六百九十一話 俺のケルベロス散歩に闇の手が迫って丸見え様
「なんか色々疲れた……うん、こういうときは、聖地に行くに限る」
宿ジゼリィ=アゼリィで夕飯をいただき、夜二十二時過ぎ。
俺は一人、宿を出る。
夕飯は豪華お刺身セットだったのだが、メイドバニーであるアーデルニとドロシーがすごい喜んでいたな。
アーデルニは赤身系、ドロシーは青魚系が好みらしい。
おかわりもしていたし、気に入ってくれたのは何よりだ。
つか、人間ではない、上位蒸気モンスターである二人を虜にする料理を当たり前に作る、宿の神の料理人、イケボ兄さんがすごすぎ。
あの人の料理スキル、カンストしてるんじゃないのか。
最近、ハイラが王都から来たり、バニー娘アプティがアーデルニとドロシーを連れて来たり、闇の種族であるルリエラさんに襲われたりと、俺の心が休まる暇がなかった。
心が休まるというか、一人になれる時間が少なかった、が正解か。
……一人で何をするって……? おいおい、思春期の少年にそれを聞くかい。
「アプティは……もう慣れたんだけど、アーデルニとドロシーがちょいちょい俺の部屋に来てなぁ……」
ん?
アプティは慣れたって……俺の感覚、狂ってるな。
女性が部屋にいるのにお一人様祭りを開く俺って……やばいな。
そりゃあ童貞なわけだ……。
「さて、周りに誰も……いない。追跡者ゼロ、ならば行こう、我が心の聖地へ……あ、待てよ、あいつの散歩してないな」
さて行こうか、ソルートン男児の聖地、エロ本屋へ……と思ったが、右手首に巻きついている首輪を見てふと思い出す。
「そういやケルベロスの散歩をしていないな。……こっちが優先か」
愛犬ベスもそうだが、犬は散歩が大好きだからなぁ。
俺の心の平穏を保つための聖地巡礼も大事だが、あいつの散歩も大事か。
犬は基本毎日散歩が当たり前なのだが、さすがに空間外から当たり前に現れるあいつは存在が特殊すぎて、毎日呼ぶのも難しい。
それに条件が、周りに誰もいない場所で暗い場所限定、だしな。
つか、ケルベロスってのは「犬」って扱いでいいのか?
よく分からん。
「ソルートンの砂浜でいいか……あれパラパラ人がいる……しかもカップルぅぅ……!」
行先を聖地からソルートンの南にある砂浜にルート変更。
この時間の砂浜は基本誰もいないのだが、今日は気温が高く風も無いので、夜の海を見に男女のカップルがチラホラ。
ちぇ、砂浜に座って星空を見て綺麗だね、とかいう定番のやつか?
そのまま彼女の肩に手を回しーの、ほらあれが何とか星座だよ、とか言って距離を縮めて……ああああ、だっせぇ!
ハイラが聞いたら鼻で笑うレベルのテンプレデートだけど……俺もやりてぇ!
「ダメだ、今日の砂浜は陽の者に汚染されている。山に行こう」
砂浜からちょっと西に……というか、そこそこ歩くと山がある。
今日そっちだな。真っ暗ですっごい怖いけど、ケルベロスを散歩させる為には仕方がない。
「うわぁ……マジで暗闇だ……」
山に繋がる森に近付く。
当然街灯なんて無いから、真っ暗。
モンスターとかは……いなそうだけど、怖いから早くケルベロスを呼ぼう。
あいつ、戦闘力は銀の妖狐以上だし、森にモンスターがいたって平気だろう。
「えーと、なんだっけ……携帯端末のメモ……って異世界には無いんだった。グーギュル……? 違うな、グークヴェル・ケルベロースだったか?」
『キャハー! ボスの呼び出しキター!』
右手首の首輪に向かって、お決まりの呪文っぽいものを呟く。
文言がなんだか忘れて、クセで携帯端末を見ようとするが、ここは異世界なのでポケットに端末は無し。
記憶を頼りに適当に言うと、『空間外』から声が聞こえ、俺の真上の空間に裂け目が出来る。
そしてそこから黒いドレスを着た女性が元気に現れ、着地。
ほら、この登場方法、普通じゃないだろう?
しかもケルベロスは普段、ソルートンから遠く離れた冒険者の国の地下迷宮の最深部にいるんだぜ?
それがどうして一瞬でソルートンに来れるんだよ。
「って、ボス間違えてるー! こないだちゃんと言えてたのにー、なんで退化して……」
「あはははは! バカめ、私が帰ったと思って油断したなキツネ派め! 狙われているのに自ら一人になるとか所詮は脳内お花畑の人間! さぁ、お前を裸にして無様に泣かせてやる……? あれ、誰もいなかった……はず……あれ、グレイフィル?」
俺一人しかいなかった場所に、突如現れるケルベロス。
と同時に、俺の背後から黒い格好の女性が現れ、歓喜の声から後半は疑問形に。
え、誰? あれ、この声……
「ぁ……ぁぁぁ……ケ、ケ……」
女性の後ろには男性もいるのだが、身体がカチーンと固まり、あんぐりと大口を開けて冷や汗をダラダラと流している。
もしかして闇の種族のルリエラさんと、グレイフィルさんか?
あれれ、確かもう帰ったはず……まずった、ケルベロスと一緒のところを見られてしまったぞ……。
「おかしいな、こいつの周りには確かに誰もいなかったはず……突然存在が降って湧いた……? 誰だこの女……どっかで見たような……? なんだ、どうしたグレイフィル、面白い顔になっている……ヒュギョハぁ!」
「……私とボスの時間を邪魔したな……記憶と存在を消してやる……」
ケルベロスが真顔になり、瞬時にルリエラさんの横に移動。
無造作にルリエラさんの顔面を掴み、その身体を持ち上げる。
ちょ……! ケルベロスがとんでもなく怒ってる……なんだこの身体が重くなったような感覚は……!
怒り? ケルベロスの放つ圧がやばい、恐怖で背中の汗が止まらん。
「ま、待てケルベロス! これは俺のミスだ! すまなかった、その怒りは俺に向けてくれ!」
顔面を捕まれたルリエラさんが藻掻くが、ケルベロスの放つ圧がさらに強くなる。
こ、これは気を抜いたら一瞬で気絶するレベル……
ルリエラさんが白目でヨダレを垂らし始めてしまったし、グレイフィルさんがすでに気絶して倒れている……やばい!
「ボスは悪くないー。こいつらが私の目の前でボスに敵意を向けた……絶対に許せない」
ケルベロスの怒りが収まらねぇ……どうする、ええい、どうにでもなれぇい!
「お、俺ってド変態なんだ! いっつもお前の身体を見て興奮していて、今日はもう我慢が出来ない! す、好きだぞケルベロース!」
俺は覚悟を決め、背後からケルベロスに抱きつく。
ちょっと勢いあまって、ケルベロスの大きな胸を思いっきり掴んでしまったが……わ、わざとじゃないんだって!
ルリエラさんを助ける為の咄嗟の行動であって、それ以外の目的は無いです超柔らかい。
「え、きゃっふ! いきなり情熱的に胸触ってくるとか、ボスって私で興奮してたんだ……! やった、私もボス好きー」
ケルベロスが驚きの顔になるが、俺を見て怒りが消え、いつもの笑顔に戻る。
ルリエラさんを放り投げ、俺の頬をベロンベロン舐めてくるが、よ、良かった……ルリエラさんは無事か……マジ危なかったぞ。
「やっぱりボスって、それ目的で私のこと呼んでたんだねー。いいよー、ボスは強いし優しいから大好き。ボスのほうから来てくれるなんて嬉しい、私、ずっと待ってたー!」
ケルベロスが興奮しだし、着ている黒いドレスをペロンとめくり、大きなお胸様が丸見え……ちょ、それ以上はアカン!
今度はこっちのフォローをしないと……ああああ、もう、俺の心の安らぎはどこにあるんだ!
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




