六百九十七話 到着王都ペルセフォスで有名人ラビコが挨拶代わりに巻き起こすトラブル様
「はい到着ペルセフォス王都~。馬車を挟まずに来れるようになったのって、マジ楽~。あっはは~」
港街ソルートンから魔晶列車に乗り二十五時間後、俺たちは無事ペルセフォス王都に到着した。
水着魔女ラビコが楽と言っているが、日本に住んでいた俺からしたら、二十五時間の列車移動はそこそこキツイ。
ソルートンに駅が出来る前は、魔晶列車に乗るために十二時間の馬車移動があったから、それが無くなったのはでかいけど。
「ああああああ……着いてしまいました……一生来ることは無いと思っていたのに……! やっとソルートンで私の幸せな第二の人生が始まったというのに、早々にペルセフォス王都に来ることになるとは……!」
列車を降り、水着魔女ラビコを先頭に歩くが、騎士ハイラが俺に抱きつきながら青い顔でブルブルと震え始める。
いや、ハイラさん、あなたはお仕事で一時的にソルートンに来ただけで、報告やら何やらで王都には帰らないとマズイでしょう。
ソルートンで第二の人生を送りたいってのは歓迎するが、それは今すぐじゃあなくてもいいだろ。
「ふわぁ……やはり王都は大きいですね……。ソルートンにも駅直結の大型商業施設は出来ましたけど、やはりペルセフォス王都は別格です……」
宿の娘ロゼリィが、とんでもない数の人で溢れかえる駅構内と、直結で行ける大型商業施設の規模を見て思わず声をあげる。
やめるんだロゼリィ。田舎町に急に出来た大型施設と、元から栄えていた場所にある大型施設を比べてはいけない。
「……ここはあまり好きではありません……」
バニー娘アプティが、俺の後ろで無表情に呟く。
そういやアプティは以前もそんなことを言っていたよな。まぁソルートンに比べて人が多すぎるし、海も見えないしな。アプティには苦手な環境ってことだろうか。
「ベッス」
バニー娘アプティの頭を撫でていたら、愛犬ベスが元気に吼える。
まぁうちの愛犬はお酒の国のケルシィの雪が降っている寒い地域でも元気だったし、とんでもなく熱い砂漠地帯の火の国デゼルケーノでも平然としていたし……まぁ無敵なんだろう。
「お、来たぜェ、久しぶりのアレ。にゃっははは!」
猫耳フードのクロが楽し気に指さすと、向こうから重そうな鎧を着た騎士さんが行列で走ってきた。
「整列、ラビコ様に道を! 王都民全員がラビコ様のご帰還を首を長くしてお待ちしておりました!」
騎士がズラリと並び剣を掲げる。
ああ、そういえばこんなイベントあったな……。
混雑する駅構内に騎士が作ってくれた道が出来上がり、周囲の人が水着魔女ラビコを見て驚きの声を上げる。
「おおラビコ様だ! こんなお近くで拝見できるとは……」
「うわぁラビコ様だー! 冒険者センターで売っているガイドブック買いました! ラビコ様の表紙最高です!」
「はいはいどうも~、ラビコさん本人ですよ~。騎士のみなさんもいつもご苦労様~。はい隊長さん握手~」
ラビコが周囲の人と壁を作ってくれた騎士たちに笑顔で手を振り、最後、指示をしてくれた隊長さんと握手をする。
「ありがとうございます! ラビコ様に握手をしてもらえるこのお仕事が天職で最高です!」
騎士の隊長さんが大興奮だが、そういやあの人、王都の駅の警備になりたくて騎士になったんだっけか。
王都の駅は、他国から多くの人が訪れる重要な場所。
そこに常駐し、平和を守る志の高い騎士に憧れた……のではなく、王都の駅って絶対有名人いっぱい来るよね、じゃあそこでお仕事してたら会い放題じゃん、騎士になーろおー、って感じだったはず。
以前話したとき、そんな事を言っていた記憶がある。
うん、俺、あの人と友達になれそう。
「しかし毎回王都に来ると感じるけど、ラビコってマジの有名人なのな」
「は~? あったりまえでしょ~? 何度も言ってるし~、私の実績とこの美貌を見たら納得でしょ~。あ、少年は世界的に有名で王都民に大人気でモテモテなラビコさんのサインが欲しいのかな~? どうしよっかな~、私って普段は絶対にサインとかしないけど~、少年が裸で踊りながら頭を下げてくるなら~、考えてあげてもいいよ~? あっはは~」
混雑する駅を出て、真っすぐ伸びる大きな公園を眺めながらラビコに言うと、いいオモチャを見つけた悪魔みたいな笑顔で、爆笑しながら俺を小突いてきた。
このクソ魔女……謙遜とかしねぇのかよ。
誰が器用に裸で踊りながら頭を下げるかっての。
いや、実際水着魔女ラビコは十歳からルナリアの勇者のパーティーメンバーとして世界を巡り、蒸気モンスターを倒しまくったという実績は、マジですごいと思う。
その、見た目も……とんでもないお美人さんでスタイル良いし、しかもいつも何でか水着姿とかいうサービスっぷりだし、人気なのも分かるけど。
ああ、俺はいつもラビコの水着姿を網膜に焼き付けているぞ。
「ラビコ様だ! すげぇ本物だ!」
「マジか……! ラビコ様、冒険者センターのガイドブック買いました! サ、サイン下さい!」
現在午前十一時過ぎ。さて騎士ハイラをお城に送り届けなくてはならないが、まずは腹ごしらえだろう。
魔晶列車の中では固いパンと、止まった駅で買った、ただ辛いスープしか飲んでいないので、早く人間の食べ物が食べたい。
そう、ペルセフォス王都には宿ジゼリィ=アゼリィの支店、『カフェ ジゼリィ=アゼリィ』があるんだよね、早くそこに行こうかと思っていたら、近くにいた若い冒険者さんがラビコに気付き話しかけてきた。
さっきも駅で言っている人がいたが、俺の思い付きで作ってもらった冒険者センター公式ガイドブック、ペルセフォス王都の冒険者のみんなも買っているんだなぁ。
「はいは~い、この場に居合わせた幸運な冒険者さんにはサインを~。しっかり読んで、正しい情報を元に行動出来る冒険者になってね~。あっはは~」
「あ、ありがとうございます!」
「やった……! 一生の自慢です!」
水着魔女ラビコがサラサラと二人の差し出してきた冒険者センター公式ガイドブックにサインをし、ニコニコと俺を見てくる。
なんだ? ラビコがぐいぐい頭を俺に押し付けて来たが……。
「……ああ、偉いぞラビコ。そして本、出して良かったな」
褒めろってことね。俺がラビコの頭を撫でると、ニンマリと笑顔になる。
「あっはは~、そうそう、素直な少年は好きさ~。うん、ガイドブックは社長の案だけど~、マジで冒険者の間に起こった革命だと思うよ~。さっすが私の夫~」
「……え、ラビコ様……夫?」
「この冴えない少年が夫ですか……? え、ラビコ様、それはご結婚をされたと……?」
ラビコが笑顔で俺に抱きついてきて、最後に余計なことを言う。
それを聞いた冒険者の二人がワナワナと震えだし、信じられない顔で俺を見てくる。
「うん、これが私の自慢の夫~! 見ろ証拠のこの結婚指輪を~。あっはは~」
水着魔女ラビコが左手薬指につけたシルバーの指輪を見せつけ大爆笑。
こんのクソ魔女ぉぉ……! たまにはトラブル無しで行けねぇのかよ……!
「ち、違いますよ、これは感謝の気持ちを込めて贈った指輪で、しかも俺は十六歳でまだ結婚出来ませんし、今のはラビコが俺を使って遊ぼうとして言っただけで……ああああああ面倒ー! こら、ロゼリィとかも指輪を光らせるんじゃない! 全員早足! これからお城前にあるカフェジゼリィ=アゼリィに直行する!」
俺がしどろもどろに説明するが、これ毎回面倒だから嫌なんだよ!
宿の娘ロゼリィとか猫耳フードのクロ、バニー娘アプティが同じく指輪を、そして騎士ハイラもネックレスを自慢気に取り出し始めた。
ああああ……もういい、とにかく今はお腹がすいている。
この場からダッシュで逃げて、まずは美味い物を喰うぞ!
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




