六十九話 ソルートン防衛戦 2 異世界での覚悟様
避難所の街から少し離れた農場に到着。
道中、歩く人に会話は無かった。
農場のオーナーのおじいさんが笑顔で迎えてくれ、倉庫をお年寄り、女性、子供を優先に開放。
健康で体力ある若者は緊急用に備えてあったテントを倉庫から出し設営。もとから避難所に指定されていたらしく、テントや、緊急用グッズは足りそうだ。
農園だけあって、食料も十分ある。数日なら余裕そう。
「……数日もここにいなきゃいけない事態は考えたくないな」
俺はテントの設営を率先してやり、何も出来ない自分の不甲斐なさを誤魔化していた。
ベスも事態がおかしいことに気付いたらしく、ソワソワしている。
「明日早朝かのぅ。見えたんじゃろ? あの島がのぅ」
農場のオーナーのおじいさんが夕飯の準備を手伝っていた俺に話しかけてきた。
「はい、何かとても不気味な感じでした」
あの恐ろしい蒸気モンスターの住む島。いったいどれだけの数がいるのか。考えたくもない。
「状況によっちゃぁ隣町まで避難かのぅ。まぁ、しばらくは持つじゃろうし、あいつ等の頑張り次第かのぅ」
街には冒険者の有志が集まり、街の防衛に当たるそうだ。かなりの数の冒険者が集まり、士気は高そうだった。
残念ながら俺は冒険者としては無力。
ジゼリィさんにロゼリィを託されたので、俺はベスの力を借りてでも必ず守るつもり。今はとりあえず、新人五人組についてもらっている。
「まぁ心配すんなや、そんな強張った顔じゃあ守るもんも守れなくなるけぇ。まず飯食え」
おじいさんが俺の肩をポンと叩き、自宅に入っていった。
みんなに配布されたのはパンとスープ。
とてもじゃないが喉を通らない。皆も同じ気持ちらしく、モソモソと少し食べる程度で済ませた。
「隊長、ロゼリィさんがあなたに会いたいと」
セレサが不安そうな顔で俺の側に来た。
倉庫に入り、ロゼリィの元へ。ずっと泣いていたらしく、目が赤い。
「あ、ごめんなさい……呼びつけてしまって……」
「いや、俺も不安だったしロゼリィに会ってから寝ようと思っていたから」
軽くロゼリィの頭を撫でる。
「ふふ、落ち着きます。泣いてばかりいてもしょうがないですもんね。私も明日は頑張ります」
良かった。いつもの笑顔が戻った。
ロゼリィと五人組にもう寝るように、と言い俺は農場の端にある小高い丘に登った。
「ここ、街を上から見れるのか」
街を見下ろすと、あちこちに明かりがついている。冒険者の有志が集まっている場所なんだろう。
とても静かな夜。明日街で戦いが起きるとは思えないぐらい平和な夜。
しかし海の向こうには靄に包まれた島が見え、確かに近づいて来ている。
「ベスッ」
ベスが俺の足に絡みついて来た。
「はは、なんか大変なことになったな。モンスターとかが普通に居る世界だもんな、平和なわけないよな。悪いがベス、明日は頼りにしているぞ」
ベスの頭を撫で、俺も覚悟を決める。




