六百九十四話 ハイラを王都に送り届けよう作戦開始様 ──18章 完 ──
「そうだそうだ~、私だって恥ずかしいの我慢して毎日水着なのに~、社長が手を出さないのはおかしい~。あっはは~」
「わ、私も紐みたいな水着で迫ったことがあるのですが、ダ、ダメでした……」
朝の食堂で騎士ハイラが王都には帰らないと騒ぎだし……たのだが、水着魔女ラビコと宿の娘ロゼリィが妙な主張をし始めた。
いや、水着魔女ラビコが毎日水着なのは、出会った当初から、というか、ルナリアの勇者パーティー時代からそうだったろ。
宿の娘ロゼリィの水着は……確か商店街の怪しいお店で買った特殊効果付きの水着、だっけ?
メロメロー、とか言ってロゼリィが暴れていた記憶がある。
あれ……これ前回と話、繋がってる?
「ぜってぇおかしいよな、普通手ぇ出すだろ。こっちは毎日期待しながらずっと下着一丁で歩き回ってンだぞ?」
猫耳フードのクロも熱弁し始めたが、そうだ、こいつだ、クロの発言から話がスライドしたんだ。
「うんうん、なるほど、ソルートン組の皆さんも苦労されているんですね……分かりました、では先生、ここは間を取りまして、今から全員とするというのはどうでしょう。それならみんな満足、幸せな気持ちになれますし、とりあえず一回しておけばここまで揉めないと思うんです。つまりこれは先生の行動が招いた不幸、放置しておくと悪化する可能性がありますので、ここで一度清算しておくのが最良かと思うんです」
騎士ハイラがうんうん頷き周りの意見を聞き、謎のまとめを俺に提案してくる。
何の間を取ったら全員とする、みたいな着地点になるんだよ。
強引すぎだろ。
「え、兄貴、ついに全員を抱くんすか! つか今頃っすか! とっくにやってんのかと思ってましたよ」
「うちの英雄様は妙に奥手で臆病だからな。まぁ、それが良いところでもあるんだがよ。でもよ、女性を悲しませちゃあいけねぇ。ほら、早く部屋に行け、周囲の警備は俺らでやるから、覗きとか心配せずにやってこい」
隣のテーブルを囲んでいた、トゲ付きアーマーやらを装備したモヒカンとドレッドヘアーが話に絡んでくる。
おい、隣の席の話に聞きを耳立てているのはマナー違反だろ。
どういう話の流れと理解したんだ。
「お、ついにやるのかい? いいよロゼリィ、行っといで。絶対に逃がすんじゃないよ、今から手漕ぎ小船に乗って海に出な。そいつをロープでグルグル巻きに縛って目隠しして足に重りを付けるんだ。暴れたら海に落ちるから、男は自然と静かになるんだよ。そこからはもう好きなだけ楽しみな。ほら、行きな!」
「待つんだ、ロゼリィ。そこまでしなくても、この薬で一時間は気を失うからね。平和に楽しんでおいで」
え、ちょ、ロゼリィのお母様であられるジゼリィさんと、お父様であられるローエンさんまで参加してきたぞ。
つか普通止めるところじゃねぇ?
グルグル巻きにされて小舟……? その、ジゼリィさんって、発想がマジで怖いんですって。まさか経験談……じゃないですよね?
ローエンさんも、ニコニコ紳士笑顔ですが、その白い粉はなんでしょう……平和?
「あの、隊長、ついでに私たちも参加していいです? そこまで人数がいるのでしたら、私たちも参加しても問題ないんじゃ……ね、いいですよね? 準備準備!」
「やったのです、ずっとチャンスを狙っていましたが、ついにその時がきたのです! ヘルブラとアランスとフランカルは今お風呂なので、すぐに呼んできますです!」
食堂で配膳のお仕事をしていたポニーテールが大変似合うセレサと、その持てるボディはロゼリィクラスのオリーブが慌てて動き出す。
え、今日に限って正社員五人娘のみなさん全員いるんすか……つか、ついでに参加ってどういうこと。
「……マスターが大人気……みんな幸せ……」
バニー娘アプティさん、お願いだからブツブツ呟いていないで、俺を抱えて逃げて……ってそれだとそのまま海の向こうの銀の妖狐の島に連れていかれそうだな。
だめか……。
「あ、あの、そろそろハイラが王都に帰らないとまずいって話はどこに……」
「その話は『ソルートン永住』ということですでに決着がついています。さ、先生はそろそろご自分の罪と向き合う覚悟をつけましょう。私が弁護をしてあげますから、安心して断頭台に向かいましょう」
話の流れがおかしな方向にいったので、慌てて軌道修正しようとするが、ハイラが優しい笑顔で俺の肩を叩いてくる。
ちょ、罪? 断頭……?
弁護はしてくれるけど、行先は変わらないんかい!
何か急速に俺が裁かれる話が進みだしたんですけど、どういうことなの。
童貞は罪とか、異世界ってそういう所なんすか!?
つか、このままだとマジでハイラは王都に帰らないで、ソルートンに住みついてしまいそうだな。
いや、ハイラがそう望んでいるのなら、当然俺はその考えを支持するが、残念ながら今のハイラは『ウェントスリッターで優勝した騎士』という縛りがある。
サーズ姫様が言っていたが、果たさなくてはならない任務も増えるし、ペルセフォス王国の今年の代表騎士であるという立場上、騎士の模範となるような行動もとらなくてはならない。
そして今のハイラの行動は……まぁアウトだろう。
確か今年一年は代表騎士として、とか言われていたから、来年になれば多少緩和されるはず。
その時はハイラの自由にすればいいし、サーズ姫様も色々計らってくれるだろう。多分。
サーズ姫様とフォウティア様の連名サインが入った書類があったが、なぜか俺の名前が記載されているとかラビコが言っていた。
それは多分……ハイラをソルートンに派遣すれば多少のトラブルが起こるのは想定済みで、それは俺がなんとか解決するだろうと信頼してくれたからこそ、送り出したんだろうし……その期待は、裏切れないだろ。
俺はサーズ姫様とフォウティア様にはとんでもなくお世話になっている。
ならば、俺が今取るべき行動は……
「……ハイラ、何も言わず俺に付いてきてくれ」
「え、せ、先生……あ、そんな強引に私を引き寄せて……そ、そうですね、この宿では防音が心配ですし、やはり中心街にあるカラフルなホテルのほうが声を心配せずに済む設計でしょうし……分かりました、先生のエグイ性癖は私一人が受け止めます。ふふ、ソルートン組の皆さんとはここでお別れですね……私、先生と大人になってきます! それじゃあ!」
俺はハイラの手を握り、宿の外へと向かう。
「え、あの……小船は……わ、私も、その……」
「そういやキングってエッグイ行為連発なンだっけ? にゃはは、さすがに宿中にアタシたちの声が響くのはまずいか。ハイラだけじゃあ耐えられないだろうし、アタシもいいだろ、キング」
宿の娘ロゼリィがちょっと悲しそうな顔になり、猫耳フードのクロが普通について来ようとする。
クロさん、あなたの中で俺っていう童貞はどういう男になってんの。
まぁいい、もちろんハイラ一人だけじゃあない。みんなも一緒だ。
「ロゼリィ、ラビコ、アプティ、クロ、急で済まないが、出かける準備をしてくれ」
「ベッス!」
ああ、もちろんベスも一緒だ。
「は、はい……! ついに私もあなたと……」
宿の娘ロゼリィがパァっと明るい顔になるが、小舟とか乗らないっすよ。
乗るのはもっと大きくて、最近ソルートンに出来たやつです。
「あれれ、今日行くの~? あ~あ、この流れ面白かったのにな~。これじゃあまんまと、あの変態姫の予想通りの行動じゃ~ん」
水着魔女ラビコは俺の行動の意味が分かっているようだな。
もう充分、お前が面白いと思える流れで動いただろう?
悪いが、俺はサーズ姫様の信頼を裏切らないことには定評がある男なんでな。
「俺たちは今からペルセフォス王都に向かう! さぁ、みんなでソルートンでのお仕事を終えた騎士ハイラを王都に送り届けるぞ!」
「えええええええ! い、嫌ですー! もう二度とつまらなくて人生の無駄な場所、王都には帰らないって決めて私はソルートンに来たんですー! で、でも先生と一緒に密室魔晶列車旅行……うう、それは魅力的です……」
俺が高らかに宣言するとハイラが驚き抵抗してくるが、何か妄想を始め、身体を震わせ迷い始める。
よし、今だ、ハイラが迷っているうちに王都に送り届けるぞ!
俺も一緒に行けば、ハイラも我慢して王都に帰ってくれるだろ。
「セレサ、オリーブ、ヘルブラ、アランス、フランカル、さすがにこの宿の主戦力である君たちが全員いなくなるのは宿ジゼリィ=アゼリィに迷惑がかかる。すまない。だが今度、絶対に王都に連れて行くから、それまでみんなで俺が留守の宿を守ってくれ」
急いでお風呂から上がってきたメンバーが揃い、正社員五人娘がズラリと並んで待機していたが、さすがにみんなを王都に連れて行くのは、宿に迷惑がかかる。
ごめん。
「……分かりました。私たちは隊長を信じ、ここで戦うことにします。それに焦らなくてもチャンスはこれからもたくさんあるでしょうし……でもいつか、必ずご褒美をくださいね」
正社員五人娘が残念そうな顔になるが、リーダーであるセレサがビシっと敬礼をし、優しく微笑んでくれる。
……申し訳ない、お土産はたくさん買ってくるからね。
「え、あれ? 王都に行くんです? 今からですか? あ、そういえばこのあいだ、いつ緊急でお出かけになってもいいように、荷物をまとめておいたんでした! 分かりました、今すぐ行けます!」
宿の娘ロゼリィが焦った顔になるが、おお、緊急用の荷物をまとめておいたのか。
すまないロゼリィ、俺といると、どうしても世界を巡ることになるからな……足りないものは俺が出すから、向こうで買おう。
「……準備、出来ました、マスター……」
バニー娘アプティが頭に付けているコスプレバニー耳の位置を調整し、無表情で俺を見てくる。
うん、アプティの準備ってそれでいいんだ……まぁロゼリィと同じく、足りないものは俺が買うから大丈夫。
「にゃっはは、まぁそうなるよな。キングを王都に連れてくる、が、今回のサーズ様の作戦だな、こりゃ」
猫耳フードのクロも上着を脱ぎ笑う……って何で王都に行くのに上着脱ぎだしたの。
って、ああ、腰に着けている魔晶銃の確認か。
「な~んか全部あの変態姫の手の平の上とか納得出来ないけど~、社長が決めたんなら仕方ないか~。じゃあ行きますかね、久しぶりの王都ペルセフォスに~、あっはは~」
水着魔女ラビコが杖と小さなカバンを持ち、準備完了、と俺を見てくる。
準備早っ……、さすが歴戦の冒険者ですな。
そういや魔晶列車で何度か通りはしたが、ペルセフォス王都に行くのは久しぶりか?
お城前のカフェジゼリィ=アゼリィのメンバーにも会いたいし、ちょうどいいだろう。
俺を王都に連れてくることがサーズ姫様の作戦……?
よく分からんが、サーズ姫様が俺に用事があるってことか?
まぁ王都に行けば全部分かるだろ。
よし、行くぞ、さぁ久しぶりのペルセフォス王都だ!
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
18章 異世界転生したら腹を舐められたんだが ── 完 ──
19章へ続く・・・・・・
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
18章 異世界転生したら腹を舐められたんだが を最後までお読みいただき感謝!
なんかストレートに表現したら、とんでもない章タイトルになってしまいましたが・・
お読みいただいて納得いただけたでしょうか・・・
王都から騎士ハイラが来て腹を舐められ
島から水の種族であるアーデルニとドロシーが来て腹を舐められたり
そして闇の種族ルリエラさんまでもが・・
それでこれはもうこの章タイトルしかないな! となりました()
水の種族のアーデルニとドロシーは久しぶりのご登場。
懐かしいですね、主人公くんが島に連れていかれたときに出会った二人です
闇の種族のルリエラさんも再登場
どうにも主人公くんにやられた裸でふにゃんが許せないご様子・・・
ケルベロス散歩のときにもタイミング悪く現れてしまい、ケルベロスさん激怒
どうやらケルベロスさんは、上位蒸気モンスターである闇の種族のリーダールリエラさん
すら足元にも及ばないレベルの強キャラみたいです
何者なのかなぁ
そして物語は19章へと続きます
ハイラを連れて、久しぶりのペルセフォス王都へ!
さぁどんな物語が展開されるのか、そしてサーズ姫様の狙いとは・・・?
次回19章の連載再開をどうぞご期待くだされ~
おそらく冬・・・ぐらい、かと(未定
(11月か12月予定
18章を最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは19章でお会いしましょう!
ご感想などあると、とても作者が喜びます
【宣伝】
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
書籍 ① ② 巻 発売中!
コミカライズ版 ① 巻 発売中!
++++++++++++++
【以下定型文】
作品を読んで興味を持ってくれた読者様! よろしければ下にある
『☆☆☆☆☆』のポイントをよろしくお願いいたします。
応援する意味でブックマーク登録やご感想、レビュー等いただけたらとても嬉しいです!
影木とふ




