六百八十五話 難航する説明と帰らないメイドバニー様
「それで~、外から女を何人も引っ張ってきたのはどういうつもりなのかな~?」
お腹が無限にくすぐったいタイムがやっと終わり、俺ぐったり。
その俺とは対照的に、なんだか満足気な愛犬ベスとバニー衣装の女性三人を連れて宿ジゼリィ=アゼリィに帰る。
しかし入口に水着魔女ラビコ、宿の娘ロゼリィ、猫耳フードのクロと騎士ハイラが立っていて、ラビコに笑顔で詰問された。
「え、あ、その……俺にもなんだかさっぱりで……」
嘘はついていない。
マジで俺だって、今日のことは意味わからないし。
どうすれば今日起きたことを簡潔に伝えられるのか……お願い、あらすじ得意マンがいたら今すぐテレパシーで送って……。
「あちらの皆さんが、早朝にハイラさんと女性を二人連れて商店街の端の建物に入っていったのを見たと言っていますし、お昼にはハイラさんにアプティ、さらにそちらの女性二人と冒険者センターで楽しそうにごはんを食べていたそうですし、夜には、その、星神の国で出会った闇の……女性を連れて来て、今も夜の砂浜に全員と……しかも不思議な声が響いていたとか……」
宿の娘ロゼリィが、食堂にいるモヒカンやらドレッドヘアーの集団を指し、俺の後ろにいるメイドバニーであるアーデルニとドロシーをチラチラと見る。
ちょ、ロゼリィさん、それ、すんごい偏見的ぃ!
闇の人には、男性のグレイフィルさんもいましたって!
つかモヒカンたち、早朝から近くにいたのかよ……! しかも余計なトラブル起きそうな伝え方しやがって!
俺がギロっとモヒカンたちを見ると、蜘蛛の子を散らすように食堂から逃げて行った。
「にゃっはは……なぁキングよぉ、そこまでヤるンならよ、アタシたちに声かけろって。今日だけで何人の女とヤってンだよ。朝に初心者の二人にハイラ、昼から夜にかけてハイラにアプティ含むそっちの三人にさっきの闇の女、しかも最後は深夜の砂浜で野外プレイでエンドとかよぉ、はっちゃけすぎだろ」
猫耳フードのクロが俺の記憶に一切ない話を語り始めたが、それ、誰の物語ですか……。
俺は昨日も今日も、そして明日も明後日も、堂々童貞ですってば。
「やっぱり先生って、朝からすごいんですねぇ。でも最後はお呼ばれされませんでした……つまり私では物足りなかったと……ううう、私ももっと鍛えて、先生の激しさに応えられるようにしないと……!」
ハイラが鼻息荒く言うが、いやハイラさん、あなた朝からずっと俺と一緒でしたよね?
お願いだから、当事者として誤解を解くのに協力して下さいよ。
「ええと、初心者のみんなとは朝ごはんを食べただけで、そして帰り道に出会ったこちらの二人は……アプティのお知り合いだそうです。パーティーでの連携を学びたいとか。それで俺が、冒険者センターでのクエストで連携を学びましょう、と提案しクエストをやっていたら、夜の山で例の闇の種族の方が接触してきまして……」
場所を、宿の二階にある俺の部屋に移し、俺が簡潔に説明。
宿一階の誰でも入れる食堂では、言えない話もあるしな。
闇の種族はラビコもロゼリィもクロも知っているだろうけど、バニー娘アプティの正体を知っているのは、俺と水着魔女ラビコだけだからな。
アーデルニとドロシーの正体は……言わないほうがいいだろう。
まぁラビコは銀の妖狐の島に乗り込んできた当事者だから、アーデルニとドロシーの正体を知っているっぽいけども。
「アプティのお知り合い……そういえば皆さんお揃いのバニー耳を付けて……あ、いえ、初めまして、この宿のオーナーの娘でロゼリィと言います」
宿の娘ロゼリィが、アプティに知り合いがいたんだ……的な驚きの顔をしているが、全員頭に着けているバニー耳を見て納得の顔に変化。
お揃いのバニー耳で納得って……ロゼリィには彼女たちがバニー耳同盟、に見えたのだろうか……。
「アーデルニ、ドロシー、簡潔に自己紹介を頼むよ」
「はい、アーデルニと申します。アプティ様にご主人様をご紹介していただき、今回はパーティー連携を学びに来ました。しばらくお世話になります」
「ドロシーだよ! この宿って、ごはんがすっごく美味しい! やっぱりランディーネが認めているだけはあるね!」
俺が二人に自己紹介を促すと、二人が応じてくれた。
一応、自分たちの正体については、言わないようにはお願いしてある。
「……ふぅ~ん、アプティ様にご主人様、ね。はぁ……まぁいいか~、そっちは社長を信じるとして~……闇の蒸気モンスターの二人、あれはどういうこと。何をしにソルートンに来たの」
水着魔女ラビコがアーデルニとドロシーについて何か言いたげだが、俺の目を見て溜息。
だがさすがに闇の種族の二人のことはスルー出来ない、といった感じで、厳しい視線を向けてくる。
「え、さっきのお二人って、蒸気モンスターの方々だったんですか……? てっきり先生のお知り合いで、先生の愉快なお腹舐めライバルかと思っていました」
騎士ハイラが驚きの顔で言うが、そう、山からずっと一緒にいたお二人、マジで銀の妖狐クラスの上位蒸気モンスターの方々です……。
決して俺の愉快な知り合いでも、あなたのお腹舐めライバルでもありません。
「お腹舐めって……何です?」
ハイラのセリフに、宿の娘ロゼリィが反応。
あああああ……お願いロゼリィ、今そこはスルーして……。
とっても説明が面倒だから……。
「にゃっはは、あれ、こないだ星神の国で出会った、闇の種族のリーダールリエラだろ? わざわざ星神の国からソルートンまで来たって……大丈夫なのか、キング」
猫耳フードのクロが、不安そうに聞いてくる。
まぁ……普通はそういう反応だよな。
夕食のときも、クロは「ちょっと怖えンだけど……」と言っていたし。
「結果だけ言うと……大丈夫、だと思う」
いきなり接触してきて驚いたけど、どうやら星神の国での出来事に怒っていて、それで同じことをやり返しに来た……ってことだと思う。
愛犬ベスの咆哮で着ていた服が消し飛んで裸にされたことを、ずっと『許さんぞ』とか言っていたし。
で、マジでそれだけをやり返しに来た、そうです。
でもルリエラさん、俺を転ばせてお腹を舐めてきて、ふにゃんと言え! とか言っていたけど、あれはなんなの。
てっきり裸に剥かれるかと思った。
そういえば銀の妖狐が、「ふにゃん、だっけ? そのセリフも君に言わせようとしてくるかもね」って爆笑していたな。
……うーん、お腹舐めは意味が分からないが、マジでルリエラさん、銀の妖狐の予想通りの行動をしてきたってことか。
「星神の国のことを覚えているかな。サリディアの大穴で、ルリエラさんに襲われたやつ。愛犬ベスの咆哮の衝撃で着ていた服が消し飛んで、裸で転んでしまったことを根に持っていたそうだよ。それを、本当にそれだけを俺にやり返そうと、わざわざソルートンに来たとか……」
それともう一つ、俺に忠告というか宣言が目的でもあったそうだけど、そっちは銀の妖狐とかアプティとか、水の種族のお話になるから……言えないか。
「ぶっ……本当なの、それ~? だったら平和的でいいんだけど~」
俺の言葉に水着魔女ラビコが吹き出し、チラチラとバニー娘アプティ、アーデルニ、ドロシーを見ている。
……ああ、その話とアプティたちが関係している、と思っているのか。
さすがラビコさん、その通りです。
銀の妖狐がルリエラさんの行動を予測し、対策として彼女たちを派遣したっぽいです。
と、とりあえずこのへんでお開きってことにしましょう……大体説明はしたし、さすがに朝から色々あり過ぎて眠いっす……
「…………マスター、おはようございます……」
翌朝、いつものごとく、バニー娘アプティに起こされる。
ああ、やっぱいいな、アプティに起こされるのは。
「ちょ、どいてくださいよアプティ様ー、私もご主人様に添い寝ー」
「本によると、腕枕、なるものがポイント高いそうです。それをやりましょう、腕をこうして伸ばして……」
なんだ……?
なんか腕を広げられているような……
「……ぉはよ……って、なんだ? な、なんでアーデルニとドロシーが俺の部屋に……!」
ぼーっとした頭を振り、周囲を確認するが、いつものバニー娘アプティ以外に、似たようなシルエットの女性が二人いる。
はて……? アプティの分身か……?
って違う!
アーデルニとドロシーが、寝ている俺の両腕を広げて頭を乗せようとしている……!
なんだこれ!
「ああー……ご主人様起きちゃったー……。ちぇーアプティ様さえ邪魔しなければ出来たのにー」
「ご主人様、本によりますと、この腕枕が効果的らしいのです。ぜひとも体験してみたいのですが」
腕枕を体験……?
一体、なんの話なんだ……
つかこの二人、ルリエラさんが撤収して銀の妖狐に言われた任務は終わったはずなのに、帰らないんだ……
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




