顔で紅茶をいただく。
サーズ姫様がわざわざお茶請けとして、カフェジゼリィ=アゼリィで売っているクッキーを出してくれ、こちらも食べ慣れているせいか、ロゼリィが安心した顔で頬張っている。
「……良き茶葉……適した温度……これは美味しい紅茶……」
おお、バニー娘アプティがべた褒めですよ、これはすごいことですよサーズ姫様!
「これすっごいお高いやつですぅ! やはり先生がいるとサーズ様が浮かれモードですねぇ」
騎士ハイラも笑顔でテーブルに付いているのだが、あなたはお城所属の騎士で、サーズ姫様の部下なのでは……? いいのか、上司に紅茶出させて……。
まぁ今はまだ俺のパーティーメンバーとして扱われているのかな……よく知らね。
「ベッス」
愛犬用に美味しいリンゴまで出してくれて、マジでありがとうございます。
「お昼前に、駅の警備を担当している騎士が大急ぎで走って来て『ラビィコール様ご一行が来ています』と伝えてくれてな。いつお城に来るのか……とワクワクしながら入口で待っていたんだ」
サーズ姫様も紅茶を口に含み、満足気な顔をしてから笑顔で俺を見てくる。
うっわ、絵に描いたようなクッソお美人様……。
……ああ、出会い頭に『待っていたよ』というのは、そういう理由か。
あの駅の有名人好き騎士、有能なのか……。
「それで~? わざわざハイラを使ってまで王都に呼びつけた理由は何~? まさか趣味の紅茶振る舞うため~?」
水着魔女ラビコが不機嫌そうに紅茶を飲み、サーズ姫様に言う。
こらラビコ、出してもらった紅茶だぞ、まずは『ありがとうございます、美味しいです』だろ。
「まぁ本来は影から君を守る役目としてアーリーガル=パフォーマに頼もうとしたのだが、ハイラインが『絶対に私が行きますぅ!』とアーリーガルに殴りかかる勢いで大暴れしてな……」
サーズ姫様がハイラを見ながら溜息交じりに言う。
「クッキーも美味しいですね、先生!」
……おいハイラ、この状況で満面の笑みでクッキーを食うな。
なんだよリーガルに殴りかかる勢いって……あんまりサーズ姫様にご迷惑をかけるなよ……。
「ハイラインを君の元へ送るのは多少不安ではあったが、すでに現地に派遣している騎士たちがいるし、水際対策の効果は出ているようなので、まぁラビィコールもいるし大丈夫だろう……と。それにハイラインをソルートンに派遣すると、ほぼ確実に王都には絶対に帰らない、と言い出すだろう、そうすれば君が暴れるハイラインを抱えて王都に来てくれるのでは……という目算だな。見事にその通りになったが、はは」
そうか、そういえばサーズ姫様が俺を守るために多くの騎士を派遣し、ソルートンの警備をしてくれたんだよな……これはお礼を言わねば……!
「あ、ありがとうございます! 俺なんかの為に多くの騎士を動かして下さり、もうなんとお礼を言えばいいのか……!」
俺は椅子から立ち上がり、床におでこを当て土下座でお礼を言う。
「いや、謝るのはこちらのほうだ、顔を上げてくれ。当の本人である君に詳しい説明もなく勝手に騎士を派遣し、ソルートンを物々しい雰囲気にさせてしまった。事を荒立てたくなかったというのもあるが、まずは君に最初に説明するべきだった。すまない」
うっへ、サーズ姫様が俺に頭を下げてきたぞ……いやいや、ただの街の人である俺に配慮なんていらないですって。
王都から騎士が多く派遣されたことで、ソルートンの治安がすっごい良くなっていましたし!
「それについては私も噛んでいますので、頭を下げねばなりません。申し訳ありません。今やソルートンは我が国において重要度がとても高い場所となっていますので、少々強引に動いてしまったかもしれません」
ちょ……フォウティア様まで頭を下げてこられたぞ……!
これは無理……俺にはもう対処出来ん! ラ、ラビコさん助けて……!
「ったく~、姉妹そろって私の社長にプレッシャーかけるのやめてよね~。それはもうこっちも理解したし、理由が分かった社長が私に抱きつきながら泣いちゃったんだよね~。あ~、あれは可愛かったなぁ~。どさくさで胸も触られたし~、あっはは~」
怯えた小鳥のような視線を水着魔女ラビコに送ると、溜息をつきながら立ち上がり、王族のお二人と俺の間に立ってくれた。
いつもの嘘と大げさな誇張と面白さ最優先のワードを足しながら──
「……何? ラビィコールの胸を触った、だと?」
ほら……! サーズ姫様が怖い顔になった……!
どうすんだよラビコ! 俺がやってもいない余計な事を言うからサーズ姫様が勘違いしているだろうが!
「あら……大胆ですね。その感じをうちのサーズにもやっていただけると、アレの稼働率が下がりそうです。ささ、今からでも遅くありません。サーズを抱き寄せて、ぐいっと触ってしまって下さい」
フ、フォウティア様、だからこれは水着魔女ラビコの嘘!
さっきもやった、大げさで面白最優先のやつ!
アレの稼働率……? さっきも聞いたような……よく分かりませんが、俺がサーズ姫様のお胸様を触ることはありません!
つか、出来ません!
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




