六百八十三話 暗闇の襲撃者5 過去の極悪銀の妖狐と現在の銀の妖狐様
「うむ、美味かった。以前から気になっていたが、今日はお前を利用して体験することが出来た。世話になった」
遅い夕食を食べ終え、闇の種族のリーダーであるルリエラさんが満足気な顔をする。
バニー娘アプティが連れてきたメイドバニーたち。
三人の連携が学びたいと言われたので、冒険者センターでクエストを受注。
海でのクエストを終え、次に向かった山でのブルードロップ探索、そのクエスト中に以前星神の国で出会った上位蒸気モンスター、闇の種族の二人に襲われた。
襲われた、と言っても危険な雰囲気ではなく、闇の種族のリーダーであるルリエラさん曰く『やられたことをやり返しに来た』とのことらしい。
星神の国で襲われたとき、愛犬ベスの咆哮で服が全部吹き飛び転んで悲鳴を上げていたが、それをやり返しにきたっぽい。
そういや銀の妖狐が、『絶対に君に同じことをやり返そうとしてくる』とか言っていたな……マジで来るとは驚いた。
しかし闇の種族のことを引きこもりの臆病種族、と銀の妖狐が言っていたが、めっちゃ行動速いじゃねぇか。
……それほどルリエラさんが怒っていたってことか……?
なんか今回も結局、愛犬ベスの咆哮で服が全部吹き飛んでいたなぁ。
その後、ガッツで俺に飛び掛かってきて、裸のまま俺の腹を舐めてきたのは驚いた。
なんでハイラと同じ行動をしたんだ、ルリエラさん……。
そしてなぜか今、その闇の種族のお二人と、水の種族のアプティ、アーデルニ、ドロシーと騎士ハイラで遅い夕食を囲んでいた。
「お気に召したようでよかったです。デザートもありますけど、どうしますか?」
ルリエラさんが満足そうに紅茶を飲み干し、立ち上がる。
一応デザートも用意してあるのだが、お帰りになるっぽいな。
「いや、いい。目的はお前たちが美味いと思う物を食べてみること。それは達成出来た。それとここは私たちには明るすぎて、居心地が良くない。やはり閉鎖的な空間のほうが落ち着く」
「申し訳ございません。決してこちらの宿が悪いと言っているのではなく、我々の性質上、明るく騒がしいところが苦手ということです」
すぐに部下であるイケメン、グレイフィルさんも立ち上がり、フォローをしてくれる。
「いえ、お気になさらず。悪気が無いのは伝わってきますから」
お帰りか。俺も見送ろうと立ち上がる。
「…………おい、お前。ちょっと顔貸せ」
「え……?」
帰るのかと思ったが、ルリエラさんがじーっとバニー娘アプティ、アーデルニ、ドロシーを見て、そのまま視線を俺に移し、顎をしゃくって外に来い的なアクションをする。
ん、え? ツラ貸せとか、ちょっと怖いんですけど……。
水着魔女ラビコが強めの視線でルリエラさんを睨み、バニー娘アプティも無表情ながらじーっと見てくる。
「安心しろ、今回は何もしない。少しお前の話を聞かせろ」
視線に気付いたルリエラさんが肩をすくめ、言う。
今回は、ね。
よく分からんが、愛犬ベスがいれば大丈夫だろう。
「良い闇だ。やはり夜はいい……」
宿を出て少し歩き、ソルートンの砂浜でルリエラさんが立ち止まる。
誰もいない夜の砂浜。
足に伝わる砂の感触、波の音、そして少し冷えた海風が心地いい。
ルリエラさんにグレイフィルさん、そして俺と愛犬ベスが静かに夜の海を眺める。
「……シチューは確かに美味かった。だがお前についてきた目的はそれではない。一つ忠告……いや宣言をさせてもらう」
夜の海を眺めたまま、ルリエラさんが言い放つ。
「今後お前が辿るであろう未来……それは破滅。いや、そんな生易しい言葉では表現出来ない。確実にもっと恐ろしい未来が待っている」
真っすぐ、少し怖い顔で俺を見て言うルリエラさん。
俺が今後辿る未来……?
破滅……?
どういうことだ?
「お前がどういう経緯で今の状況になったのかは知らないし、私はお前と仲良くする気なんてさらさら無いし、正直人間がどうなろうと微塵も興味がない。だが、お前が今後取る行動によっては、我々は最大限抵抗させてもらう」
今の俺の状況?
一体、なんのことだろうか。
「……なぜ水の種族と繋がりを持った。いや、なぜ狩られる側の人間であるお前があの極悪な水の種族と繋がりを持てた」
ご、極悪な水の種族との繋がり……?
それはバニー娘アプティとかのことか?
「お前は知らないだろうが、我々は元々この世界の住人ではない。こことは別の世界に暮らしていた。そこは弱肉強食、弱い者は食われ、強い者が食い生き残る世界。一瞬の油断すら許されない、毎日が殺し合い、騙し合いの世界」
それは銀の妖狐も言っていたな……。
その世界は魔力に溢れ、それをエネルギーとしていたとか。
だがこの世界は魔力が少なく、生きていくのもやっとだとか。
そして……言って良いのか分からない突飛な設定で申し訳ないが、俺もこの世界の人間ではないんですよ。
そちらはおそらく『転移』ですよね。
俺はこことは違う世界から、『転生』してきた元日本人です。
「その厳しい戦いの世界では、力を持った者こそ勝者、生き残る権利を得られる。そしてその中で頭角を表していたのが、陸を支配していた『火の種族』。そして、それより大きな面積、海を支配していた極悪種族、それが『水の種族』だ」
陸を支配していた火に、海を支配していた、水……?
もしかして銀の妖狐って、元の世界では、とても有名な二大種族の一つだったってこと……?
そして火、それはアインエッセリオさんのところか……。
「私が知っている限り、元の世界でのナンバーワンはアージェンゾロ、あいつだ。他種族なんて当たり前、ときには同種族ですら簡単に屠る。おそらく、元の世界で一番殺し、食ったのはあいつだろう。ニヤニヤと笑い、殺しを楽しんでいた」
ルリエラさんが苦い顔で言う。
銀の妖狐の過去、か……。
確かに、水着魔女ラビコとかから聞く銀の妖狐がまさにそれなんだよな。
「こちらに来てからも、あいつは変わらず、同族を、そして人間を食いまくった。情けない話だが、私ではあいつには勝てない。しかも火と手を組みやがって……! もうどうしようもない、仲間を守るため、我らは逃げるように大穴へ逃げ込んだのだ」
ほぅ、ルリエラさんでも銀の妖狐には勝てないのか。
どんだけなんだよ、あいつ……。
「いいか、あいつは過去暴れまわった『千里眼の龍』を復活させようとしている。そしてあろうことか、この世界を壊そうとしている。そんなことになったら、ここに生きている生き物全てが無に帰る」
千里眼の龍……? はて、初めて聞く単語だろうか。
この世界を壊すなんとかは、銀の妖狐から聞いたような気が。
「水の種族が引き入れるほどの人間だ、なにか強みがあるのだろうが、お前は絶対に騙されている。あいつが人間を信じるわけがない。確実に用が済んだら殺されるぞ。お前はこの世界の住人全てを殺すことに加担し、そしてお前も世界と共に死ぬ。水の種族と関わったお前の未来は破滅、その一択だ」
あ……、そういえばそんな計画のことを銀の妖狐が言っていたような。
「元の世界、そしてこちらの世界でも私は逃げていた。だが、この世界は私たちにとって、元の世界より強敵と戦わずに済む安全な世界なんだ。失うわけにはいかない、だから宣言だ、この世界を壊すというのなら、私は全力でお前を阻止する」
ルリエラさんが強い決意の顔で俺を見てくる。
そうか、銀の妖狐はこの世界は僕たちに生きにくいように出来ている、と嘆いていたが、ルリエラさんたち、闇の種族にとっては元の世界より生存競争の少ない生きやすい世界なのか。
なるほど……それぞれで考えって違うものだなぁ。
「大体、この世界の住人であるお前がこの世界を壊すのに加担して、何の得があるのだ。人間なんて短い時間しか生きられないんだ、水の種族などに関わらず、自由に生きたほうが……」
「あの、えっと、ルリエラさんたちは確かずっとサリディアの大穴に引きこもっていたんですよね? 最近の事情はどこまで知っていますか?」
そういや、銀の妖狐と俺が接触したのって最近だもんな。
「なんだ? 最近? 十年から二十年に一回ぐらいの頻度で情報は仕入れているぞ。それで充分だろう」
やはり、情報更新が出来ていない。
つか間隔長っ……、それ、商売人アンリーナが聞いたら多分怒りますよ。
まぁ蒸気モンスターと人間って寿命が違うっぽいから、時間の感覚が違うんだろうけども。
「それ、もうやめたそうですよ。その話、何度も至近距離で語られたし……」
「……は? やめた……? 何を言っているんだお前は」
俺の言葉にルリエラさんが、こいつ頭大丈夫か、みたいな顔をしてくる。
グレイフィルさんも不思議そうな顔。
信じられないかもしれませんが、ええ、マジでやめたっぽいですよ。
「なぁアプティ。もうその話って無くなったんだろ?」
「…………はい。アージェンゾロ様は、マスターに夢中、です……」
俺が背後の暗闇に向かって言うと、返事が。
あ、やっぱりいた、アプティ。
「なっ……! いつからそこにいた!」
「くっ、気配を感じませんでした……!」
俺が呼ぶと、いつもの場所、俺のちょっと斜め後ろに突如現れるバニー娘アプティ。
そしてそれを見て驚くルリエラさんとグレイフィルさん。
ええ、アプティってマジでやばい潜伏能力持っているんですよ。
俺もこのアプティの能力にどれだけ泣かされたことか……鍵は平気で突破してくるわ、気付かれないように部屋に入ってきて、夜の俺の一人祭りを見学してくるわ……
というかアプティさん、銀の妖狐が俺に夢中ってのは、表現おかしくないですかね……
極悪度より、危険度がアップしていませんか……?
「異世界転生したら愛犬ベスのほうが強かったんだが」
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影木とふ




