六百八十八話 みんなが守ろうとした物と俺の心の在り処様
「まぁあれさ~、外から見たら、ソルートンの発展具合いが異常なのさ~。その情報が欲しいってところは、個人、お店、企業、ギルド、さらには国単位で、いくらでもいるってわけさ~」
水着魔女ラビコに接触してきた、冒険者風の男五人。
ラビコ曰く、彼等は冒険者ではなく、フリーの記者じゃないか、とのこと。
なぜラビコに接触してきたかというと、情報を求めていた。
昨今の港街ソルートンの発展具合いは異常、何か秘密があるんじゃないのか、そう疑問に思ったのだろう。
そしてそれを非公式に秘密裏に手に入れたいと思うのは……うーん、あんまり関わりたくない所、だろうなぁ。
場所を宿ジゼリィ=アゼリィ二階の俺の部屋に移し、話を聞く。
多少のクローズド空間が必要な話っぽいしな。
水着魔女ラビコに宿の娘ロゼリィ、猫耳フードのクロ、バニー娘アプティにメイドバニーの二人、騎士ハイラに集まってもらう。
……なんというか、全然話とは関係ないんだけど、俺が普段寝ている部屋にこれだけの女性が集まるのが不思議な感じ。
ああ、もちろん壁にはバニー娘アプティに買ってもらったエロ本(紐でグルグル巻き)も飾ってあるぞ。
もうみんな、それを見ても何も言わなくなったな……って違うぞ、エロ本を見た女性の反応が楽しくて飾っているわけじゃあないぞ!
あれはバニー娘アプティが俺を喜ばせたい、と真剣に考えて贈ってくれた宝物だから、嬉しくて飾っているだけだぞ。
他意は無いし、話を戻そう。
「そうか、ソルートンの街中に王都から派遣された騎士が多いのは、そういうことか。水際対策、的な」
魔晶列車が開通してから、混雑対策で多くの騎士が王都から来ていたが、外部からのトラブル防止目的だったのか。
そして冒険者が増えたなぁと思っていたが、一部はさっきみたいなコスプレ冒険者ってことなのか。
「そういうこと~。何であれ、余計なトラブルは起きないに越したことはないからね~。もちろんソルートンは急に人口が増えたから、それ対策でもあるんだけど~。ハイラが来たのは……まぁ過剰だとは思うけど~。あっはは~」
「か、過剰ではありません! 国を守る為なら、騎士は全力でやり遂げるのみです! それに先生を守るための戦い、これにもうすぐ妻であり愛人である私が参戦しないのはおかしいですし! サーズ様に何度もお話をして、私が行くべきだと納得してもらいましたし!」
俺を守るための戦い?
もうすぐ妻だの愛人だのはスルーするが、ソルートンじゃなくて……俺なの?
確か最初、サーズ姫様とフォウティア様のサイン入り書類を床に叩きつけていたけど、ハイラがその二人を説得してここに来たってことなのか。
大事じゃん。
「あの変態姫が本気で動いているんだし、これ以上の対策は過剰だと思うけど~? ハイラは単に社長に会いたかっただけでしょ~」
「もちろんです! 基本派遣された騎士だけで間に合っています! たまにさっきみたいなイレギュラーはありますが、対処できる範囲内ですし! なので私は存分に王都の呪縛から解き放たれ、自由に先生の愛を満喫……」
あーあ、ラビコの誘導尋問に見事に引っかかったぞ、ハイラ。
「にゃっはは、サーズ様にフォウティア様の連携、さらにはラビ姉が冒険者センター本部にも掛け合って、大企業ローズ=ハイドランジェのアンリーナ、ソルートンの住民や冒険者にも頭下げて協力を得て、最終的には自分が盾になるように振る舞ってるときた。この三人に覚悟決めて腹くくった行動されちゃあ、例え大国だろうとお手上げだろ。惚れた男一人守るために過剰なのは、一体誰なんだって話さー。にゃっははは!」
ヤンキー座りでニヤニヤしていた猫耳フードのクロが、爆笑しながら色々暴露する。
「わ、ちょ、余計な事言うな! この家出猫め~! 自分だってあいつ守りたくて家出続行して側を離れないくせにさ~!」
「にゃふひゃあああ! だって離れたら指輪候補から外れるだろグムゥ、首、首絞めは……ニャホー!」
それを聞いた水着魔女ラビコが真っ赤な顔でクロに飛び掛かり、背後から首絞め。
え……ラビコが商売人アンリーナとかソルートンのみんなに頭を下げた……?
あとクロの家出続行の理由って、そういうことなの?
それマジかよ。全然知らなかったぞ。
「や、宿ジゼリィ=アゼリィも全面協力をしています! お母さんが髪型が特徴的な方々をたくさん雇って、この宿に来る妙な人物は全部追い払ってもらっています! あなたに危険人物が近寄らないように、見張ってもらってもいます! その、皆さん、本当にあなたを守りたいんです。今まで私たちはあなたに、一体どれだけの幸せをもらったことか……それを少しでも返さねばなりません」
宿の娘ロゼリィも興奮気味に言い、俺の手を握ってくる。
髪型が特徴的……それって世紀末覇者軍団のことか。
そういや早朝の愛犬の散歩のときも側にいたらしいし、あいつら……というか、みんなが俺を……
「全ての好循環の源、それを知られたくない。知られたら、他のところに取られてしまうかもしれない。もちろんこの行動は、私たちが先生を縛る一方的なワガママなのかもしれません。先生の心はこことは違う場所に向いているかもしれません……ですが、せめて私たちが先生に受けた暖かな想いを、救われた命の恩を、少しでも返したい。みなさん、その一心で、先生をお守り出来るのならば、何をするにも迷いは一切ありません。覚悟だって、当に決まっています」
騎士ハイラが、真面目な顔で俺を見てくる。
そうか……銀の妖狐の撃退だってラビコがやったとなっているし、それもラビコが冒険者センターに掛け合って情報規制したしサーズ姫様だってそうだし、ロゼリィもクロもハイラも、みんな……
「……」
バニー娘アプティも俺をじーっと見てくる。
アプティも、今回はアーデルニとドロシーもわざわざ来てくれたし……宿のみんなも世紀末覇者軍団も、ソルートンのみんなも……
「ベッス」
みんなの想いをどう受け止めたらいいのか……と迷っていたら、愛犬ベスがしっかりと俺の横に立ち、同じ方向を見てくれた。
俺だって、どれだけベスに助けられたか……ロゼリィにだってラビコにもアプティにもクロにも……みんな俺を守ろうと……
……何を迷うのか。
誰の押しつけでもないし、ワガママでもない。
俺がここにいるのは、縛られているわけではなく、ソルートンが、みんなが好きだから。
俺の心はソルートンにあるし、離れることは、絶対に無い。
他のところ? 誰が行くか。
この宿に部屋だって買ったんだ、ここを離れるわけがないだろう。
俺の異世界生活の始まりはソルートンであり、いつか来るであろう終わりだって、ソルートンで迎える。
俺はもう、そう決めているのだ。
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




