六百九十八話 久しぶりのカフェジゼリィ=アゼリィ様
「うおおおおお! 旦那、旦那じゃあないですか! お忙しいのに、わざわざ来てくれたんスか! 嬉しいっス!」
「ああ、うん……久しぶりシュレド……」
「あれ? なんか旦那、相当にお疲れのようですが……ああ! そっか、来る途中の列車で奥様たち全員と。なんと羨まし……」
「ちっがーーう! ラビコが余計なトラブル起こしたから走って来ただけだっての!」
久しぶりに来たペルセフォス王都。
ソルートンから直行で行けるのは楽になったのだが、二十五時間かかるのと、その間の食事が固いパンのみとかいう拷問。
王都駅を出て公園で身体を伸ばしていたら、冒険者の二人が水着魔女ラビコにサインを求めてきた。
まぁそこまではいいのだが、その際ラビコがまーた指輪を見せつつ『これが私の夫』とかいう、いつもの持ちネタを披露。
それ、ラビコにとっては、俺が大慌てで否定して回るから面白い、っていうネタなんだろうけど、マジで受け取られたらどうすんだよ。
一応訂正してから走って逃げてきたけど、大丈夫かなぁ……
とりあえず魔晶列車でロクな物を食べていないので、人間の食い物を求めて、お城前にある『カフェ ジゼリィ=アゼリィ』に来た。
久しぶりに会う、見た目が筋肉モリモリの『俺より強い奴に会いに行く系料理人』シュレド。
相変わらずワイルドな見た目で……と思ったら、髪もしっかり整えて切られ、服装も小奇麗な格好になっていた。
いや、まぁ以前も料理人としてキチンと清潔にしていたのだが、なんかワンランクかツーランク清潔度が上がった感じ。
なんだろう。
まぁ王都に住んで、多くの人に見られる状況になり意識が変わったってところだろうか。
っの野郎、都会に染まりやがって、的な? いや、いいんだけども。
「余計とかひっど~い。夫自慢して何が悪いのか~っての~」
水着魔女ラビコが不満気だが、だからその指輪を使った『これが私の夫ネタ』やめてもらえないですかね……。
ラビコは面白最優先でやっているんだろうけど、マジであちこちで誤解を生んでいると思うんですよ。
「ふふ、お久しぶりですシュレドさん。お元気そうで何よりです」
「ロゼリィお嬢、わざわざ来てもらって申し訳ないです! ご結婚はまだですかい?」
「そ、それはその、出来ればすぐにしたいのですが、その……」
宿の娘ロゼリィがシュレドに挨拶をする。
シュレドがペコペコ頭を下げるが、ロゼリィは雇い主のオーナー夫妻の娘さんという立場だからな。
なんかロゼリィがチラチラ俺を見ながらモジモジしているが、どうしたんだ。
時間的にお昼で、お店は外まで行列が出来る大混雑っぷり。
でももう我慢できないぐらいお腹がすいているので、申し訳ないが俺のオーナー代理とロゼリィの本店経営夫妻の娘の権利を使わせてもらった。
王都のカフェジゼリィ=アゼリィは三階建てで、一~二階は一般のお客さん用、そして三階は大人数の宴会が出来る大部屋と、小規模パーティーに対応した小部屋が何部屋かあり、小部屋の一室を解放してもらった。
「ありがとうシュレド、忙しい時間なのに申し訳ない」
「ちょ、やめて下さいよ旦那! 旦那がいたからこのお店が出来たも同然なんスよ? こんな立派なお店のシェフに誘ってもらった個人的な恩義もあるし、俺なんかに頭を下げるのはやめてくださいって!」
本店、ソルートンの神の料理人であるイケボ兄さんの弟であるシュレドにお礼を言い頭を下げるが、シュレドが大慌て。
「こ、これはオーナー代理にロゼリィ様じゃないですか……! お久しぶりです!」
背が高くて胸板すごいマンと揉めていたら、小奇麗な女性が現れ、俺とロゼリィを見て慌ててシュレドの横に走ってくる。
「ナルアージュ=シートです! お世話になっております! 定期の業務報告でお伝えしておりますが、売り上げ、来客数共に絶好調でして、このような素晴らしいお店で働かせて頂ける幸せを日々感じながら頑張っております!」
ああ、商売人アンリーナ側から派遣されているナルアージュさんか。
この人が送ってくる業務報告、マジで見やすくて的確なんだよな。
たまにシュレドの業務報告も来るが……その、文字があまりに速筆? 略字にオリジナル文字満載で読めないことが多くて……イケボ兄さんに解読してもらうレベルなんだよね……。
売り上げは、マジでえげつないレベル。
さすが人口が多いペルセフォス王都、桁違いです。
「お久しぶり、ナルアージュさん。混雑時に申し訳ないけど……美味しい物をお願い……俺たち魔晶列車で固いパンしか食ってなくて……」
「今すぐご用意いたします! ほら、シュレドさん、今こそ鍛えた料理スキルを発揮する場面です! 私はデザートを作ります!」
「お、おう! 待っててくれ旦那! 王都で鍛えられた腕、今こそ見せてやるぜ!」
俺が青い顔で極限までお腹が減っているアピールをすると、二人がビシっと背筋を伸ばし頭を下げ、厨房に走っていった。
「ふふ、なんだか仲が良くなった感じですね」
宿の娘ロゼリィが俺の左腕にピッタリくっつき、走っていった二人を笑顔で眺める。
仲が良くなった?
「あれだね~、もう肉体関係あり~! って感じ~。まるで私たちみたい~、あっはは~」
水着魔女ラビコもニヤニヤ顔で右腕にくっついてくる。
私たちみたいな肉体関係?
何を言っているんだこの水着魔女は。
俺、現在進行形で清らかな身体を守っていますけど?
「すげぇなキング、まさに恋の神様じゃねぇか。って、いい加減他人のことよりよ、そろそろキングも身を固めたほうがいいンじゃねぇの? みんな待ってンだしよ、にゃっははは!」
猫耳フードのクロが俺の背中をバンバン叩き爆笑。
身を固めるって……俺まだ十六歳よ。相手もいないし。
「…………島に行きましょうマスター」
おっふ、やめてバニー娘アプティさん。
いきなりお尻を下からすくうように掴んでこないで……ビックリするから。
「そうですよ先生! 他人の幸せよりも自分の幸せを優先して下さい! ほら、私に何か言うことがありますよね!」
騎士ハイラがニッコニコ笑顔で言ってくるが、何か言うこと?
ああ、ハイラはお昼を食べたらすぐにサーズ姫様にご報告に行くように、かな。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




